ドイツでも日本でも、特に高学歴、文系親の間で、出来るだけ自然な子育てをしたい、という層が一定数います。みんな、子育てに熱心で、育児書を色々読み、よく研究しています。

 

私自身も、ゲームやテレビを見すぎたり、市販の甘いものをあげすぎるのは反対だし、出来るだけ食べ物は汚染の少ないものを与えたいです。そして病気の時はすぐに薬に頼るのではなく、ある程度は子供の治る力を信じて様子を見たいと思っています。子供は、自然の中で遊ぶ時間を多く持ちながら育つのが理想です。

 

ただ、その流れの中で、ワクチンは体に異物を入れる行為で、自然に罹患して免疫をつけたほうがいい、今の先進国では衛生状態が改善して、病気自体が流行しないのだから、(体にとって異物である)ワクチンをしてまで免疫をつけることはない、ワクチンは製薬業界の陰謀、自閉症の原因になるとかという意見を聞くことが多々あります。私が日常会うママ友から、Facebookでつながっているお友達まで、そういう意見を広めている人に会うことは、まれではありません。

 

子供が生まれて、出来るだけいい物を与えたいという思いからオーガニックのご飯や服を与えるところまでは、わたしも経験しました。布おむつをあて、出来るだけ薬を出さない小児科に行っていました。

 

でも、自然派の流れに乗る親の中で、ワクチン拒否も批判なしというか、オーガニックのご飯を子供に与えるのと同じレベルで考えている人が散見され、それは、すごく危険なことだという思いがずっとありました。子供のことを思ってのことなのに、ひどい危険に子供を晒してる。今回、Facebookでお友達が反ワクチン運動家の意見を広めていたことをきっかけに、自分の意見をまとめてみることにしました。この記事は、自分の考えをまとめると同時に、具体的な友人に向けて書いています。

 

普段子育ての中で意見の相違がある場合、その子が殴られているのでもない限り、人には人の考え方がある、として特に意見を戦わせることもなく、あなたはそういう考えなのね、と認めるのを基本の姿勢にしてきました。それが良識のある大人と思います。

 

しかし、ワクチン接種を拒否する人たちに対しては、その姿勢を取り続けることで社会にどんどんワクチン拒否が広がった場合、子供の福祉、社会全体を著しく害することになるのではないか?それは、個人の選択の自由として扱うべきではなく、決定的に間違っているものとして、禁止され、ワクチン接種義務が導入されるほうがいいのではないか、という思いを強くしてきました。その考えに至るようになった経緯をまず書きます。

 

私の娘が赤ちゃんの時に、日本人のお友達から、「イギリス人のママ友に、MMRは自閉症の原因になるから受けさせないほうが良い、って言われたけどあなたはどうする?」というような内容のことを言われたことがあります。

 

いろいろ調べた結果、その根拠となる論文はすでに大規模な検証の結果否定され、今はその医師自身も医師免許をはく奪されていることがわかりました。こちらに詳しく経緯が説明されています。(日本語)

http://www.geocities.jp/symyky1019/Autism-mercury.htm

 

Wikipedia 医師アンドリュー・ウェイクフィールドについてのページ。(日本語)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89

 

上記の記事で予防医学の権威として挙げられているCDC(アメリカ疾病予防センター)、WHO(世界保健機構)、FDA(アメリカ食品医薬局)

においても、自閉症と予防接種の関係は否定されています。(英語)

https://www.cdc.gov/vaccinesafety/concerns/autism.html

https://www.fda.gov/BiologicsBloodVaccines/SafetyAvailability/VaccineSafety/UCM096228

http://www.who.int/vaccine_safety/committee/topics/mmr/mmr_autism/en/

 

このようにいろいろなリンクをあげて、それは事実ではないよ、ということを説明したつもりでいましたが、しばらくした後で彼女から聞いたのは、「ワクチンが自閉症の原因なのは常識だよ」という言葉でした。この専門家には全くのねつ造として否定されている論文は、その後もうわさとしての力を失わず、繰り返し新生児をもつ親の間で伝わり、それが「常識」として定着してしまったのでしょう。そして、専門家が詳細な検証の上に達した結論よりも、周りのママ友がみんな言っていることを正しい知識してとらえてしまうんだ、、、どうしよう、という無力感を覚えました。

 

また、「現在の衛生状態が向上した先進国では、予防接種は必要ないんじゃない?」と、やはり子供にワクチンを受けさせていない従姉が言っていました。

 

