トランプ氏の支持者にも衝撃 米ロ首脳会談

アンソニー・ザーカーBBC北米担当記者

U.S. President Donald Trump and Russia"s President Vladimir Putin shake hands during a joint news conference after their meeting in Helsinki, Finland, July 16, 2018

画像提供, Reuters

ウラジーミル・プーチン氏とドナルド・トランプ氏のヘルシンキ会談は終わった。密室での2時間近くと、報道陣を前にした1時間。点検すべき内容はたっぷりある。

会談に先駆けて、民主党側はトランプ氏に、プーチン氏を相手にする際には気をつけるよう呼びかけていた。司法省が13日に、2016年米大統領選で米国にサイバー戦争をしかけた罪でロシア軍人12人を正式起訴したばかりなのだから、米国大統領がロシア大統領と会談すること事態が不見識だという意見もあった。

その一方で、多くの共和党関係者の間には、大統領が様々な問題についてプーチン氏に対抗するだろうと、慎重な期待感があった。共和党のスティーブ・スカリース下院院内総務は、トランプ氏が「米国として強い立場から、ロシアの敵対行為に反攻するだろう」とツイートしていた

しかし実際のことの運びは……いささか違っていた。会談内容と反応の主なものは次の通り――。

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「全員に責任がある」

共同記者会見で最初に質問した米国人記者はトランプ氏に、現在の米ロ間の緊張関係は米国の愚かしさのせいだとなぜツイートしたのかと問いただした。

説明を求められた大統領は、以前の主張を繰り返し、「両方の国に責任がある」と述べた。

米ロ双方に「ミスがあった」とトランプ氏は述べた。しかし、ロシアによるウクライナへの軍事干渉やクリミア併合、英南部での神経剤「ノビチョク」攻撃、米大統領選介入に関するロシア人起訴など、具体的な内容には触れなかった。

動画説明, トランプ氏とプーチン氏、多岐にわたり同意見 首脳会談

代わりにトランプ氏は、自分の選挙陣営とロシアとの間に「結託などまったくなかった」と強調した。選挙介入の疑いと、結託の証拠の有無について、そうやってトランプ氏はごちゃまぜにした。選挙介入についてはすでに多数のロシア人が正式起訴されているし、結託の疑いについてはロバート・ムラー特別検察官はまだ言及していないのだが。

選挙介入についてロシア政府とプーチン氏を直接的に非難するかどうか質問されると、トランプ氏は(ダン・コーツ国家情報長官を含む)自分の情報当局者が「ロシアだと思う」と報告していると述べた。しかし、米大統領はこうも続けた。つい先ほどプーチン氏が、ロシアではないと否定したのだと。

「プーチン大統領はロシアじゃないと言っている。ロシアである理由が見当たらない」とトランプ氏は結論した。自国政府の結論よりも、ロシアの無実の主張を信用しているようだった。

トランプ氏はかねてから、米国の複数の情報機関を批判してきた。おかげで、米国の情報活動コミュニティーは困った状況にさらされてきたし、今回もまたしかりだ。しかし就任からすでに1年以上たつトランプ政権関係者は、もはやこの状況について責任をとらなくてはならない。

情報活動コミュニティーの統括するコーツ情報長官は声明を発し、ロシアが「継続的かつ広範囲にわたり」米国の民主主義を傷つけようとしているという「事実をもとに判断した」結論について、各情報機関の立場は変わらないと表明した。

トランプ氏はこれを受けて16日、情報機関をツイッターでなだめようとした。

「今日も言ったし、これまでも何度も繰り返してきたように、『自分の情報関係者を大いに信頼している』。一方で、より明るい未来を築くためには、過去にばかり注目しているわけにはいかないことも私は認識している。世界の2大核保有国として、我々はうまくやっていかなくてはならない!」

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ムラー特別検察官はすでに20人以上のロシア人を起訴してきたが、トランプ氏はまだロシアのせいだと納得していない。それよりも、民主党のサーバーや連邦捜査局(FBI)の偏向を問題視している。

それでも、トランプ政権下の司法省とムラー検察官の捜査チームは黙々と作業を続けるだろう。その証拠に16日午後には新たに、ロシア人女性を外国人工作員として起訴した。しかし、トランプ氏は今後もひるまず精力的に、司法省とムラー氏の作業を非難し続けるに違いない。

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トランプ支持者は激怒せず

当然のように米国の左派は、トランプ氏の振る舞いに非難と嘲笑で応えた。民主党のチャック・シューマー上院院内総務は「恥ずべき真似」、「無思慮で危険で弱腰の行動」と呼んだ。バラク・オバマ前大統領の下で中央情報局(CIA)長官だったジョン・ブレナン氏は、トランプ氏は国家反逆罪に値すると非難した。

一方で、トランプ氏を決して受け入れない「ネバー・トランプ」派の保守派も、ただちに「そら見たことか」と指を差した。ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事の顧問で共和党戦略担当のマイク・マーフィーは、トランプ氏を非難するツイートを連投した後、「今日は暗い日だ」と書いた。

共和党重鎮で2008年米大統領選の共和党候補だったジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州選出)は、「米国大統領による「恥ずべき振る舞いだ」と非難。「独裁者の前でこれほどみっともない真似をして、自分を貶めた大統領は今までいなかった」と声明を出した。

