女性政治家が晒されたここまでのネットハラスメント──なぜTwitter社はネトハラを放置するのか

日本人女性の3人に1人が経験していると言われる Twitterなど SNS上でのハラスメント。Business Insider Japanでは被害の実態とデマや中傷に対する法的措置、特にTwitter社に対する発信者情報開示請求などの民事訴訟の難しさを報じたが、中には刑事告訴に踏み切り、投稿者が脅迫や名誉毀損の疑いで書類送検されるケースも出てきている。

参考記事:「デマ、殺害・レイプ予告…日本人女性3人に1人がネットハラスメント被害。日常生活奪われても高い法律の壁」

脅迫状

村上さんに届いた脅迫状。ネットの悪意は歯止めがかからない状態だ。

本人提供

講演会の司会をきっかけに始まった

6月に4件の刑事告訴を行ったのは、北九州市議の村上さとこさん(52)だ。4月14日に前文部科学事務次官・前川喜平さんらの講演会で司会を務めたのをきっかけに、Twitterなどでデマを流され、誹謗中傷や脅迫を受け続けてきた。

村上さんによると、講演会の数日後、市の教育委員会が名義後援をしたことなどを問題視する記事を、ある新聞が掲載。Twitterでフォロワー数が多く影響力のあるアカウントがそれをシェアし、号令を受けたかのように一斉攻撃が始まったという。「なぜ前川を講演会に呼ぶんだ」という内容の投稿や、1時間にも及ぶ抗議の電話が、多いときは1日10件以上、事務所や北九州市議会事務局にもかかってくるようになった。

次に広がったのは、村上さんが「中核派」だというデマだ。

「根拠なき悪質過ぎるデマ。私が中核派だという。明らかな名誉毀損。本当にひどい。スクショを保存した。謝罪の上、削除しなければ法的措置をとります」「 【お願い】【通報して下さい】 」など、ツイートを通じて何度も呼びかけてきたが、「 議員という立場でありながら一般人を攻撃している」「 一般人を恫喝する態度で疑惑はさらに深まった 」「怖い」などと言い、逆に村上さんを「通報した」という投稿が溢れた

デマの中心になっていたのは、政治問題を取り上げることで有名なアカウントだ。その後Twitterで何度もやり取りした結果、村上さんが中核派でないことを認め、デマを拡散したことを謝罪したそうだ。そして、そのアカウントは消えた。しかし、待っていたのは思いがけない事態だった。

「その人を支持する方々から『アカウントが消えたのはお前のせいだ』『言論弾圧だ』『許さない』と言われ、さらに攻撃されるようになりました。自分が被害者だと思う人も多いようで……。政治家は批判を含めて市民からさまざまな意見をうかがうのが仕事ですが、明らかなデマや誹謗中傷を受けることは違います。あまりにもひどい場合はブロックしていたのですが、それが火に油を注いだようで、『#村上さとこブロックチャレンジ』というタグで、私にブロックされるようにわざと中傷を繰り返す人が出てきたんです」(村上さん)

着払いで届いたEカップのブラ16点

下着

送りつけられた下着。村上さんは「セクシズムの現れだ」と憤慨する。

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4月下旬には脅迫も受けるようになった。漫画『ゴルゴ13』の主人公がピストルを構えた画像とともに「さとさと、消したほうがいい」という投稿や、「事務所に行ってきた」と事務所の写真をアップされたこともあった。これをきっかけに警察に被害届けを出し、巡回などで事務所周辺の警備を強化してもらうように。

5月にはネットの外にも被害が拡大した。

「チョン女 死ね、お前とお前の家族をのろってやる。のろって死んでもこの国ではさばくことはできない。ざまあ見ろ」と赤字で書かれたハガキと、死を願うような言葉と合わせて香典袋が入った封書が届いたのだ。封筒には海軍旗の画像と安倍晋三首相の写真が貼られ、「アベノミクスナンバー1」と書かれていたという。

そして6月。注文していないブラジャー16点が事務所に着払いで送りつけられた。村上さんは不在にしており、事務所にいたスタッフが立て替え払いしたそうだ。ネットの匿名掲示板には「巨乳議員」などのスレッドも立っており、届いたブラジャーのサイズはすべてEカップだった。

村上さとこ

記者会見での様子。右から2番目が村上さん。

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6月15日、村上さんは記者会見を開き、被害の状況を説明した。

「男性だったら『下半身の大きい議員』と言われたでしょうか? 容姿を話題にされるのも含めて、すべての中傷の根底には女性差別があるとひしひしと感じます。女性議員はこれまでもデマを撒かれたり画像をコラージュされたり、ネットでひどい攻撃にさらされてきました。

もっと女性議員が増えてほしいと思い、女性政治スクールを開いて自分の経験を話すことも多いですが、こんなにリスクがあると『女性議員になろう』なんてとても言えません。第二、第三の私が生まれないよう毅然と対応しなければならないと思い、刑事告訴をしました」(村上さん)

