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エコ・地域づくり

間伐材で「電気」と「熱」を作りだす! 飛騨高山で進むエネルギー活用術

木材を燃料にして電気を生み出す木質バイオマス発電。上手に活用すれば、森を守り、地域を活性化することにも結び付くという。森林立国・飛騨高山の取り組みに、そのヒントを探る。

温浴施設に熱供給
国の制度で電気を売る

林業を持続可能なビジネスにしていくために、林地残材や間伐材をエネルギー資源として活用しようという動きが広がっている。それは森を守り、地域を豊かにしていくことにもつながっているという。全国でも先駆的事例として知られる、飛騨高山(岐阜県)の取り組みを追った。

高山市郊外に、地元で人気の温浴施設「しぶきの湯 遊湯館」がある。2017年4月、その傍らに設けられたのが「飛騨高山しぶきの湯 小型木質バイオマス発電所」だ。燃料となるのは、近隣の未利用木材からつくられた木質ペレット。これにより、隣地残材として放置されていた木材にも、安定した使い道ができ、お金に変えることが可能になった。同時に、エネルギー資源(木質バイオマス)として山から降ろされることになるので、森林の整備にも貢献する。

発電所といっても電気だけを作っているわけではない。「電気」と一緒に「熱」も作っているところが大きなポイント。発電に伴って生まれる熱を回収し、温水に変えて、隣接する温浴施設に熱源として販売している。電気は、国の定めたFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)によって、20年間にわたり一定の単価で電力会社が買い取ることになっているので、先を見据えた事業計画を立てることができる。飛騨高山の場合は、電気と熱のダブルインカム(熱電併給事業)で、さらなる安定収益化を図っているというわけだ。


大切なのは地域協調
山を守り育てるために

日本100自然に認定される宇津江四十八滝を源泉とする「しぶきの湯遊湯館」は地元民から愛され続ける憩いの場所。

発電所を運営する飛騨高山グリーンヒート合同会社の谷渕庸次代表取締役社長はいう。

「森林のエネルギー利用においては、地域のみんなで足並みをそろえていくことが重要です。一言でいえば“協調”ですね。何よりも山と協調していかなければならないし、熱を販売する先とも協調していかなければなりません。自分たちの利益だけを考えていたら、間違いなく失敗するでしょう。私たちは、この事業を通して、バイオマスの需要を拡大し、地域経済の活性化、森林の再生を進めていきたいのです」。

実際、飛騨高山グリーンヒートの取り組みによって、地域の間伐材に安定した値が付くようになり、地元ペレット工場にも利益がでるようになった。熱供給を受ける「しぶきの湯 遊湯館」は、それまで掛かっていたボイラー燃料費を削減することができた。また、毎年全国から発電所を訪れる数百人の視察者に温浴利用券が配られ、遊湯館の売り上げに貢献している。

木質ペレットの原材料となる間伐材の収集には、高山市の委託で運航する木材収集車「積まマイカー」が活躍している。間伐材収集の中継所である「木の駅」を定期的に巡り、地元山林所有者が運んできた間伐材を集めて回る。間伐材の提供者へは、地元商店で使える地域通貨「Enepo」で代金が支払われる。この間伐材収集システムには、地元NPO活エネルギーアカデミーが協力している。地元の山林所有者(間伐材の提供)、高山市・NPO(間伐材の収集運搬)、木質ペレット事業者(燃料製造)、温浴施設(熱需要)、地元商店(地域通貨の利用先)など、多くの地元関係者と連係して、地域でお金を回す工夫を練り上げているのだ。

環境省アワード受賞
さらなる地域循環を

バイオマス発電所で作った熱を高音のお湯に変えて貯めておく蓄熱タンク。

こうした飛騨高山の取り組みは、環境省が主催する「グッドライフアワード」でも評価され、2019年の環境大臣賞(地域コミュニティ部門)を獲得、11月30日に表彰された。後述するシン・エナジー株式会社ほか2社とともに、「奥飛騨・高山自然エネルギーの里構想」として受賞したものだ。

グッドライフアワードは、「持続可能な社会の実現のため、現在のライフスタイルを見つめ直すきっかけを作り、パートナーシップの強化を図り、環境と社会に良い暮らしやこれを支える取り組み」を評価する顕彰制度。森を活かし林業を育みながら、地域と協調して持続可能な社会の実現を目指す、飛騨高山の取り組みは、まさにこの賞に相応しいものといえるだろう。

谷渕氏は、将来を見据え、地域循環のさらなる拡がりを目指す。「発電した電気を地域で直接活用できるようにしたい。いまは中部電力に売電していますが、市と力を合わせて地元主体の電力会社を立ち上げ、そこに電気を供給できるようにしたいのです」。

次のフェーズに進もうとする飛騨高山から、まだまだ目が離せそうもない。


PROFILE

飛騨高山グリーンヒート合同会社

代表取締役社長
谷渕庸次氏

CLOSE UP!
高山市もバックアップ
官民一体が成功の秘訣

高山市は市内の92%、東京都に匹敵する面積を森林が占める日本一森林面積の大きい市だ。森林資源の活用は、同市最大の課題の一つといって良い。市が進める「自然エネルギーによるまちづくり」においても、「持続可能な森林経営と森林資源の適正な需要拡大を推進するとともに、木質バイオマスの安定供給を実現する仕組みを構築すること」が真っ先に挙げられている。

そうした理念のもと、高山市では、木質バイオマス促進のための様々な支援事業を行っている。飛騨高山グリーンヒート合同会社も支援の対象となり、コストの一部が助成金で賄われている。高山市役所環境政策部の山本貴央主査は、その理由を次のように話す。

「しぶきの湯 小型木質バイオマス発電所は、市内の公共温浴施設を活用した公益性のある木質バイオマス熱電供給ビジネスのモデルケースになるものと評価されました。また、地域内のエネルギー自給率を高め、雇用の創出にも役立つと期待されています」。

地域でバイオマスエネルギー事業を成功させるためには、地元関係者との連携が不可欠。官民で同じ方向を向き、一体となって取り組みを進めている点が、飛騨高山の最大の強みなのかも知れない。

高山市役所 環境政策部 環境政策推進課
主査 山本貴央氏/主事 菅野由以氏

 


FOREST JOURNAL vol.2(2019-20年冬号)より転載

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