経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

経済運営の要諦は質より量

2018年06月24日 | 経済
 日本の財政再建論者には、特異な3つの特徴がある。まず、足下の収支を確かめない、次に、消費増税に拘る、そして、利子課税を無視する。近年の財政収支は、野心的な目標に届かなかっただけで、大幅に改善してきたし、家計消費が低迷する一方、企業収益は急激に伸びており、担税力がどちらにあるかは明らかだ。また、金利上昇による利払費の増大で危機になると説くが、金融資産課税で利払費以上の税収増になり得ることを忘れている。結局、彼らが真に望むのは、財政再建より消費増税であって、手段が目的化している。「消費増税しかない」に行き着くには、いくつもの重大な事実を無きものにする「空論」がいるわけで、その知的体力は大変なものだ。

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 日経によれば、税収は1兆円ほど上ブレするようである。本コラムは、早くから59.0兆円程としていたので、これに近いものだ。これにより、めでたいことに、新たに決めた2025年度に基礎的財政収支の赤字をゼロにする財政再建目標は、前倒しで達成できそうである。2025年度で構わないなら、消費純増税をせずに済む計算だから、景気を失速させるリスクを犯さなくても良い。財政への信用は、達成の時期より、着実に改善できていることが遥かに重要である。

 こういうことを書くと、「なんて財務省は愚かなんだ」というコメントがあったりするが、手段の目的化は往々にしてあることで、リーダーの陥りがちな過ちだ。例えば、戦前の日本にとって、満洲の保持は安全保障の上で重要だったが、中国のナショナリズムの高揚や米国の台頭という情勢の変化によって、却って危険なものへと変わっていった。安全保障という大目的に照らし、植民地の保持という手段を放棄へと変えることは並大抵ではなく、戦略転換の失敗が国家滅亡を招いている。

 また、戦略転換が難しいと、その中で何とかしようとあがくことも、ままある。対米戦争が避けられないなら、真珠湾への奇襲攻撃で一時的優勢を得ることに希望を見出したりする。むしろ、そんな小知恵が戦略の誤りを覆い隠し、修正を難しくする。世間の「空気」と化した消費増税が避けられないなら、駆け込み対策を上手くして切り抜けようと考えるのは、その類だ。拙い戦略を現場の努力という戦術でカバーしようとし、限界があるにもかかわらず、すがり着いてしまうのである。

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 消費増税「教」の人たちは、需要は景気に影響しないという信念を持ち、緊縮するだけ財政再建が進むと思っているが、全産業指数などの動きを見ると、現実は、追加的需要が景気を動かしているとしか言いようがない。節度を持たないと、緊縮が成長を失速させ、財政再建まで遠のかせる。図で分かるように、昨年夏までは勢い良く成長し、その後に踊り場となったのは、公共事業を主力とする建設業の動向に呼応しており、ここから、公需をゆるがせにできないことを学び取らねばならない。

 財政再建論者は言及を避けるが、2017年度は、補正後歳出を前年度より1.1兆円減らし、税収を国だけで3.5兆円ほど増やすので、経済には強いデフレ圧力がかかった。輸出で企業は潤っても、消費が低迷するのは当然で、原因に悩むようなことではない。他方、こうした犠牲があればこそ、財政再建は大きく前進した。財政再建論者は、文句ばかり言わないで、国民の怨嗟をよそに、アベノミクスを褒めても良さそうなものだ。

 今年も骨太方針には、雑多な成長戦略が書き連ねられているが、経済運営で大事なのは需要の管理である。個々の産業政策の「質」を追うより、それが生きるだけの需要の「量」の確保が肝心だ。緊縮で需要が絞られる中では、設備投資も技術革新も難しい。生産性向上は、需要超過で人手不足になれば、お役所の旗振りと関係なく、企業が真剣に取り組むようになる。現実とは奇なるもので、机上の論とは異なり、生産性が向上するから成長するのではなく、成長するから生産性が高まるのである。

(図)



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 図が示唆するように、追加的な3需要が増すと、設備投資は増える関係にある。生産性向上の鍵は需要なのだ。直近の動向については、4月に輸出も建設も増え、5月に輸出があまり減らず、建設は高まる見通しなので、5月の設備投資や消費も伸びると見るのが順当だろう。ただし、先行する5月の販売指標は低調なため、消費はズレるかもしれない。3需要の水準は、ようやく2017年夏のピークを超えるところまで来た。成長の踊り場からの脱出は、ここからという局面であろう。 


(今日までの日経)
 税収1兆円上振れ 17年度58兆円台。雇用保険 育休シフト。大阪北部で震度6弱。貿易赤字でも輸出堅調。

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