上院軍事委員会の委員長でもあるマケイン議員は、「トランプ大統領の能天気ぶり、エゴイズム、同等でないものを同等だという勘違い、独裁者への共感。こうしたものがどれほどの危害をもたらしているか、計算するのは難しい。しかし、ヘルシンキの首脳会談が悲劇的な過ちだったのは明らかだ」と書いた。

Putin, and the Trumps with a World Cup ball

画像提供, EPA

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保守派の不安

特筆すべきは、トランプ氏を受け入れ始めている(あるいは、受け入れ始めていた)共和党関係者の間の反応かもしれない。ジョン・ハンツマン駐ロ米国大使の娘で保守派論客のアビー・ハンツマン氏は、「自分の国と同胞を見捨ててもかまわないほど価値のある交渉などない」とツイートした

共和党から2012年大統領選に出馬したニュート・ギングリッチ元下院議長は、かねてからトランプ氏を支持してきた。しかし、情報機関に対するトランプ氏の諸々の発言について、「この国の情報活動システムとプーチンに関するヘルシンキでの発言の真意を、トランプ大統領は明確する必要がある。トランプ政権における最も深刻な過ちで、修正しなくてはならない。直ちに」とツイートした。

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トランプ氏を批判したかと思うと、その相談相手にもなる共和党重鎮リンジー・グレアム上院議員(サウスカロライナ州選出)は、批判勢力の立ち居地に戻り、首脳会談を「機会を逸した」「米国にとって悪い1日」と批判し、米国の弱みをロシアに露呈したことになると懸念した。

米紙ニューヨーク・ポストのコラムニスト、キャロル・マーコウィッツ氏は数カ月前、トランプ支持派も批判派も保守派はいずれも、発言をトーンダウンさせるべきだと書いていた。しかしそのマーコウィッツ氏も今回は、歯に衣着せず批判する側に回った。

「トランプがどれほど好きでも、ヒラリーを倒してくれてどれほど嬉しいとしても、オバマの外交政策はお笑い種だったと思っていてそれが正しいいとしても、今回のこれについてはきちんと批判しよう。これはとんでもないことで、米国大統領がこんな真似をしていいはずがない」

保守派ニュースサイト「ドラッジ・リポート」は首脳会談について、「プーチン圧倒」という大きな見出しを掲げた。通常はどこよりもトランプ氏を擁護し、どこよりもトランプ氏の主張とトランプ氏への称賛をこだまのように繰り返す保守派のフォックス・ニュースでさえ、コメンテーターたちは不安そうな表情だった。その1人のニール・カブート氏は、トランプ大統領の振る舞いを「みっともない」ものと呼び、米国の利益が「かなり後退した」と批判した。

ニュースサイト「アクシオス」は、「フォックス・ビジネスのニール・カブートはトランプの記者会見を『気色悪い』、『我々の立場はかなり後退した』と発言した」と映像と共にツイートした。

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フォックス・ニュースのホワイトハウス特派員ジョン・ロバーツ記者は、「大統領が合衆国を見捨てたという共通認識が、今日この夜、国中に広まりつつある」と発言した。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル論説委員のメアリー・キッセル氏はフォックス・ニュースで、首脳会談では「何も達成されなかった」と断言した。

「大統領は結局、もっと会談したい、プーチンに近づいて、プーチンに助けてもらいたいと思っていると、そういう風に見えた。本来ならば、プーチンの方から接近して、もっと手加減してほしいと向こうからお願いしてくるべきなのに」、「残念ながら、プーチン大統領はプロパガンダ的に大勝利を挙げた」とキッセル氏は述べた。

どれもこれも、もちろんのど元を過ぎれば忘れ去られる可能性もある。最高裁判事の承認に中間選挙と、米政界は国内でいくつかの対決を控えているので、党派対立の線はすぐに復活するかもしれない。

しかしながら今回は、政局的打算がいずれ最優先されなくなった時点で、保守派からさらに本格的にトランプ氏に対抗しようという動きが出るのではないかと、その懸念と可能性が、わずかながらちらついた。

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「最初の大事な一歩」

しかし、トランプ氏と支持基盤はそうは思っていない。トランプ氏たちにとって今回の首脳会談は、世界の2大核保有国が関係を改善するため、より大きい取り組みの始まりとして位置づけるべきものなのだ。

「この共和国の草創期から、米国の指導者たちは、紛争と敵対よりも外交と関係構築が好ましいと理解してきた」とトランプ氏は述べた。

プーチン氏もこれに同調し、首脳会談を「最初の大事な一歩」と呼んだ。

首脳会談からは具体的な結果は生まれなかった。それだけに、これからも繰り返す首脳会談の始まりなのだと、両大統領は今回を位置づけた。

しかし、米国内では政治的立場を超えた反応が出ている。それだけに、今後も今回のような会談を繰り返すのは、いささか難しいかもしれない。

1週間の外国訪問で米国の外交政策を激しく揺さぶり続けたトランプ氏は16日、外遊の最終日に米外交に最後の一撃を見舞った。

欧州の同盟諸国は不安顔だ。米ロ関係は不確実だ。そして、米政界は揺れている。ホワイトハウスの広報部でさえ、不安そうだ。

次はどうなるのか? それは分からない。