客席なしの「ゴーストレストラン」。オンラインデリバリー専門店が続々

Uber Eatsが2016年9月に日本に上陸し、LINEも「LINEデリマ」を2017年にサービス開始するなど、勢いをつける「フードデリバリービジネス」。そんな中で続々と生まれる「ゴーストレストラン」とは何なのか?

NEWPEACEでカレー専門店・6curryの事業責任者を務める廣瀬彩さん(左)と、アートディレクターのYOPPYさん。

NEWPEACEで6curryの事業責任者を務める廣瀬彩さん(左)と、アートディレクターのYOPPYさん。

インスタでも話題のカレー専門店

恵比寿にあるおしゃれなカフェ風のキッチンスペースを訪れると、ジューシーなひき肉の匂いがほんのりと流れてくる。

2017年7月に「Uber Eats専門店」として始まったカレー専門店・6curryは「ゴーストレストラン」の先駆けだ。手がけるのは、新しい産業のブランディングやPRを仕掛けるクリエイティブ集団「NEWPEACE」。

ゴーストレストランとは:実店舗を持たず、オンラインデリバリーのみでサービスを展開するレストランのこと。海外では、複数のキッチンを抱えた「ゴーストレストランのプラットフォーム」をつくる流れも。

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お店の看板メニューは、トマトやきゅうりなど6種類の野菜をたっぷりとつめ込んだ「カップカレー」。その他にも、バルサミコ酢で煮込んだ「ポークビンダルー」なども販売。

2017年夏、メンバーが「カレーで何か面白いビジネスを」と考えていた時にこの形態を思いついた。渋谷のレストランにキッチンを間借りしながら、2017年12月に店をオープンしたという。

カレーのニオイを抑えたレシピ、見た目のカラフルさやヘルシーさなどで人気を博し、オープン直後からインスタグラムやTwitterで話題に。

「想像以上に大きな反響だった」(事業責任者の廣瀬彩さん)ため、2月頃から半年あまりをかけて恵比寿に自分たちのキッチン「6curryKITCHEN」を作り、2018年9月から店をリニューアルオープン。

主な顧客層は、20代から30代前半のトレンドに敏感なミレニアル世代だ。

デリバリーサービスも続々参入

「うしくろ」斉藤慶太さん。

「うしくろ」で「フードデリバリー専門店」の経営を学び独立した、斉藤憲太さん。

レストラン側だけでなく、複数の飲食店の宅配を請け負うデリバリープラットフォームも、このサービスに続々と参入する。宅配ポータルサイト「出前館」も2018年6月からゴーストレストランの運営を始めた。

期間限定の一号店に選ばれたのが、黒毛和牛焼肉「うしくろ」。

うしくろで働く斉藤憲太さん(24)は独立開業を予定していたが、その前に商品開発や調理のノウハウを学ぶため、出前館でゴーストレストラン・シェフとしてお弁当の製造・販売を行った。

東京・日本橋という好立地ながら、施設利用料は月額10万円と格安。機材も揃っており、宅配サービスは「出前館」が請け負うため、かかる費用は最小限で済む。

「単なるレンタルスペースではなく、商品開発や出前の売り方など、マーケティングの手伝いもできる」ことが、出前館の強みだと、同事業責任者の瀬戸康太郎さんは語る。

ごちクルのお弁当

イタリアの名店「Ristorante Serendepico」を“ゴースト化”した、ごちクルのお弁当。

フードデリバリーの「ごちクル」もゴーストレストランをうたうサービスを始めている。

12月3日からデリバリーを開始するお弁当は、店舗自体は日本未上陸ながらもイタリアとフランスにある有名店のメニューを「ゴースト化」。こちらはごちクルがレストランのレシピをあずかり、製造から販売までを担う仕組みだ。

今後は、実店舗を持つレストランのデリバリー参入支援により力を入れていくという。

グーグルやUber創業者も注目

Kitchen United

ゴーストレストランのプラットフォーム「Kitchen United」は、2018年10月に11億円の資金調達を実施した。

参照:Kitchen United

海外で、ゴーストレストランはすでにビジネスの大きな潮流となっている。

UBSの調査などによると、世界のオンライン・フードデリバリーサービスは、2030年までに3650億ドル(約41兆2000億円)の市場規模にまで膨れ上がるとされる。これは、2018年の約10倍の規模だ。

こうした流れを受けて、スタートアップも続々と、デリバリーとキッチンの機能を有する「ゴーストレストランのプラットフォーム」事業に参入している。カリフォルニア州パサデナに1100平方メートル以上のキッチンスペースを有する「Kitchen United」は10月、Google Venturesなどから1000万ドル(約11億円)の資金調達を実施した。

Uber元CEOのトラヴィス・カラニック氏は、Uberを退社後にゴーストレストラン業界に参入。経営に苦しむショッピングモールや駐車場などを「ゴーストレストラン」などに蘇らせるサービスを展開する企業「City Storage Systems」を1億5000万ドル(約170億円)で買収し、自らCEOに就任すると発表した

「コミュニティ化」するレストラン

Uber Eatsのバイク

東京ではUber Eatsの宅配員もよく見かける。

ゴーストレストランが、従来の宅配サービスと一線を画す可能性を秘めている点として、「レストランをコミュニティ化できる」点が挙げられる。

日本で他社に先駆けてゴーストレストランを始めた6curryは、新たにオープンしたキッチンを「セントラルキッチン」と名付けて、デリバリー・ケータリングを提供する他に、会員限定でスペースを開放。

月額費用を払えば会員はキッチンを訪ねることができ、気軽に人が集える“たまり場”のように利用されているという。

その他、ゴーストレストランがプラットフォーム化すれば、レストラン同士でメニューのコラボなどもしやすく、新たなビジネス展開も考えられる、と前述の瀬戸さんは言う。

2017年時点で、日本国内の外食産業のデリバリー市場規模は4039億円。前年比で11%増(NPD Japanの2017年発表)と、急成長を遂げている。

この市場から派生した、座席もウェイターもなしのゴーストレストランは、立地勝負だったレストラン経営の新しい選択肢となるのだろうか?

(文・写真、西山里緒)

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