吉岡里帆主演ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』原作者に聞く

生活保護をマンガで描くということ

2014年から『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて連載がスタートしたマンガ『健康で文化的な最低限度の生活』。

生活保護をテーマに扱うこの作品は、カンテレ・フジテレビ系列にて、吉岡里帆さん主演で連続テレビドラマ化され、毎週火曜よる9時から放送される。

ドラマ放送開始にあたり、原作者である漫画家の柏木ハルコさんに話を聞いた。

(聞き手:大西連)

健康で文化的な最低限度の生活』:柏木ハルコ著のマンガ。生活保護を担当するケースワーカー(役所の担当者)を主人公に、さまざまな課題を抱える生活保護利用者や新人ケースワーカーの奮闘を描く。徹底した取材が反映された本作のリアリティは、現役ケースワーカーや、医療、福祉現場のプロからも高い評価を受ける。「このマンガがすごい!2015」のオトコ部門で第10位を獲得し、既刊6巻で累計70万部(電子含む)を超える。
(C)柏木ハルコ/小学館

「生活保護」をテーマにマンガを描くということ

――僕(聞き手)と柏木さんが最初に会ったのは2011年の秋。新宿でのホームレスの人のための炊き出しに漫画家さんが来るということで、最初は何しに来るんだろうと思いました(笑)。そもそも、なぜ生活保護や貧困をテーマにしようと思ったんでしょうか?

私は24歳でデビューしました。その頃はバブルの最後で、一個下の学年からはいわゆる「就職氷河期」と呼ばれた時期。今思えば無茶な部分もあったのですが、大学を卒業して1年がんばってマンガを描いて、無理ならあきらめて就職しようと思ったんです。

アシスタント経験はなくて、自分で描いて賞に応募する。それを繰り返していました。マンガに専念するようになって半年ほどで『モーニング』で最初の賞を、1年くらいで『週刊ヤングサンデー』に応募してそちらでも賞を獲りました。

漫画家は賞を獲り、読み切りを掲載してもらい、連載をゲットする――そういうデビューの流れがあり、賞を獲って「いけるな」と思ったんです(笑)

そして、2年後には初めての連載が始まりました。正直、ラッキーな部分もあったと思います。ちょうど世の中はバブル崩壊で景気が悪くなっていった。その頃卒業だったらむしろ「就職しなければ」と考えて漫画家になはなってなかったかもしれない。

 

健康で文化的な最低限度の生活』を連載するまでの私は恋愛マンガや青春マンガを描いてきました。

大体、2年に1本のペースで連載をやってきて、一つの作品で単行本5~6巻くらい。もちろん、作品ごとには違うのですが、手塚治虫さんの影響もあって「人間を描きたい」と思い、人と人との関係性、コミュニケーション、わきあがってくる感情をテーマに描いてきました。

ある種、24歳でデビューしてからずっと突っ走ってきました。運よくデビューできて、連載も続き、作品も増えていった。でも、自分も作品とともに年を重ねていくうちに、壁にぶつかるというか、このままでいいのかなと思うことが少しずつ増えていきました。

ちょうどその頃、周囲の人を大切にできていなかったことから、この生き方は間違っていたのではないか、とすごく悩んだんですね。それまで自分にはマンガしかない、とガムシャラにやってきて。もちろん、それで得たものもあったわけですけれど……。

人生間違えていたかなと思い、不安のなかで描いたのが『花園メリーゴーランド』でした。

ただ、良い言い方ではないかもしれませんが、ある意味センスだけでマンガを描いてきて、30代後半になりこのままでは難しいと痛感しました。「大人の漫画家」としてどのように成長していくかを考えるようになりました。感性だけではどんどんデビューしてくる新しい人たちに勝てない、と。

そこで、自分自身に脱皮が必要だと感じたんです。

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