経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮速報・再建を確かにするのに増税はない

2018年07月15日 | 経済(主なもの)
 7/9に新たな「中長期の経済財政に関する試算」がオープンになり、日経は基礎的財政収支の赤字解消は平成27年度と報じた。「わずかでも黒字になる」という意味で間違いではないが、平成26年度にはゼロになるのだから、目標到達の見通しが1年早まったと表現する方が実態を表しているように思う。2017年度の国の税収の上ブレによって、収支のグラフが上方へシフトしたことが重要なわけだから。

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 「中長期」を見る上で最も注意すべきは、足下の税収で目標到達の年度が動く点にある。これは、足下の税収をベースに、将来の税収を計算していくからである。したがって、ベースの税収が現実的か否かのチェックが欠かせない。国の税収を見ると、2017年度の実績が58.8兆円に対し、2018年度の見込みが当初予算額どおりの59.1兆円でしかないことに気づく。その差は、わずか0.3兆円、0.5%増にとどまるという、不自然な設定だ。

 そこで、2018年度の税収を現実的なものにするため、法人税を企業業績見通し並みの8.0%で伸ばし、所得税は名目成長率の1.7%で、消費税は名目消費の伸び率の2.3%で、その他は物価上昇率の0.7%で拡大するという、在り来たりな設定をすると、3.2%増の60.6兆円になる。企業業績が高いと、所得税はもっと伸びるので、比較的、堅い予想になるが、それでも、今回の「中長期」より更に上方へシフトする。 

 同じことは、地方税についても言える。2017年度の決算見込額は42.2兆円と、前年度比1.2%増と、国税の5.9%増よりかなり低い。大きな理由は、所得や収益の伸びの反映が1年遅れになるためだ。したがって、2018年度の税収は、国の2017年度の伸びからして、大いに期待できる。とは言え、それでは話が複雑になるので、国税と同様の在り来たりな設定で計算することにしよう。この場合の2018年度の予想は2.8%増の43.4兆円となる。

 以上のような現実的な設定にして「中長期」を書き足すと図の緑線のようになる。一目で分かるように、2025年度には、めでたく目標到達てある。自然体で、こうだから、歳出削減の努力を加えれば、到達は更に2年前倒しできるだろう。そうなると、2025年度の到達でも良いのなら、敢えて消費純増税をしなくて済む。財政再建が真の目的なら、景気失速のリスクがある増税は見送るのが最善という答えにしかならない。

(図)



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 「中長期」は足下の税収に左右されるのに、税収の更新が遅い。早く実態をつかむためには、「中長期」に頼らず、四半期で出る日銀・資金循環統計で資金過不足を見るのが良い。それが図の黄線である。2018年度以降は、2015年7-9月期~18年1-3月期のトレンドの延長だ。「中長期」には、経済成長率の想定が高過ぎるなどの批判があるが、こちらは実績の延長であり、年当たりでGDP比0.6%弱の改善ペースとなっている。

 資金過不足は、利払いが含まれる分、基礎的財政収支よりも低く出る。国と地方の「純」利払いは、およそGDP比で1.5%程だから、順調に行けば、2020年度頃には、財政再建の目標に到達する勘定だ。それも消費純増税を前提とせずにである。過去3年のように、補正後の歳出規模を膨らませず、成長に伴う税収増のすべてを財政再建に充てる形を保てば、国民生活は豊かにならないにしても、十分に可能なことである。

 また、国・地方の財政とは別に、国民は社会保険の緊縮にも直面している。2015年度以降の4年間で、厚生年金の保険料は予算ベースで5.7兆円も増加しており、他方、給付増は2.3兆円にとどまるから、差し引き3.4兆円も締まっている。あれもこれも緊縮では、消費が低迷しない方がおかしい。そして、消費純増税というのは、税・保険料の自然増収に、更に負担を上乗せしようというものなのである。もし、自然増収を経済に還元していれば、「経済再生ケース」の実質2%超の成長なんて軽く実現できる。

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 「中長期」のような現実の反映が遅いもので財政に不安を覚え、社会保険料を視野の外に置いて消費の低迷を嘆く。経済運営に限らず、状況を的確に把握し、総体的に理解するというのは、対応の基本ではないだろうか。増税を少子化に使うと言っても、非正規の女性が育児休業給付も乳幼児保育も受けられない状況は放ったらかし、量的に足りていて既に保育の恩恵を受けている人の無償化に注力する。何だか、この国は的が外れている。なぜなのかね。財政難も、少子化も、本当は心配しておらず、別の目的のダシでしかないのか。


(今日までの日経)
 働く女性の割合最高 非正規3割就業調整。ヤマト黒字 値上げが浸透。米、追加関税22兆円。人口減最大37万人。夏ボーナス4.2%増。小売・外食 急失速 節約志向、値上げで客離れ。外国人249万人。機械販売5月最高。基礎的財政収支、25年度も2.4兆円赤字 解消は27年度。

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