人工知能(AI)ブームをけん引する米西海岸の都市、サンフランシスコの空洞化が止まらない。在宅勤務に慣れた人たちは週5日出社する暮らしに戻らず、オフィスの空室率は3割を超えた。小売店の撤退や治安問題も相まって「ゴーストタウン」との指摘が増える中、現地では悪評がもたらす負の連鎖への警戒が広がる。
サンフランシスコの目抜き通りにある衣料品店「オールドネイビー」。7月下旬に前を通ると、大柄な男性たちが続々と棚を運び出していた。看板はかかっているものの、店内に服は1着もなく、解体した什器(じゅうき)が積まれているだけ。「とっくに閉店しているよ」。中に入ろうとした観光客に、作業員が面倒くさそうに声をかける。
観光地の「ユニオンスクエア」やケーブルカー乗り場に近く、IT(情報技術)企業などが大型イベントを開く会議場からも歩いて5分ほど。そんな一等地に構えていたアパレル大手の旗艦店は7月初め、24年に及ぶ営業を終えた。
珍しい話ではない。同じ通りに面する百貨店「ノードストローム」は8月中の閉鎖を決め、同系列のアウトレット店は6月末に閉じた。映画館の「シネマーク」、通信会社Tモバイルの販売店、事務用品の「オフィス・デポ」……。小売りやサービス業の撤退はダウンタウンの日常となり、周辺にはテナント募集の広告があふれる。地元メディアによると、2023年だけで20を超す主要な小売店が閉鎖を表明した。
サンフランシスコといえば、オープンAIやアンソロピックといった生成AIブームをけん引する新進気鋭の企業がそろって本社を構える街だ。新型コロナウイルス下の特需で過剰採用をしていたテクノロジー大手で人員整理の動きが相次いだとはいえ、市の失業率は3%とカリフォルニア州や全米の平均を下回る。20~21年ごろと比べれば、人の往来も増えた。それでも撤退のドミノは止まらない。
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