来年3月に控えた英国の欧州連合(EU)からの離脱(「ブレグジット」)まであと8ヵ月。ここにきて、主要閣僚らが次々と辞任する事態が発生している。
ブレグジット強硬派のデービス離脱担当相(8日夜)に続き、ジョンソン外相(9日午後)が辞任したほか、閣外大臣や政務秘書官も身を引いた。メイ首相はさっそく新たな人事を発表したものの、政権の屋台骨は大きく揺らいだ。
一体、何が起きているのか? 在英ジャーナリスト・小林恭子氏が緊急リポート。
デービス、そしてジョンソン…
「ボリス、お前もか?」
10日付の高級紙「i(アイ)」は、その1面にブルーのネクタイを締めた「ボリス」ことボリス・ジョンソン前外相がこちらを見る写真を載せた。ブルーは与党・保守党の色である。
こんな見出しがつけられたのも、無理はない。
9日午後に明らかになったジョンソン氏の「電撃辞任」の発表は、前日8日夜のデービス氏の辞任から数時間しか経っていない。「デービス氏の辞任に驚いていたら、お前もか!」という気持ちが込められている。
ブレグジット交渉を続ける英国で、離脱担当大臣が辞任――これだけでも大きなニュースで、9日朝、英国メディア界・政界は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。ブレグジット交渉の行方はどうなるのか、メイ政権が瓦解するのか、と。
追い打ちをかけたのが、ジョンソン氏の突然の辞任だった。この日はバルカン諸国への支援についての会議が開催され、欧州各国から集まった政治家たちの前でジョンソン氏は演説するはずだった。しかし、待てど暮らせどその姿は見えなかった。
同氏が辞任していたことがわかると、激震が走った。2度目の大物閣僚の辞任という要素以外に、ジョンソン氏は政界、特に保守党内で特別な位置にいるからだ。
同氏は一時党首の最有力候補と言われた人物で、ブレグジットに向けての国民投票(2016年6月)では離脱派運動組織「ボート・リーブ」を率いた。保守党大物政治家の中で「好感度」では常にトップに来る。
メイ首相にとって、ジョンソン氏、そしてデービス氏はなくてはならない人材だった。
というのも、メイ氏はもともとEU残留派だったが、2016年7月の政権立ち上げ時、離脱支持派を閣内に入れてバランスをとることで、「自分はブレグジット実現に最適な首相」であることを国民に示す必要があった。メイ政権にブレグジット政権としての合法性を与えようとした。
こうしてジョンソン氏を外相に、デービス氏を新設の離脱担当相に、そして同じく離脱派のフォックス氏を国際貿易相、ゴーブ氏を司法相にした。
ジョンソン氏やデービス氏に辞任されてしまっては、「ブレグジットに最適の首相・政権」という合法性に疑問符が付いてしまう。人選をした自分の面目も丸つぶれだ。
デービス氏だけだったら「例外」として処理することも可能だったが、ブレグジット実現に大きな力を発揮した人気者ジョンソン氏にまで去られてしまっては、言葉もないほどの打撃となる。
しかも、元ジャーナリストだったジョンソン氏は、辛辣な辞任書簡を書いて、外務省を後にしたのである。