KADOKAWAは「漫画海賊版サイト」に対して、なにをしてきたのか?

    通信の秘密をどう考えるか。

    議論が収まらない、海賊版サイトへのブロッキングの是非。

    【関連記事:政府の事実上要請「海賊版サイトブロッキング」 なにが問題なのか

    BuzzFeed Newsはこれまで、集英社講談社に、海賊版サイトについて取材をしてきた。

    今回はKADOKAWAに、漫画村をはじめ漫画海賊版サイトにしてきた対策などを聞いた。

    「サイトブロッキングは推奨」

    同社の経営企画局知財法務部海賊版・模倣品対策課課長の高橋剛彦さんが答える。

    ーー政府の事実上のブロッキング要請、率直な感想は。

    サイトブロッキングそのものについては推進している立場です。

    現在、国内で唯一ブロッキング対象になっている児童ポルノ(以下、児ポ)を巡っては、一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)などが警察を交えて対策している。

    そして、児ポのブロッキング制度は、ICSAがインターネット・プロバイダー(ISP)や総務省などと話し合って導入した背景がある。それ以降、我々はブロッキングには推進姿勢だった。ISPから意見を受けて、どのような法的根拠があるのかも話し合いをしてきた。

    その話し合いの中で、ブロッキングは「通信の秘密」は害するけれども、児童の人権侵害を防ぐための緊急避難として導入が受け入れられていった。

    一方、漫画などの一般的な著作物については、児ポのように喫緊に対策が必要な人権問題ではないし被害の回復は可能であり、児ポと同じように進めるのはそぐわないという意見もある。

    しかし、その意見は古い。

    海賊版サイトは、どこの誰に訴訟を起こしていいのか特定できず、わからない。すでにかなりの被害額で出てしまっており、打つ手がない。

    ISPなどと話し合いをしてきたが、通信の秘密を害することは避けられないことであり、これも緊急避難としてやるしかない。

    議論がなかなか進まないので、(政府の方針は)我々としては、いい流れだというのが、率直な感想。

    ーーブロッキングは「通信の秘密」を侵害しないという考えか。

    弁護士の中でも意見が分かれるくらい難しい論点ではある。

    DNSブロッキングで、通信の秘密を害するというが、そもそも侵害の度合いを考えてほしい。例えば手紙を郵送する時、郵便物を仕分けする係員が、送り先の住所を目にすることもある。その程度の侵害だと思っている。まったく害さないとは言わないが、業務上で必要最低限のレベルのことだ。

    海賊版サイトのブラックリストを作り、そこにアクセスするユーザーを、警告サイトに飛ばしてほしいというだけの話。これがそんなに大きな害となるのか。

    いきなりブロッキングとなるとISPが反発したり、憲法学者の方が意見を言ったりと障壁が多いが、我々としては「では法制化を先行させたら、それに対応してちゃんと動いてもらえるのか」と疑問に思っている。

    漫画海賊版に対してなにをしてきたか?

    ーー具体的に漫画海賊版に、どのような対策をしてきたのか。

    基本的にはデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づいた削除要請と、クローリング(ネットの巡回)などを基本対策としてしてきた。

    とはいえ、そもそも削除要請を受け付ける窓口のないサイトもある。住所を調べてみると、国外のレンタルオフィスだったりする。

    こうした相手に発信者情報開示請求の手続きをしても、通知すら届かないことがある。裁判所に訴えれば開示の仮処分は出るが、出たところで実際に発信者情報が開示されるわけではない。結局、金と時間をかけても成果は得られないことが珍しくない。

