「中央道で時速235キロ大暴走男」が2年後に逮捕されるまで

「執念の捜査記録」を明かそう

「誰にも迷惑をかけてないし、警察も真剣に追ってこないだろ」――男はそう軽く考えていたことだろう。だが、警察を本気にさせた代償は重い。執念の捜査で追いつめられた。後悔してももう遅い。

運転席で中指を立てた

時速235km。日本の公道ではおよそ考えられないスピードだ。'16年1月29日、東京・国立市内の中央自動車道上り車線をド派手な黄緑色のスポーツカーが大爆走。高速道路の法定速度を135kmもオーバーして、駆け抜けていった。

平日の早朝午前4時すぎ、車影はまばらだが、大事故を引き起こしかねない危険な運転である。

一般には公表されていないが、高速道路に設置されたオービス(自動速度違反取締機)は40km超の速度超過で作動する。当然、黄緑色の暴走車も撮影されていた。

オービスはたとえ時速200km以上の車であっても、ナンバープレートとドライバーの顔を鮮明に記録する。だが、この暴走車は前方のナンバープレートが外され、運転手の顔も巧妙に隠されていた。

珍しい色のスポーツカーとはいえ、警察が車両の所有者を探し出す作業は困難を極めた―

 

2年後の今年3月1日。警視庁は135kmオーバーした運転手をようやく特定し、白井良宗容疑者(41歳)が道路交通法違反(速度超過)で逮捕された。国内史上最悪の速度超過と思われる。

オービスで撮影されれば、その画像は担当する警察署などにタイムリーに送付される。都内の中央道の場合は警視庁高速道路交通警察隊。

およそ1ヵ月後にはナンバーから割り出された車両の所有者に通知書が送られ、出頭すると警視庁交通部交通執行課の担当官から写真を見せられて、本人確認が行われる。

だが、白井のようにナンバーが不明の場合は、警察当局が自力で所有者を割り出すことになる。

白井が乗っていた車はアメリカ・クライスラー社(現FCA)製の「ダッジ・チャレンジャー」である。排気量6400ccを誇るモンスター級のスポーツカーだ。新車価格は500万円から1000万円弱。

人気カーアクション映画『ワイルド・スピード』に登場することでも知られ、最高速度は時速300kmを超える。仮にパトカーが高速道路上で目撃していたとしても、捕捉するのは困難だった。

Photo by GettyImages

元千葉県警の交通警察官で、交通事故調査解析事務所代表の熊谷宗徳氏はこう語る。

「時速235kmといえば、新幹線並みのスピードです。パトカーでは追いつけません。

パトカーは時速180km以上出ないようになっているんです。それ以上のスピードを出している車に対しては諦めるしかない。ナンバーを覚えておいて、事後捜査するというかたちになります」

この黄緑色のモンスターカーは'15年から5回以上、首都高や都内の一般道でオービスに速度違反でひっかかっていた。完全な常習犯だ。

しかも前述したように個人が特定できないように姑息な手を使っていた。さらにオービスには、中指を立てる運転手の画像が映っていたという。

「警視庁の交通警察は、『コイツは舐めている』と激怒して、長期間にわたって捜査官を投入して『車当たり捜査』(疑わしい車を一台ずつ確認していくこと)を行った」(全国紙社会部記者)

関連記事