敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。今回は、(株)今治.夢スポーツの経営企画室長で、FC今治の運営に携わる中島啓太さんの仕事術を伺いました。

・居住地:愛媛県今治市(瀬戸内海に面した美しい街です)

・現在の職業:FC今治を運営する、(株)今治.夢スポーツの経営企画室長

・仕事の仕方を一言で言うと:冷静と情熱の間でワクワクを創り出す

・現在の携帯端末:iPhone 7 Plus(画面が大きいのが良い)

・現在のPC:PanasonicのLet’s note LX6(同じく、画面が大きいのが良い) 

1.これまでに至る略歴と、現在の仕事に就いたきっかけを教えてください

私は大阪で生まれ育ち、高校はカナダに留学しました。

一度日本の大学に行きましたが、1年でやめてイギリスの大学に編入し、ビジネスを学びました。その後、21歳で卒業し、帰国後は新卒でデロイト トーマツ コンサルティングという経営コンサルティング会社に入社。

入社して半年ほど経った2013年のある日、隣のデスクの先輩が当時のCEOとの経済誌上の対談ゲストを探していて、どんな人が良いか私に尋ねてくれました。テーマは、「世界で戦う日本人リーダー」。2010年に南アフリカワールドカップを日本代表監督として戦った岡田武史(おかだ・たけし)さんのドキュメンタリーや記事をよく見ていた私は、すかさず岡田さんの名前を挙げました。

結果、対談相手は岡田さんに決まり、2014年にはその対談がきっかけで岡田さんがデロイトの特任上級顧問に就任。その年の暮れにはFC今治のオーナー就任も発表されました。

私は岡田さんが座長を務める若手向け社内勉強会にも参加し、いつか彼のようなリーダーと働きたいという気持ちが強くなっていきました。また、小さい頃からサッカーを続けていたので、仕事を通じて何かスポーツに関わりたいとも思っていました。

そんな矢先、デロイトがFC今治のトップパートナーになることが決まり、クラブのリスタートを支援するプロジェクトで、コンサルタントを1名今治に派遣することになりました。

千載一遇のチャンスだと感じた私は当時のCEOと岡田さんに頼み込み、運よくそのプロジェクトに参画することができ、そこから約1年2か月の間、新生・FC今治の立ち上げ支援に携わりました。

そのうちに、今治の地でこのプロジェクトを全うする覚悟ができたので、2016年末に転職し、今はFC今治を運営する株式会社今治.夢スポーツの経営企画室で働いています。

こうして文字にすると、とんとん拍子に話が進んだようにも見えますが、実は岡田さんには1度は転職を断られ、その後もなかなか取り合ってもらえなかった時期がありました。

それでも今治.夢スポーツが掲げる理念に共感し、岡田さんをはじめとするスタッフのみんなと一緒に今治で働きたい、という思いをめげずに伝えたところ、最後には自分の想いを受け入れてもらうことができました。この経験が、今の自分につながっていると思います。

2. 現在の仕事について教えてください

FC今治を運営する株式会社今治.夢スポーツの経営企画室で、"経営者・岡田武史"をサポートする形で、会社全体の中長期の経営方針を立て、それを推進していく仕事をしています。

経営コンサルタントとしての経験を活かしながら、中期経営計画の策定やJ1基準のスタジアム建設の推進に携わっています。

3. 東京から今治へ移住し、仕事のスタイルはどう変わりましたか?

「答えのない仕事をしている」という点で、180度変わったといえるのではないでしょうか。

コンサルタントの仕事は、依頼人、目的、期限、人的・金銭的資源、成果物、が必ず決まっています。職業倫理を持った第三者として、これに則って仕事を完遂したかどうかが非常に大切でした。一方、今の仕事は、夢と期待感を共有できる仲間(ファン)を増やすことです。

仲間が増えるほど、夢や期待感は多様化します。FC今治の勝利を楽しみにしてくれる方々、お孫さんとスタジアムに来ることが楽しみなおじいさんおばあさん、我々が教育事業として実施する、無人島のサバイバルキャンプや森育などを楽しみにしてくれているご家族もいます。これができれば完遂・成功だという基準がないのです。

入社直後はこの違いに困惑しましたが、会社のミッションステートメントを夜通し議論して、考え直す機会を持ったことがきっかけで、「同じ理念に向かって切磋琢磨する仲間がいる、僕1人ではない」と思えるようになりました。それ以来、困惑することは自然となくなっていきました。

今振り返ってみると、東京から今治に移住したことで、ある意味で「力を緩めること」ができるようになったと思います。答えのない仕事に必死で向き合うことに疲れたり、自分のことで精一杯になることもありますが、瀬戸内海の風光明媚な自然や、理念を共にする仲間に囲まれることで、ふと「大丈夫、何とかなる」「行き詰った時は立ち止まれば良い」と考える習慣が身に着いたと思います。

都会の喧騒に囲まれる中で働いていた時は「とにかく何とかせねば」とばかり思っていたので、結果的に余計なストレスがかかって、成果に結びつかないこともあったと思います。

4. 愛用している、仕事をうまく進行させるためのツール(ToDoリスト、アプリ、道具など)はありますか?

