「コグトレ」というプログラムが教育関係者に注目されている。もともとは、少年院の非行少年たちの認知機能向上のために作られたものだ。なぜ少年院以外の教育現場でも話題なのか。考案者で立命館大学産業社会学部の宮口幸治教授が解説する——。
ランドセルを背負った子供達
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教育関係者なら聞いたことがある「コグトレ」

「コグトレ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。世間一般ではまだ聞き慣れない言葉かもしれないが、教育関係者のあいだでは誰もが一度は聞いたことがあるほど注目されている概念である。

「コグトレ」とはコグニティブ(認知)とトレーニングをかけ合わせた略称で、認知機能に着目した子供たちへの包括的支援プログラムである。現在、多くの小・中学校などで授業前に集中力をつけるために集団で取り組んだり、勉強が苦手な児童に対し個別に行ったりするのに加え、高齢者の認知トレーニングにも活用されている。今、なぜ「コグトレ」がここまで注目されているのだろうか。

『ケーキの切れない非行少年たち』の実態

2019年に私は『ケーキの切れない非行少年たち』という本を出した。医療少年院で勤務していたときの経験をもとに、世間にある犯罪者への誤解などを伝えなければいけないと思い執筆したものだ。驚くべきことに、凶悪犯罪を行った少年たちは「目の前にあるケーキを三等分する」といった簡単な課題に、うんうんと唸って苦しんでいた。彼らは勉強が苦手で、他者とのコミュニケーションもとるのがうまくない様子だった。ケーキをうまく三等分できない子供は、学校ではただの「勉強ができない子」として認識されることが多いが、実はそこに潜むその子たちの「認知機能の弱さ」や「認知の歪み」が気づかれてこなかったのだ。

宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)
宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)

また、彼らのほとんどが家庭での虐待や学校でのイジメ被害にも遭っていた。世間から恐れられ、そして憎まれる非行少年のイメージと明らかに異なる姿がそこにはあった。ある意味、彼らは被害者でもあり、被害者が新たな被害者を生みだすという悲しい現実があった。単に彼らを責め、罰を与えるだけでは解決にならない、そう感じたことが大きい。

『ケーキの切れない非行少年たち』を読んで、犯罪者をまったく違う視点でみるようになった、彼らを犯罪者にしないために教育の大切さを知った、といった感想をいただいた。ある意味、厄介だと思っていた身近にいる人たちの理解の仕方も知ることができた、ということも注目された理由の一つかもしれない。