同日、村上さんの弁護団は容疑者不詳のまま「脅迫」(「さとさと、消したほうがいい」というツイートとハガキや封書)と「偽計業務妨害」(下着を送りつけたこと)の疑いで、これら4件の告訴状を警察に郵送した。

脅迫状が届いても「削除には該当しません」

ツイッター

LeonNeal:GettyImages

ネットでの匿名の悪意が刑事事件に発展することも増えてきている。最近ではこんな動きがあった。

2017年4月:アイドルグループ「仮面女子」のメンバーのブログに「ぶっ殺す」などと書き込んだ男性が、脅迫容疑で逮捕された。
2018年5月:在日コリアンの女性にツイッター上で「ナタを買ってくる予定。レイシストが刃物を買うから」など脅迫にあたる投稿を繰り返した男性が、脅迫容疑で書類送検された。
2018年6月:神奈川県・東名高速で大型トラックに追突された夫婦が死亡した事故で、建設会社に対してネットの掲示板にデマを書き込んだとして、11人の男性が名誉毀損の疑いで書類送検された。

刑事告訴は弁護士などの代理人が裁判所を通じて発信者情報開示請求を行う場合と異なり、告訴すれば警察がその後の捜査を担当するため裁判費用がかからないなどのメリットもあるが、一方で、調書を作成するための聴き取りなど、警察と被害者本人がやり取りしなければならないことが多く、時間の損失が大きいという。

「市議会議員は市民のために動くのが仕事ですが、警察とのやり取りは仕事に支障をきたすくらいに大変。市政にとっても損失だと思います。他にも名誉毀損が疑われる投稿は数え切れないほど多いですが、今後も法的措置などでしっかり対応していくつもりです」(村上さん)

村上さとこ

きっかけになった講演会。

本人提供

気になる投稿があるとTwitter社の窓口に自身で通報するようにしているが、

「明らかなヘイト投稿は削除してもらえることも多いですが、デマや人権侵害については『脅迫状が届き電話は鳴り止まず、非常事態になっている』といくら訴えても、『該当しません』というような定型文が返ってくるだけ 。明らかに違法な書き込みは24時間以内に削除する、脅迫などの刑事事件には発信者情報を開示するなど、Twitter社には対策を取って欲しいです」(村上さん)

村上さんは東名高速事件でデマ書き込み被害にあった建設会社の社長や、同様の被害を経験したお笑い芸人のスマイリーキクチさんらとともに、ネット上のハラスメント被害(ネトハラ)を減らすため、当事者として声を上げたいと話し合っている。Twitter社への働きかけの他、国内の法整備に向けても超党派で賛同する議員を募り、アクションを起こすつもりだ。

Twitter社は投稿の削除以外にも、発信者情報開示請求のハードルが高いと言われる。

村上さんの場合、脅迫ツイートの投稿者が誰なのか情報開示請求する必要があるが、同社の「執行機関/捜査機関向けガイドライン」には、「請求された情報の範囲が広すぎる場合は絞り込んだり、捜査の内容が不明確な場合には背景の説明を求めたり、さまざまな理由で請求を差し戻すことがあります」と記されている。

Business Insider Japanは一般社団法人「Colabo(コラボ)」代表の仁藤夢乃さんに取材した際、上記以外のどのような場合に請求を差し戻すか問い合わせたが、「個別の事案に関しては回答していません」(同社広報部)とのことだった。

刑事告訴後も止まない嫌がらせ

スマホ

撮影:今村拓馬

村上さんの弁護団団長の小倉知子弁護士は言う。

「議員のように行動が公になる職業は批判に晒されやすい。今回は犯罪なのでTwitter社も発信者情報を開示する可能性は高いとは思いますが、今は状況を見守るしかないですね」(小倉さん)

他にも、村上さんを公職選挙法違反と政治資金規正法違反で刑事告発するという投稿もあり、告発状もネットに掲載された。村上さんは2017年1月に社民党などの推薦を受け、無所属で初当選した。前者は無所属なのに社民党福岡県連合のホームページに名前が載っていること、後者は村上さんが社民党から受け取った40万円の選挙資金が、党の報告書には20万円ずつ2回に分けて記載されているのが虚偽記載だという主張だ。

政治家の刑事告発を主な目的としたTwitterアカウントが、村上さんを「次のターゲット」と名指ししていたこともあり、検察庁に相談している。

刑事告訴すると発表しても、被害には歯止めがかからない。

今もTwitterなどネットでの中傷は続いており、注文していない商品がその後も複数回にわたり送りつけられている。

数年間に及ぶネットでのつきまとい被害を警察に相談しても、「ストーカーに該当しない」「何かあったら対応する」と言われただけだった。だが、

「何かあったとき=私が刺されるときだと今は思っています」(村上さん)

(文・竹下郁子)

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