シンプルで気に入ったものを長く使うよう心がけています。

具体的には、「Twitter(@keitanakajiman)」「LINE」、名刺管理アプリの「Eight」、日記アプリの「Day One」、連携アプリの「IFTTT」の5つです。Twitter、LINE、Eightに集まる情報はIFTTTを使ってすべてDay Oneに自動で記録します。

Day Oneには私の日常の膨大な記録が残されているので、5年後くらいにライフブックとして個人で製本化してみたいです。かなり読み応えがあると思います。

5. 仕事場はどのような環境ですか?

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Image: 宮田雅生

昨年の4月から、地域の古民家を改修してオフィスとして利用しています。茶室や内風呂、中庭なんかもあって、リラックスできる環境です。中庭ではみんなでBBQをしたこともあります。

試合日はスタジアムで働いています。四国初となるJリーグ基準を満たしたサッカー専用スタジアムで、観客席からピッチまでは最短8mと臨場感抜群です。しまなみ海道を降りて数分の高台に位置するので、瀬戸内海を眺望することもできる素晴らしい場所です。実はあまり知られていないのですが、瀬戸内海から朝日が上がる風景もきれいに見ることができます。

都内への出張も多いので、コワーキングスペースも良く利用します。Yahoo! JAPANオフィス内の「LODGE」、東京ミッドタウン日比谷の「BASE Q」、飯田橋の「TIMES CAFE」などが手軽に利用できるのでお気に入りです。

6. お気に入りの時間節約術は何ですか?

「あえてふと立ち止まって考えてみること」「音声入力を駆使すること」です。

時間節約を考えてあれこれトライしてみたこともありますが、結局どれも上手くいきませんでした。そんな時ふと立ち止まって、本当に大事なものはなにでいまなにをすべきか、を考え直すと、案外うまくいくことに気づきました。

音声入力も最大限駆使します。外出先や移動中など、とにかく使いまくります。感覚的にですが、タイピングで5件メールを打つ間に、音声入力なら15件くらいさばけます。

7. 携帯電話とPC以外で「これは必須」のアイテムはありますか?

シンプルなものを好み、気に入ったものは長く使います。2つ必須なものがあり、1つは「Maruman(マルマン)」のA4サイズの方眼ノート、もう1つは大学生の時から使っている旅行用のバックパックです。Marumanのノートはページをきれいに切り取ることができ、複数のアイデアを書き出して並べ替えたり、スキャンして電子保管できたりするので、とても重宝しています。これがないと私の仕事の8割くらいは頓挫するかもしれません。

バックパックはかれこれ10年程使っています。もうボロボロなのですが、海外旅行にフラッと出かけるのが好きで、そのアイテムと共に30カ国くらいを回りました。サハラ砂漠でラクダが動かなくなって立ち往生して死にかけた時や、エーゲ海の美しい街並みを自転車で旅した時、南米の山奥を旅していたら帰りの航空券の日付が過ぎていてお金もなく絶望した時など、すべてを共にしたので愛着があります。今治に来てからはなかなか海外旅行に行けていないので、そろそろ活躍させてあげたいです。

8. 仕事中、どんな音楽を聴いていますか?

事務所に大きなスクリーンがあって、毎日1番に出社するスタッフが、好きなBGMをYouTubeから選んで流しています。洋楽や作業用BGMがほとんどなのですが、事務所の雰囲気がピリピリしているときなどは、こっそり彼に頼んでスローミュージックに変えてもらったりしています。雰囲気は大事ですから。

9. 仕事において役に立った本、効果的だった本は何ですか?

