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日本のゲーム開発力は復活しつつある? Game Developers Choice Awardsのノミネートタイトルから見えてきたこと
そこで頭に浮かんだのが「Game Developers Choice Awards」(以下,GDC Awards)だ。2001年から開催されているこのイベントでは,ゲーム開発者からなるInternational Choice Awards Networkのメンバーの投票で,前年にリリースされたタイトルから優秀なものが表彰される。ゲーム開発を一番よく知っている人達が選ぶ優秀タイトルということで,開発力をある程度は反映している賞であるとも言える。
GDC Awardsでは時代の変化に合わせて部門が増設されたり,ノミネート方式が変わったりしているのだが,「Game of the Year」「Best Audio」「Best Design」「Best Technology」「Best Visual Art」の5部門は,その年によって名前を変えつつも(Best Technologyは以前Excellence in Programmingなどと呼ばれていた)第1回から続いており,「ノミネート5作品から受賞作品1つを選ぶ」という方式で一貫している。そこでこれを本稿では主要5部門として,日本産タイトルのノミネート数をまとめてみた。以下がそのリストだ。
なお,カウントしているのはあくまで「日本で開発されたタイトル」であって,海外スタジオが開発し,日本のパブリッシャからリリースされたタイトルは除いている。その点は注意していただきたい。
GDC Awards主要5部門にノミネートした日本のタイトル
(太字は受賞)
●第1回(対象は2000年リリースのタイトル)
「F355チャレンジ」(Technology)
「サンバDEアミーゴ」(Audio)
「ジェットセットラジオ」(GOTY,Visual Art)
「シェンムー」(GOTY)
「スペースチャンネル5」(Audio)
「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」(Design)
「DEAD OR ALIVE 2」(Visual Art)
●第2回(対象は2001年リリースのタイトル)
「ICO」(GOTY,Design,Visual Art)
「グランツーリスモ3 A-spec」(Technology,Visual Art)
「ピクミン」(Design)
「METAL GEAR SOLID 2 SONS OF LIBERTY」(Audio)
「Rez」(Visual Art)
●第3回(対象は2002年リリースのタイトル)
「キングダム ハーツ」(Visual Art)
「ジェット セット ラジオ フューチャー」(Audio)
「スーパーマリオサンシャイン」(Design)
●第4回(対象は2003年リリースのタイトル)
「キャッスルヴァニア」(Audio)
「SILENT HILL 3」(Visual Art)
「ゼルダの伝説 風のタクト」(GOTY,Visual Art)
「ビューティフル ジョー」(Visual Art)
「メイド イン ワリオ」(Design)
●第5回(対象は2004年リリースのタイトル)
「塊魂」(GOTY,Audio,Design)
「ピクミン2」(Design)
「ペーパーマリオRPG」(Visual Art)
●第6回(対象は2005年リリースのタイトル)
「エレクトロプランクトン」(Audio)
「おいでよ どうぶつの森」(GOTY,Design)
「nintendogs」(Design,Technology)
「バイオハザード4」(Visual Art)
「みんな大好き塊魂」(Visual Art)
「ワンダと巨像」(GOTY,Design,Technology,Visual Art)
●第7回(対象は2006年リリースのタイトル)
「Wii Sports」(GOTY,Design,Technology)
「大神」(GOTY,Design,Visual Art)
「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」(GOTY)
「デッドライジング」(Technology)
「FINAL FANTASY XII」(Visual Art)
「LocoRoco」(Audio)
●第8回(対象は2007年リリースのタイトル)
「スーパーマリオギャラクシー」(GOTY,Design)
●第9回(対象は2008年リリースのタイトル)
「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」(Audio,Visual Art)
●第10回(対象は2009年リリースのタイトル)
「Demon's Souls」(GOTY)
●第11回(対象は2010年リリースのタイトル)
「スーパーマリオギャラクシー2」(Design)
●第12回(対象は2011年リリースのタイトル)
「El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON」(Visual Art)
「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」(Design)
