Inc.:とんでもない人が権力の座に就いてしまうケースというのは、誰もが目にしている現実です。それにしても、あんなにひどい、無能な人が、いったいどうやってそこまで上り詰めたのか不思議に思いませんか?

短期的には、妄想的なうぬぼれがかえって出世に役立ったり、不快な言動がまかり通ってしまったりするかもしれません。しかし、少なくともある程度まで行けば、実績が重要視され、あまりにもひどい人間はふるい落とされそうなものです。ですが、悲しいことに、そうはならないケースがとても多いのです。

これに関する非常に興味深い説明が、新しい科学研究で示されました。それは、とんでもない人が出世しているのではなく、権力を手にすると、とんでもない人になってしまいがちなのだ、というものです。

権力は外傷性脳損傷に等しい?

これは、まったくの新しい知見ではありません。「権力は腐敗する」という公理の実例が、文学や歴史には数多く記されています。しかしこの昔からの通説に、今、新たな科学的切り口が加わろうとしているとThe Atlanticの記事でJerry Useem氏が述べています。権力は、人の行動を変えるだけでなく、脳を物理的に変えてしまうことが発見されたというのです。

Useem氏の記事によると、カナダのマクマスター大学の神経科学者Sukhvinder Obhi博士が「権力をもった人とさほどもっていない人の頭に経頭蓋磁気刺激(TMS)を行って反応を比較したところ、権力をもつと、共感に不可欠であるとされる『ミラーリング』という特定の神経機構が損なわれることを発見した」そうです。

つまり「人はいったん権力をもつと、それを得るために必要だった能力を失ってしまうということ」だと付け加えています。

極端な話だという人のために、Useem氏はさらなる証拠を数多く挙げています。権力をもった人は、脳画像に違いが見られるだけではありません。数十年にわたる研究で、トップに立つ人は、外傷性脳損傷を受けたかのような振る舞いをすることが示されているといいます。具体的には、より衝動的で、リスク認識が甘く、他人の立場に立ってものをみるのが苦手、などの特徴を指します。

権力をもった人は、たとえ極力共感するよう研究者から特別に指示されても、それがうまくできなかったそうなのです。これはつまり、権力をもつと共感する習慣がなくなるばかりか、しようと思ってもできなくなってしまうということです。

これからリーダーになる人へ

これらの結果は、いずれトップに立ち、かつ人間としての品性と、他者を理解し気持ちを通じ合わせる能力をも保ちたいと思っている人には憂鬱なものです。しかし、権力は、たしかにあなたを共感力から引き離す強力な力をもってはいますが、だからといって、それに抗うのが不可能というわけではありません。

「かつての、力をもっていなかった自分を思い出すことで共感力を保持できる人もいる」とUseem氏は提案しています。もう1つは、うぬぼれそうになった自分を現実に引き戻してくれる「監視役」をもつことです。たとえば、ウィンストン・チャーチルの夫人は、彼が高慢だと感じると憶さず注意したといいます。

また、PepsiCoのCEO Indra Nooyi氏の母は、会社の役員に任命されたことを誇らしげに話した彼女に、牛乳を買ってくるよう命じ「ばかな思い上がりはガレージに置いていきなさいね」とつけ加えたそうです。

Useem氏が取材した別の専門家は「普通の人々のドキュメンタリーを観る」ことと「有権者(あるいは顧客)の手紙を読む習慣をつける」ことを勧めています。

しかし、権力による脳損傷の一番の予防策は、なによりそれを認識することではないでしょうか。権力をもつと、もとは出世に役立った能力を失う可能性があると自覚していれば、成功に浮かれず地に足をつけ、人に対して親身になる努力ができるはずです。


Power Physically Damages the Brain, New Research Reveals | Inc.

Image: STUDIO GRAND OUEST/Shutterstock.com

Source: The Atlantic