    運営者に関する情報などをある程度集めないと、警察もなかなか動いてくれない。

    ーー「漫画村」をはじめ、漫画海賊版サイトに刑事告訴はしたか。

    していない。告訴するための明確な根拠が不足していた。

    海賊版サイトの被害をどう考えるか

    ーー「漫画村」に関して、KADOKAWAの被害件数はどのくらいか。

    件数は計れない。向こうのサーバー情報でないとわからないものもある。我々も件数がわかれば正確な被害額を出せるので、課題でもある。

    ーー出版不況と言われて長いが、海賊版サイトの影響もあると考えるか。

    電子取次や電子書店などはかなりの打撃を受けている。実感としては、海賊版サイトの登場でかなりの影響を受けている。

    ーー「海賊版サイトの影響」と言い切るのは難しいのではないか。

    我々が一番懸念しているのは、「漫画というのは無料」というイメージが若い世代に付いてしまうこと。

    漫画や雑誌は「買って読むものではない」という考え方が広まってしまうような「見えない被害」の方を懸念している。

    ーー「漫画村」はなぜここまで成長できたと考えるか。

    どこから出回っているのか正確にはわからないが、データは単純にスキャンしたものではなく、正規の電子書籍と大差がないクオリティの高いもの。

    ビッグデータを集積する者と、それを提供している者がおり、簡単にマネタイズが成り立ってしまっている。

    ーー出版社が「漫画村」より魅力的なサービスを作れなかったのではないか。

    大学生からヒヤリングをしたところ、「ものすごく使いやすくて正規のサービスだと思いました」という声があった。

    これは出版界全体の課題でもある。

    映像に関して言えば、盗撮防止法があり、映倫という横断的な団体がある。しかし、出版社は「A社は漫画」「B社は雑誌」「C社は文芸」とそれぞれ得意分野がある。それぞれの利害が必ずしも一致するとは限らない。

    ーー今後の対策として出版社同士でなにか話し合われているか。

    緊急対策ワーキンググループのようなものができており、そこで議論を整理している。

    そのひとつに、「正規版サイトの配信サイトマーク」がある。日本レコード協会にはエルマーク、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)にはCJマークがある。

    オンライン上の正規なコンテンツに、特定のマークを付けて、さらにユニークコードも設ける。海賊版サイトにそのマークを設けたコンテンツがアップされていたら、商標権侵害を訴えることができる。出版社全体で連携してやっていく方向だ。

    ーーブロッキングは「表現の自由」を侵害するともされている。出版界、言論界として自殺行為ではないか。

    それは間違った議論だと思っている。表現の自由を侵害する行為とは、どこかの機関に恣意的に判断されてしまうことだ。

    一方、海賊版サイトが著作権侵害をしているのは明らかなのだから、それを警告サイトに飛ばしてほしいというだけで、表現の自由、検閲には当たらない。表現の自由を持ち出すのは議論のすり替えだと考える。

    ーーNTTグループがブロッキングを表明している。ほか、KDDI、ソフトバンクの2キャリアにもブロッキングを求めるか。

    求める。ISPがやってくれないことには進まない。

    ブロッキングは通信の秘密を侵害しないのか?

    KADOKAWAの主張する、DNSブロッキングは通信の秘密を侵害しないのか。

    京都大学教授(憲法学)で、一般財団法人情報法制研究所(JILIS)の研究主幹も務める曽我部真裕さんが、BuzzFeed Newsの取材に答えた。

    「ブロッキングが通信の秘密を侵害するという現行法の解釈については、専門家の間で異論はありません。また、同じく現行法の解釈として、通信の秘密の侵害に当たる場合に例外として許容されるのは、個別の同意、正当行為、緊急避難のどれかに当たる場合に限られるというのも異論がありません」

    「その意味では、KADOKAWAさんの意見は、現行法の解釈としては受け入れられません。ただ、これは個人的意見ですが、通信の秘密の侵害にもいろいろあるのはご指摘の通りですので、立法論の中では検討事項になりうるのではないかと思います」

    「とはいえ、ブロッキングは『警告サイトに飛ばすだけ』ではなく、目的のサイトが見られなくなるということですので、通信の秘密だけではなく表現の自由(知る権利)の問題でもあります。また、ISPにも相応な負担をかける話でもあり、慎重な検討が必要でしょう。私の関係している情報法制研究所(JILIS)でも引き続き提言を続けていく予定です」

    BuzzFeed JapanNews