これは全く根拠のない理由であることは、最近の沖縄での麻疹流行を見てもわかります。また、私が6年住んでいたドイツベルリンでは、自然派の親が多く、ワクチンを子供に受けさせていない親が多くいます。そこで、2015年に1歳半の男の子が、麻疹で死亡しました。この子は他の予防注射は受けていましたが、MMRは未接種でした。自然派の両親が多いベルリンでは、年々ワクチン接種率が下がっており、2001年には週1件ほどで推移していた麻疹患者が、2014年には週88件を記録し、大流行の様相です。(ソース)http://www.spiegel.de/gesundheit/diagnose/masern-in-berlin-kleinkind-gestorben-a-1020008.html

 

この時は、ベルリンのベビーグループでは、「あなたの子は予防接種してる??」とよく聞かれ、みんなすごくナーバスになっていました。

★追記 ドイツでは2020年3月から、麻疹の予防接種義務があり、幼稚園や小学校に入るときに、予防接種証明を提示することが求められています。


 

この時いろいろ調べる中で、予防接種には、自分の子を守る以外にも、集団免疫をあげるという重要な役割があることを知りました。

予防接種をしている人が多ければ多いほど、その集団は感染症に対して強くなる、流行が起きなくなるという役割です。

 

ソースhttps://ameblo.jp/february-chocolate/entry-11501350903.html

 

つまり、予防接種をしていない子が病気にかからずにいられるのは、ひとえに他の人々が予防接種をしていて、集団免疫をあげている結果なのです。ということは、反ワクチン派が多数派になり、接種率が下がっていくと、未接種の乳幼児、免疫不全の人、お年寄りといった弱いものから感染し、命の危険にさらされます。以下は反ワクチン運動の結果、アメリカで感染率が上がっていることを述べている記事です。(英語) http://www.afpbb.com/articles/-/3160910

 

子供に予防接種をしないという選択をすることは、自分の子を危険にさらすだけではなく、他の人を危険にさらす行為です。そのため、私は予防接種をする、しないは個人の選択の自由の範囲にとどめておくべきではないという思いを強くしてきました。

 

ドイツに在住のお医者さんのブログに、私の意見にすごく近い記事をかいていらっしゃる方がいるので、読んでみてください。(日本語)

https://germanmed.exblog.jp/17130435/

 

こちらからの引用

---------------------------------------

少し前に、日本の知人の子が、
3歳でごく普通におたふく風邪にかかり、
片耳の聴力を失いました。

相談を受け、色々と調べてみて、大きなショックを受けました。
予防接種率の低い日本での、ムンプス難聴の何と多い事か!
しかも、昔は「おたふく風邪罹患患者二万人に一人」などと言われたようですが、
実際には、もっともっと多く、数字によっては何百人に一人というものもあり、
決して稀なケースとは言えないようなのです。

----------------------------------------

今日「予防接種は自然に逆らう」「自然に罹患しておいた方がいい」という迷信は、日独問わずとても根強く、
それを言うなら、小さな子どもがバタバタ死んでいった、昔の状態が「自然」なのです。
予防接種のリスクと、罹患のリスク。天秤にかけて、しっかり比較して決めるべきです。

------------------------------------------------
 

私がこういう意見を言うと、ワクチンを子供に接種している人でも、「それは個人の信念、選択の自由だから。反ワクチンの人たちにも、同じぐらいワクチンを悪いと信じる根拠があるんでしょう」というコメントをいただくことが多々あります。しかし、その反ワクチンの「根拠」を、ワクチンが有効だとする根拠と同等なものとして扱うことができるのは、どちらも同じぐらいの科学的なエビデンス持っている場合のみです。反ワクチンの根拠と呼ばれるものは、科学的にはその有効性を否定されています。色々論文も出ていますが、どれくらいのサンプル数を取っているのか?その実験手法は?というところを見て行くと、きちんとした研究と言えるものはほとんどない、というのが自身も科学者であるわたしの夫の結論です。

 

記憶に新しいところでは、子宮頸がんワクチンの問題があります。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7124 (日本語)

子宮頸がんワクチンによって脳障害が引き起こされた、という主張の裏付けるとされる実験は、まったく科学的な意味を持たないものだということが書かれています。この記事の著者、村中璃子さんは、困難や敵意にも関わらず、公共の利益に資するサイエンスとエビデンスを広めた人物に与える国際賞である、ジョン・マドックス賞を2017年に受賞しています。

https://www.nature.com/press_releases/john-maddox-2017.html (英語)

https://note.mu/rikomuranaka/n/ncd28533a0214(日本語訳)

 

「子宮頸がんワクチンは、子宮頚がんやその他のがんを防ぐ鍵であるとして科学界・医学界において広く認知され、世界保健機構(WHO)にも推奨されている。しかし、日本ではこのワクチンへの信頼を損なわせる誤った情報キャンペーンが行われ、70%だった接種率は1%以下に落ち込んだ。
村中氏のワクチンの安全性に関するエビデンスを社会に伝えようとする仕事に対し、訴訟で沈黙させ、専門家としての評価を傷つけようとする力が執拗に働いた。しかし、村中氏は、科学的エビデンスに裏づけられた情報が日本の家族の手に届くよう、そして、世界の公衆衛生のために努力し続けた。」

