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「体中を触られた」「殴られ、眼鏡が飛んだ」介護従事者へのハラスメント、犯罪の可能性も
画像はイメージです(Fine Graphics / PIXTA)

「体中を触られた」「殴られ、眼鏡が飛んだ」介護従事者へのハラスメント、犯罪の可能性も

「セクハラ、パワハラ以前に犯罪ともいえる事例がある」。介護従事者が加盟する「日本介護クラフトユニオン」は、介護現場で働く人たちのハラスメントの実態調査を通じて、介護従事者が、犯罪にも発展しかねない酷い労働環境に置かれていることを指摘している。

ユニオンが6月21日に公表したハラスメント調査結果では、回答者の74.2%が介護サービスの利用者・家族からセクハラやパワハラを受けていることがわかった。数値データだけでなく、細かい事例の紹介もしており、この中の象徴的な事例を通じて、どのような法的問題に発展しうるのか、考えてみたい。

●「体を撫で回された」「キスをされた」強制わいせつ罪となる可能性も

セクハラに遭った場合、民事上の責任を追及し、損害賠償を請求することができる。また、セクハラの程度によっては犯罪が成立し、刑事責任を問うことができる場合もある。たとえば、利用者やその家族が介護員に対して、同意を得ることなくわいせつな行為をすれば、強制わいせつ罪が成立する可能性もある。

今回の調査結果で公表されたセクハラの具体的内容の中には、強制わいせつにあたりうる事例も少なくなかった。

ある訪問介護の女性介護員は「利用者の息子(70歳位)に手を引っ張られ、寝室に連れ込まれて体中を触られる。逃げて退室した」という。ほかの介護員も、「布団に横になっている利用者に声かけをしたところ、私のしゃがんでいる股間を前から後まで手で触られました」「抱きつかれ体を撫で回された」「足や手をかまれキスをされた。体に触ってくる。腕をかんで甘噛みしてくる」など、度を過ぎたセクハラを受けたという。

また、小規模多機能型居宅介護の女性ケアマネージャーは「入浴介助中『陰部を念入りに素手で洗え』と言われたので『タオルで…』と提案すると、『○○さんもやってくれていたのに(ウソ)お前はできんのか!クビだ!』と怒鳴られ、ムリやり手をもっていかれ触らされた」という。

●暴行罪や傷害罪となりうる「殴る、蹴るなどの暴力行為」

パワハラの具体的内容は言葉による暴力以外に、身体的暴力の事例が目立った。中には、「首をしめられた」という有料老人ホームの女性相談員や、「援助で声掛けした時に殴られ、蹴られ、メガネを飛ばされたりした」というサービス付高齢者住宅の女性介護員もいた。利用者に暴力をふるわれた場合は暴行罪が成立する可能性がある。

暴行罪にあたりうる内容は他にも複数あった。たとえば、「入浴援助中に不意に頭を平手でたたかれた」(訪問介護・男性介護員)、「顔や頭をげんこつで殴られる」(グループホーム・女性介護員)「殴る、蹴るなどの暴力行為を受けた」(訪問介護・女性管理者)「お尻や胸を触られた。顔面を殴られたり、腹部にけりを入れられた」(有料老人ホーム・介護員・女性)などの声があった。

また、ある通所介護の女性看護師は「アザ(内出血)ができる位つねられる」という。暴力をふるわれた結果、怪我をした場合は傷害罪が成立することもある。

●強要罪になる可能性もある「土下座の強要」

調査の中で、「どのようなパワハラに遭遇したか」という質問に対しては、「『○○さんはやってくれた』等他者を引き合いに出し強要する」(52.4%)、「サービス契約上受けていないサービスを要求する」(34.3%)、「制度上認められていないサービス強要する」(31.9%)など、過度なサービスの要求が多いことがわかった。義務のないサービスの要求は、場合によっては強要罪にあたることもある。

たとえば、「過度なサービス要求をされ、断りを入れると包丁を向けられた。土下座の強要による謝罪を言われ、やむを得ずその旨対応した」(訪問介護・管理者・サービス提供責任者・男性)ような場合だ。包丁を向ける行為は脅迫だといえるほか、介護従事者に義務のない土下座を強要していることから、強要罪が成立する可能性がある。

●認知症や精神疾患が原因となっているケースも

日本介護クラフトユニオンによれば、利用者が認知症や精神疾患に罹患している点もセクハラ・パワハラの一因と考えられるという。平成29年版犯罪白書をみると、傷害および暴行で検挙される高齢者の人員が著しく増加しており、その背景に認知症や精神疾患が要因としてあることも指摘されている。しかし、すべての利用者とその家族が認知症や精神疾患に罹患しているわけではないため、あくまで要因の1つに過ぎない。

介護現場で働く人たちは、利用者やその家族に「ありがとう」と言われることに仕事のやりがいや喜びを感じている。そのような思いで働く人たちに対して、犯罪になりうるようなセクハラやパワハラがおこなわれている現状を改善しなければ、どんどん人が離れていくだけだろう。

【法律監修】

本多 貞雅(ほんだ・さだまさ)弁護士東京弁護士会所属。刑事事件、少年事件、外国人の入管事件に精力的に取り組み、法科大学院等では後進の指導にもあたっている。また、保険会社勤務や不動産会社経営の経験を生かし、企業法務にも力を入れている。所在エリア:東京港区事務所名:本多総合法律事務所事務所URL:http://honda-partners.jp/

(弁護士ドットコムニュース)

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