12星座全体の運勢

「飛び地へとアクセスしていくこと」

6月21日には372年ぶりの夏至の日食(新月)がありましたが、7月22日からの「大暑」に前後する7月21日にはそれに続き蟹座での2度目の新月を迎えます。

今回の新月は「取り込まれるべき大きな物語」がテーマだった前回の新月に対するフォローアップ的な位置づけにあり、この一カ月のあいだに土星が山羊座へ戻り“試練や課題”が明確になってきた状況において、改めてこれからその中で生きていきたい世界や価値観を選びなおしていく軌道修正のタイミングなのだと言えるでしょう。

その際、意識していきたいのが「直感に従って選ぶ」ということ。もしいまあなたの前に二つないし複数の選択肢があるなら、以前の自分であれば無意識的にこっちを選んでいたなという“自分が逃げ込みがちな”選択肢(しかし長い目で見れば破綻が明らかな)ではなく、一見奇妙に見えたり、これまでの現実の延長線上から外れたところに現れた“飛び地”的な(したがってほとんど孤立した)特異点、すなわち未知の領野へアクセスするような選択肢を選んでいきたいところです。

蟹座(かに座)

今期のかに座のキーワードは、「思い出の真ん中に」。

蟹座のイラスト
天涯孤独の身となった主人公が、パリで淋しい生活を送りながら詩人になろうとするさまを手記の形式で描いた小説『マルテの手記』には、一貫した筋というものは特になく、パリの街を日々ほっつき歩いてはそこで見たものがしるされ、合間に生と死や愛などへの考察や、読書体験や過去の思い出がつらつらと綴られていきます。

当時のパリは産業革命を経て、より豊かで便利な社会になるべく大都市になっていった時代でしたが、その一方で貧富の差の拡大による一般庶民の悲惨な生活があって、主人公はそういうところをこれでもかと観察しては文章化していく。もし現代に生きていたら、実況系YouTuberになっていたか、ブロガーになっていたのではと思わずにはいられません。ただ、彼がなろうとしているのはあくまで詩人です。

追憶が僕らの血となり、目となり、表情となり、名まえのわからぬものとなり、もはや僕ら自身と区別することができなくなって、初めてふとした偶然に、一編の詩の最初の言葉は、それら思い出の真ん中に思い出の陰からぽっかり生まれて来るのだ。

つまり、彼が書こうとしている詩とは、自分ひとりの力では決して書きえない詩であり、見聞きした都市と一体化していく中で、「思い出の陰からぽっかり生まれて来る」ものであって、彼はそのために日々せっせと仕込みをしている訳です。

今、かに座のあなたの心の中には、どんな思い出たちがひしめき合っているでしょうか。あるいは、この一カ月のあいだ、あなたは何を見聞きし、それをどんな風に心に刻んできましたか。

それがやがて一行の詩となり、あなたそのものを表していくでしょう。


出典:ライナー・マリア・リルケ、大山定一訳『マルテの手記』(岩波文庫)
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<プロフィール>
慶大哲学科卒。学生時代にユング心理学、新プラトン主義思想に出会い、2009年より占星術家として活動。現在はサビアンなど詩的占星術に関心がある。
文/SUGAR イラスト/チヤキ