というのが受賞の理由です。

彼女の受賞スピーチも素晴らしいです。

https://note.mu/rikomuranaka/n/n64eb122ac396 (日本語)

 

昨今インターネットとSNSが広まる中、どんな意見であろうとも、自分の立場を裏付ける「専門家」を見つけることができるし、同じ考え方を持つ同士を見つけることも容易となりました。そこですごく危険なのは、「裏づけ」と「同士」が得られたことで、それ以上自分の意見を疑ってみる動機を失うことです。その「裏付け」が、極端な、専門家の間では全く受け入れられていない意見だとしても、例えばその人が「医師」であり、「権威と戦う革命家」で「良識的な議論」をしているという体裁を取っていれば、素人は自分の意見に沿った考えを述べてくれるその人の意見を信じるでしょう。そして、何が専門家の間で広く受け入れられている「通説」なのか、何が一握りの偏った人たちが声高に訴えている「反対意見」なのか区別できないまま、どちらも同等の価値を持つ意見として扱ってしまいます。

 

しかしそれは同等の価値をもつ意見の戦わせ合いなどではなく、実際は、正しい知識を持って事実に基づいて語る専門家と、(専門家社会では相手にされない)一握りの扇動家と、自分の不安(この場合はワクチンは自然に反するものではないか?子供に害を与えるのではないか?という思い)を肯定されたことによって、その人を信じることになった人々との戦いです。

 

また、私にも経験があるのですが、人は、自分が信頼する人が多く所属するコミュニティの言うことは、批判なしにたやすく信じてしまう傾向があります。

 

「自然派」という流れには、一定の「よい」とされているものがあります。玄米菜食、モンテッソーリ、シュタイナー教育、森の幼稚園、自然素材の服や建材、自然の中での暮らし、ホメオパシー、鍼灸、指圧、etc....

 

そして、一定の悪いとされているものもあります。抗生物質を大量に処方する医師、検査漬けの医療、テレビ、ゲーム、スマホ、添加物が大量に入ったお菓子・・・そして、ワクチンもこのカテゴリーに入れている人が良くいます。


「良いところ」に挙げたものには、、私にも好きなものが多いです。オーガニックやマクロビオテックの食事はおいしいと感じます。森の幼稚園も、シュタイナーもモンテッソーリもすべて子供の教育のために検討しました。

また、鍼灸や指圧も大好きで、腰痛や「なんとなく具合が悪い」という時にはいつも助けてもらっています。

 

そして、私も現在の医療には賛同できないこともたくさんあります。例えば、日本で医者に行くたびに、いつも大量に処方される薬、特に抗生物質には本当に必要なのか?という疑問がいつもありますし、必要以上に薬を出さないお医者さんを選ぶように心がけています。(ドイツのお医者さんはそもそも薬をほとんど出しません)。

 

でも、ワクチンをしないという選択を、「自然派のみんなが賛成していることだから」と、無批判に受け入れないでほしいのです。

ポリオやジフテリア、今はワクチンが普及したおかげであまり脅威を身近に感じないかもしれませんが、昔は死んだり、重篤な後遺症が残る病気だったのです。

 

自分が属する、信頼する人たちから成り立つコミュニティの意見は誰でも容易に信じてしまいますし、それを否定されると、嫌な気持ちがすると思います。それでも、子供にかかわることだからこそ、一つ一つ取捨選択を重ねることを忘れないでほしいです。

 

私の意見があなたにどれだけ説得力を持つのかわかりません。ワクチンを子供に受けさせないのも、ワクチンを受けさせないという選択肢を広めるのも、子どもを大切に思う、そして良いものをいろんな人に知ってもらいたい気持ちからでしょう。でも、あなたのいるコミュニティの中で大勢を占めるであろう、『ワクチンは危険だ』という情報だけではなく、『実は安全で、意味のあることだ』という情報にも耳を傾けてくれたらと思います。

 

最後に、上記のブログからの引用をもう一つ・・・。

https://germanmed.exblog.jp/23611570/

---------------------------------------------

昔は、夜中の急患に、よくジフテリアの子どもがいた。
呼ばれて駆けつけても、
窒息して死んでゆくのを、なす術もなく見ているだけ。
泣く力もないからね、凄く静かな死なんだよ。
もう堪らなくて、自分にうつる危険性なんてどうでもよくて、
人工呼吸したり、何とか肺を押したりしてみるんだけど、
顔色がだんだん灰色になって、終わるんだ。

今の平和な時代の、予防接種反対論者の親に、見せてやりたかったよ。