「DARK SOULS」(GOTY,Design)
●第13回(対象は2012年リリースのタイトル)
ノミネート作品なし
●第14回(対象は2013年リリースのタイトル)
「スーパーマリオ 3Dワールド」(GOTY,Design)
「ゼルダの伝説 神々のトライフォース2」(Design)
「二ノ国」(Visual Art)
●第15回(対象は2014年リリースのタイトル)
「ベヨネッタ2」(GOTY,Visual Art)
「進め! キノピオ隊長」(Design)
●第16回(対象は2015年リリースのタイトル)
「Splatoon」(Design,Visual Art)
「Bloodborne」(GOTY,Design,Visual Art)
「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」(GOTY,Audio,Design,Technology)
●第17回(対象は2016年リリースのタイトル)
「人喰いの大鷲トリコ」(Visual Art)
●第18回(対象は2017年リリースのタイトル)
「スーパーマリオ オデッセイ」(GOTY,Design)
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(GOTY,Audio,Design,Technology,Visual Art)
「Nier: Automata」(GOTY,Audio,Design)
「ペルソナ5」(Visual Art)
何と言っても目につくのは,第7回までの“無双っぷり”と,第8回からの苦境だ。
日本タイトルは第7回まで毎回何かしらの部門で受賞しており,特に第6回は「ワンダと巨像」がGame of the Year,Best Design,Best Visual Ars,「nintendogs」がBest Technologyと,5部門中4部門を受賞した。
次の第7回も全部門にノミネート(しかもGame of the Yearは5タイトル中3タイトル)と,向かうところ敵なしといった感じだったのだが,2008年の第8回では延べ2タイトルのノミネートといきなり落ち込み,ここから低迷期が始まる。
第8回の対象となっているのは2007年リリースのタイトルだが,この年はPlayStation 3(2006年11月発売)やXbox 360(2005年11月発売)向けタイトルが本格化した時期に当たるのが興味深い。グラフィックスがHDになり,開発体制が巨大化して,開発費用も一気に上がり,日本のメーカーがそういった変化についていけず,低迷が始まった……などと言われることもある時期だが,GDC Awardsの傾向は,それと奇しくも歩調を合わせているのだ。
この第8回で日本のタイトルから唯一ノミネート(2部門)し,“孤軍奮闘”した「スーパーマリオギャラクシー」が,SDグラフィックスのWii用ソフトだったことも象徴的だ。
第9回以降も,ノミネート数は最高で4という低迷が続き,第13回ではついに0となってしまった。この1年前のGDC 2012では,稲船敬二氏が「日本のゲーム業界はまず負けを認めるべき」と話して(関連記事),物議を醸したのだが,今振り返れば,稲船氏は当時の状況を的確に分析していたと言えるだろう。
そんな状況に光が差したのは,第16回だ。「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」(PC / PS4 / PS3 / Xbox One / Xbox 360)「Bloodborne」「Splatoon」が評価され,受賞こそなかったものの,久々に5部門すべてに日本のタイトルがノミネートした。
翌年の第17回は「人喰いの大鷲トリコ」がBest Visual Artにノミネートしたのみだったが,2018年3月に行われた第18回で「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(Switch / Wii U)が,Game of the Yearを含む3部門を受賞したのは記憶に新しいところだろう。ほかにも「Nier: Automata」(PC / PS4)「スーパーマリオ オデッセイ」「ペルソナ5」(PS4 / PS3)がノミネートし,延べノミネートタイトル数としては過去最多タイの11本となった。
このように,GDC Awardsのノミネート数という視点で見れば,日本のゲーム開発力は,一時の低迷を脱しつつある。かつてのように毎年安定して複数のタイトルを送り込んでいるわけではないが,世界のゲーム開発者の中で,再び日本のゲームが注目を集め始めているのではないか。少なくとも「戦えていない」という状況ではなく,日本のゲーム開発者達は世界を相手に堂々と渡り合い,結果を出している。
冒頭で書いたように,日本のゲーム業界についての悲観的な見方を目にすることはまだある。業界の将来を案じるあまり,厳しい評価を下す向きもあるのだとは思うが,そんな中で生まれている名作が「日本のゲームはダメだから」といった思い込みでスルーされているとしたら,それこそ悲しいことだ。
先入観を持たずに遊んでみれば,「日本のゲームはやっぱり面白い!」と感じてもらえるはずだと思っている。
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