出典:Experiments with AMP’s new ‘Stories’ format for news
InstagramやFacebookを筆頭に、モバイル、そしてソーシャルメディアの分野で新しいコンテンツフォーマットが勢いを増しています。「Stories(ストーリーズ)」です。
本稿では、ストーリーズについて、メディアビジネスに携わる私たちが注目すべき以下のような点に絞って、整理してみたいと思います。
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ストーリーズは、Snapchatの上で誕生したが、その後、InstagramやFacebookで用いられるようになり大ブレーク。その後、ソーシャルメディア中心にさまざまな亜種が存在し広がりを見せている
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ストーリーズは、初めてモバイルのために誕生した有力なコンテンツフォーマットであり、今後、モバイルファーストなメディア運営にとり重要な選択肢となる可能性がある
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ニュースをはじめとするメディア運営でも、ストーリーズを前提とした“ストーリーテリング(記事や情報の伝え方)”に取り組む必要が生じる
「Instagram大躍進」の原動力、ストーリーズとは
まず、「ストーリーズとは何か」について整理します。
ストーリーズとは、モバイル革命*が起こった2007年から数えて6年後の2013年、ソーシャルメディアのSnapchat(Snap社)の下で誕生しました。
* iPhoneの誕生が、2007年1月
まさに、“初めてのモバイルに特化したコンテンツフォーマット”(モバイルネイティブ)*といえるでしょう(図1)。
* ストーリーズを、コンテンツフォーマットではなく、「ストーリーズUI」と見なす考えもあります
図1 Snapchatの歴史と、2013年に誕生した「ストーリーズ」(出典:Snap Inc. Form S-1)
ストーリーズの大ブレークは、皮肉にもライバルのInstagramがSnapchatを模倣したことから。2016年10月、Snapchatとの競合に苦しんでいたInstagramは、ライバルの優越点を積極的に取り込む作戦に打って出て、急速な再成長軌道を描くことになりました。
その後は、Instagramの成功に続き、Facebook本体そしてWhatsAppと、Facebookファミリー全体がストーリーズを採用。いまではそれぞれが5億DAU(Daily Active Users)に到達するというとてつもない成功を実現しています(図2)。
図2 Instagram、WhatsApp、そしてFacebookのストーリーズが、いずれも5億DAUを突破(出典:Facebook's Snapchat Clones Have 500M Users Each)
次に、複数存在するストーリーズの特徴を、共通項を軸に整理してみましょう。
- スマートフォンのフルスクリーンを用いて、動画像にテキストを加えたショートムービーを表示する
- 視聴するユーザーが行う操作は、次のストーリーズにスキップしたいとき、画面をタップするだけ
- コンテンツは、投稿後24時間で消滅するため、パブリックというよりプライベートなコミュニケーションへの傾きが強い
こうしてみると、ストーリーズが、これまでのWeb上での主要なコンテンツフォーマットの法則をことごとく裏切っていることが分かります。
これまでのWeb上の主要なコンテンツフォーマットとは、「ページ」と「タイムライン(ニュースフィード)」です(図3)。
図3 「ページ」の概念(左)と、「タイムライン」の概念(右)
ユーザーにアクティブな操作を求めない進化
ページは、「印刷ページ」を模しており、その各所に埋め込まれたリンクをクリック(またはタップ)して情報を遷移します。遷移が期待外れであれば、「戻る」操作をします。大きな画面内に複数リンクがあるケースでは、ユーザーの操作は試行錯誤的なものとなります。
一方、ブログを通じて誕生した時系列表示のタイムライン(ニュースフィード)は、Twitterが普及させ、その後、Facebookがニュースフィードとして取り入れました。
リンクによる遷移ではなく、スクロールによる遷移が操作の中心です。
ユーザーは、過去⇔現在の軸を中心にしてシンプルな操作を行うだけです。
ページもタイムラインも、パーソナルコンピュータ(PC)の画面上での操作を前提に誕生した経緯があります。いずれも、モバイル時代に引き継がれましたが、ストーリーズは、モバイル環境を完全に所与として誕生しました。
図4 「ページ」と「タイムライン」と異なる「ストーリーズ」。
「滞在」が主眼に
これらのコンテンツフォーマットを比較すれば、ユーザーが積極的に行う操作の範囲が、ストーリーズに向かって、極端に小さくなってきていることは明らかです。
今回は詳しく触れませんが、コンテンツからコンテンツへの遷移は、アルゴリズムが関与しており、ユーザーはそれを意識しません。ストーリーズにいたって、ユーザーは積極的な移動(遷移)ではなく、「滞在」へと動機づけられることになりました(図4)。
新たなストーリーテリングに向けて
ストーリーズは、見てきたように、モバイル時代のコンテンツフォーマットとして、メディア全体にその影響を与えつつあります。それは以下のような点についてです。
- 若者を中心に、主要ソーシャルメディアを通じて親しんだフォーマットであること
- モバイルに最適化しており、動画・画像・テキストを総合する豊かな表現が可能なこと
- ユーザーの関心をつかめば、「もっと見る」でサイトへの誘導もできる
イギリスの公共放送機関であるBBCは、R&D部門の中にニュースの未来を研究するプロジェクト「BBC News Labs」を設置し、「ニュース」を伝える最適な手法やフォーマットを精力的にプロトタイピングしています。驚くのは、2018年に35ものプロトタイプを作りそれを公開していることです。
その喫緊のテーマのひとつが、「モバイル・ストーリーテリング」です。
Googleが主導するオープンソースイニシアティブ「AMP (Accelerated Mobile Pages)」から、ストーリーズ型のフォーマットが誕生したことで、News Labチームは、JSONからAMPストーリーズを生成できるCMSを開発、「極めて簡単にストーリーズを生成できる」仕組みを築いたとしています(記事参照)。
図5 イギリスBBCは、AMPベースのストーリーズ記事化に取り組む
InstagramやFacebookなど普及したアプリ(サービス)をプラットフォームとしてニュースメディアを営む分散型アプローチで模索が進む一方、BBCのように、AMP技術を用いてストーリーズ記事をオープンWeb上へと展開していくケース(BBC News Labsは「アプリではなくWeb」をポリシーとしています)も出てきています(厳密には、こちらも分散型ではあるのですが)。
新聞はもちろん、TVも観ない層に対し、良質なニュースの「発見」「体験」、そしてその先の「深掘り」へと導くには、ストーリーズは欠かせないアプローチとなる可能性があります。
もちろん、そのためにはテクノロジーやツールの整備に止まらず、ストーリーズを所与のフォーマットとしたストーリーテリングに長けた編集者、記者の誕生が待たれます。それはすぐ近くまできているはずです。
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著者紹介
藤村厚夫(ふじむら・あつお)。現在スマートニュースにてフェローを務める。1978年法政大学経済学部卒業。90年代に、株式会社アスキー(当時)で書籍・雑誌編集者、日本アイ・ビー・エム株式会社でマーケティング責任者を経て、2000年に株式会社アットマーク・アイティを起業。その後、合併を経てアイティメディア株式会社代表取締役会長。2013年よりスマートニュース株式会社 執行役員 メディア事業開発担当(Senior Vice President of Media Business Development)など歴任。
本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。