『虹の谷の五月』『社長失格』『What I Wish I Knew When I Was 20』の3冊です。

『虹の谷の五月』は船戸与一さんの小説で、フィリピン人と日本人の親を持つ13歳の少年が政情不安定な社会の中で必死に生き抜いていく物語です。

『社長失格』は元ハイパーネット社長の板倉雄一郎さんが80年台から90年代後半に経験した、起業して一時の栄光を掴んでから、紆余曲折を経て倒産するまでのドキュメンタリーです。倒産までの経緯を記した本は非常に稀です。

『What I Wish I Knew When I Was 20(20歳のときに知っておきたかったこと)』は起業家のティナ・シーリグさんが「若者の失敗と成功」をテーマに書き上げた本です。

すべて20歳までに出会った書籍で、私の今の人生や仕事の根幹となっています。信念を持つこと、挑戦すること、自分で道を切り拓くことの大切さを学びました。

10. 睡眠習慣はどのようなものですか?

私は8時間寝ないと気が済みません。おおよそ11時過ぎには布団に入っています。バックパック旅行にハマっていた時に磨かれたのか、環境に左右されずどこでも寝ることができるようです。

11. 仕事をよりよく進めるために「習慣」にしていることはありますか?

どんな仕事でも最初に、達成した時のイメージをとにかく鮮明に頭の中で描くことを心掛けています。

昨年、今治市に5000人規模のサッカー専用スタジアムが完成し、私はその建設マネジメントを担当していました。自分の家も建てたことない私にとってスタジアムを建てるのは大変な仕事で、毎日不安でした。

建設中、私は誰もいないスタジアムをいつも見ながら「最初の試合を迎えた時に、ファンが試合を楽しみにスタンドへ流れ込んでくる光景」を常にイメージしていました。

そして2017年9月10日10時、こけら落しを迎えた時、イメージしていた通りの光景を目の当たりにしました。試合も勝利し、ファンも心から喜んでくれるのを見て、涙が出ました。

その時の達成感は二度と忘れることはないと思います。どんな仕事でも、達成した時のイメージを持って取り組むことで、困難を乗り越えられ、何事にも代えがたい人生の財産になるのだと学びました。 

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2017年9月10日の試合
Image: 宮田雅生
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2017年9月10日の試合
Image: 宮田雅生

12. 仕事におけるネットワークを広げるコツや、関係性を築く上で工夫していることがあれば教えてください

袖振り合うも他生の縁」という言葉を大切にしています。一見なにげないように思えても、そこにはきっと何か理由がある。だからこそ、分け隔てなく色んな人に会うことを心掛けています。最近は前職や大学時代の友人の友人を交えて食事すること等が多く、今治にも頻繁に遊びに来てくれます。

新しい人と出会うことでインスピレーションを貰うことができたり、それが仕事に繋がったりすることもあります。数年前に1度だけ会ったような方でも、ピンときたら、すぐに連絡してみたりもします。

13. いまお答えいただいている質問を、あなたがしてみたい相手はいますか?(なぜ、その人ですか?)

映画監督のクリント・イーストウッドさん、作家の故・山崎豊子さんです。お二人とも戦争を含めて社会情勢の大きな変化や、人生の酸いも甘いも経験された方です。また、歳を重ねてもなお挑戦を続け、世の中に対して強烈なメッセージを伝える素晴らしい作品を手掛けておられます。こうした経験をされた方が、人生において本当に重要なことに集中するために、普段からどのようなことを心がけているのかを聞いてみたいです。

14. これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください

自分のことは自分で決めなさい by 母親

中学校の頃から口酸っぱく言われていましたが、当時は何を言っているのかあまりよくわかっていませんでした。

海外の高校や大学で自発性や主体性を持つ大切さを学ぶ中で、振り返るとそれが「自分のことは自分で決められる」ということだったのだと、その時やっとわかりました。

それ以来、自分が「違う」と思ったら「違う」と、「良い」と思ったら「良い」と、相手がだれであってもはっきり言うようにもなりました。

15. 仕事を通じて、将来実現したいと考えていることを教えてください

スポーツやスタジアムだからこそ成しえること、社会に貢献できることは、「見ず知らずの人と喜怒哀楽を共有することを通じて、幸せを分かち合える体験を生み出すこと」だと思います。

今治に、誰もが心の豊かさを感じられる日本で唯一無二のスタジアムを建て、いまはJ3の更に下部に相当するJFLに所属するFC今治がJ1の舞台で躍動するのを、ファンのみなさんと一緒に見届けたい。

昨年竣工したスタジアムはJ3仕様なので、これからJ2/J1仕様の施設の新設を推進していきます。30代前半にはその状態にたどり着いていたいです。その後は40歳頃までに、そこで得た経験を更に活かして、違った形で社会に貢献できる仕事に取り組んでみたいと思っています。

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Image: 宮田雅生

Source: FC今治