クリスピン・ポーター+ボガスキー(CP+B)でメディアバイヤーとして働いていたアレックス・クロンマン氏は、フライトデスクという会社を立ち上げた。この会社は、学生メディアの広告を簡単に買えるようにするというものだった。
アレックス・クロンマン氏は2012年、コロラド州ボールダーのクリスピン・ポーター+ボガスキー(Crispin Porter + Bogusky:以下、CP+B)でメディアバイヤーとして働いていた。ドミノ・ピザ(Domino’s Pizza)などのクライアントが大学生を中心とした若者に訴求するのを手伝うのが仕事だった。
大学を卒業してまもないクロンマン氏は、学生新聞というメディアが忘れ去られていると考えた。当時、米国では2000万人を超える大学生が、紙の学生新聞を手に取ったり、オンラインでキャンパスニュースを読んだり、カレッジラジオを聞いたり、寮でポスターを眺めたりしていた。なのに、広告の掲載は言うほど容易なことではなかった。学生新聞やカレッジラジオのビジネスは、地元のピザ屋やバーへの個別営業という明らかなローテクなのだ。
大学ベースの広告
コロラド大学の新聞「カタリスト(The Catalyst)」の編集長も務めたクロンマン氏は、エージェンシーの世界を離れてカレッジ・プレス・クラブ(College Press Club)という会社をはじめることにした。会社はのちに、フライトデスク(Flytedesk)と改名。「フライト」はメディアのフライト(飛躍)という意味で、「デスク」はトレーディングデスクとニュースルームから来ている。アイデアはシンプル。学生メディアの広告を簡単に買えるようにするというものだった。
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「『大学生たちに訴求できない』というブランドの声は聞いていた。大学そのものはオーディエンスの入れ替わりが激しいが、常に求めるオーディエンスがいる」と、クロンマン氏。
クロンマン氏はまず、大学ベースの印刷出版物の広告を購入できるプラットフォームを作った。これをその後、デジタル版、ラジオ、キャンパスの屋外広告などに拡大した。ツールを使って、バイヤーとセラーが利用可能なインベントリー(在庫)を閲覧して対応することができる。バイヤーは広告購入後、支払いの処理や、掲載された広告の検証ができる。
バイヤーとセラーの料金は、キャンペーンごとに一部がフライトデスクに入る。クロンマン氏によると、料金は規模で変動するという。
投資家の見立て
スタートから5年のフライトデスクは現在、20人の従業員を擁し、スタンフォード・デイリー(The Stanford Daily)、ペンシルベニア州立大学デイリー・カリジアン(Penn State’s Daily Collegian)、アイオワ・ステート・デイリー(Iowa State Daily)など、2300の学生メディアと取引がある。会社はいまもボールダーにあり、ベンチャーキャピタルから450万ドル(約50億円)を資金提供されている。CP+B時代にクロンマン氏の上司だったチャック・ポーター氏もフライトデスクに投資しているひとりだ。
「彼はいつもその場所で最先端のメガネをかけていた。『技術屋だけれど、素晴らしい目をしている』と思っていた」と、ポーター氏。
現在、ポーター氏はフライトデスクの投資家として、ボールダーのセント・ジュリアン・ホテルで月に1回ほどクロンマン氏と会ってビールを飲む。若い世代の関心がどうしても欲しいという話をクライアントからいまだに耳にすることから、フライトデスクのミッションは大学市場への奉仕だと確信しているし、世界の巨大なメディア購入サービスのなかにあってもフライトデスクには価値があると、ポーター氏は語る。
「クライアントは、『魚』がいるところを求めてたくさんの時間とお金を費やしている。ブランドやマーケターは、(学生メディアのことを)知っているとしても、実際にはなかなか買えない。マーケターが北東部のすべての大学を買おうと思ったら、100人と話をする必要がある。アレックスの仕事を使えば、それがひとつになる」とポーター氏はいう。
LTVを重視するなら
もちろん、同じ問題に取り組むところとの競争はある。ニューヨークにあるリフューエル・エージェンシー(Refuel Agency)は、ウェブサイトによると3400を超える学生メディア機関と協力している。キャンパス・メディア・グループ(Campus Media Group)は、エージェンシーやブランドの学生マーケティングを支援している。メディアメイト(MediaMate)は、タフツ大学やコネチカット大学などへの広告を管理している。
広告主はどうか。フライトデスクの当初のクライアントのひとつはコンドームのブランドであるトロージャン(Trojan)だった。トロージャンは現在もフライトデスクを使い続けている。クロンマン氏によると、フライトデスクのクライアントにはほかに、一般消費財や金融サービスといった分野の会社が多い。また、2017年は広告の約30%が、キャンペーン、PAC(政治活動委員会)、擁護団体といった政治クライアントからのものだった。
「顧客生涯価値をよく考えるところならどこでも」とクロンマン氏。「AARP(アメリカ退職者協会[American Association of Retired Persons])にクライアントになってもらい、大学生を必要としないところはないことを示すのが、私の夢だ」。
大学時代の重要性
フライトデスクが入れ歯安定剤や階段昇降機に対応する必要はおそらくないだろう。だが、ブランドの大多数は大学キャンパス向けの広告を購入して、成功を収めることができるだろうと、ポーター氏は語る。
「ブランドロイヤルティがかつてより下がっているというのが世間の通念だが、習慣の形成はあると思う。人々の生活は大学で極めて大きく変化する」と、ポーター氏は語る。「大学にいるときに自分が形成される。だから、人を取り込みたいブランドには、大学が重要なのだ」。
Kerry Flynn (原文 / 訳:ガリレオ)
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