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美肌のためにはコラーゲンを食べるべき?

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 「健康でハリのある若々しい肌を保ちたい」という願いは誰もが持っているのではないでしょうか。コラーゲンの美肌効果への期待が世界的に高まっており、コラーゲンの生産が追いついていないというニュースを目にしました。

 ニュースを裏付けるように、美容や健康目的のサプリメントから、グミキャンディ、飲食店のメニューでもコラーゲン鍋やコラーゲンサワーなどコラーゲンやコラーゲンペプチド配合を謳った商品を目にする機会が増えているように思います。

 コラーゲンといえばお肌ぷるぷるというイメージが定着していますが、コラーゲンとゼラチンは何が違うのか、体の中でどのように機能するのかなど知らない人は多いように思います。そこで、コラーゲンとはどういうものなのか、現時点での健康効果への評価や、食生活に採り入れる場合の注意点などをまとめてみました。

 

■ゼラチンと何が違うの

 コラーゲンはタンパク質の一種で、骨や軟骨の成分として、体を支えたり、皮膚や腱などに柔軟さを与えるなど、体にとって重要な役割を担っています。ゼラチンはふやかしてジュースなどに溶かすことでプルプルのゼリーやグミキャンディなどの材料にもなる凝固剤ですが、動物の骨や軟骨、ウロコなどコラーゲンが豊富な組織を高温にせずに煮込むことでつくることができます。そのままのコラーゲンは硬くて水にとけませんが、加熱して変性すると水に溶けて消化の良いゼラチンのように性質が変化します。成分的にはほぼ同じですが、ゼラチンになることでコラーゲンを一般的な食材として食べられるようになります。ちなみにコラーゲンもコラーゲンペプチドの粉末を冷やし固めてもゼラチンのようにプルプルのゼリーはつくれません。

 

■コラーゲンはそのままでは吸収できない?

 コラーゲンは消化されにくいだけでなく、体に吸収されたとしてもバラバラになってアミノ酸になるため、そのまま皮膚のコラーゲンとして再生されるわけでもありません。そのため、コラーゲン使ったいわゆる健康食品に対し、専門家からも多くの疑問が寄せらたこともあり、現在ではコラーゲンを酵素により細かく分解したコラーゲンペプチドを配合した食品が主流になってきています。

■コラーゲンペプチドは何が違う?

 コラーゲンペプチドは分子量が小さいため、消化吸収されやすく、さらにアミノ酸が数個つながったままの状態(ペプチド)で体内に取り込まれることが分かっています。完全に分解されないまま体内に吸収されたコラーゲン由来のペプチドが血液中に増えてくると、それが刺激になって体内でのコラーゲン合成が活性化すると考えられています。これはまだ仮説の段階なのですが、ようするに体の組織が壊れてコラーゲンが血液中に増えてしまった状態と勘違いをさせ、コラーゲン合成を活性化させようという理屈です。

 こうした仮説が提唱され、それを支持する細胞実験や血液を分析したデータがでてきており、コラーゲンを食べても分解されてしまいアミノ酸になるので意味はない、という批判は的外れになってきています。

■では効果はあるの?

 理論には妥当性はありそうですが、食べて期待する効果が得られなければわざわざコラーゲンペプチド商品を買う意味はありません。現時点でのエビデンス(科学的根拠)を調べてみると、DBRCTという妥当性の高い方法で行われた臨床試験でも褥瘡や変形性膝関節症などで効果があったという報告がいくつかでています。ただし、効果が見られたという報告がまだ少ないことと、反対に効果が見られなかったとう報告もあるため、今のところ「効果があるとは強くいえない」という評価に留まるでしょう。

 また、効果を報告している事例でも、実験参加者が少ない、解析や評価に疑問がある、利害関係のある企業が関与(利益相反)している例なども多く、質の高い報告が増えてくるまでは効果を期待しない方が良さそうです。

 機能性表示食品制度では、このようなまだ専門家でも議論の分かれる状況でも、根拠となる人を対象にした臨床試験の結果などがあれば、その根拠を消費者等が確認出来るようにすれば企業の責任で効果を謳うことが許されています。「肌への効果が実証」、「膝への効果が臨床試験で確認された」と宣伝されているものを消費者が疑うというのはかなり無理があるように思います。消費者の想像するコラーゲンペプチドの効果と企業の考える効果の差が大きいのではないかというのが気になるところです。

■コラーゲンの栄養価

 ここまで美肌とコラーゲンという観点で見てきましたが、食品としてのコラーゲンの栄養価について考えてみたいと思います。コラーゲンは少し偏ったアミノ酸組成を持っていて、グリシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アラニンという4種類のアミノ酸からできているのですが、これらは非必須アミノ酸に分類されています。非必須アミノ酸は体の中で他のアミノ酸から作り出すことができるものです。それに対して必須アミノ酸は他のアミノ酸から作れないため、食べものから一定の量をとらなければなりません。

 食品に含まれているタンパク質の栄養価を評価する指標にアミノ酸スコアというものがありますが、必須アミノ酸を含んでいないコラーゲンやゼラチンのアミノ酸スコアは0になります。

 肌に良いからとコラーゲンばかりを摂取してしまうと、体にとって必要なアミノ酸のバランスが崩れてしまうおそれがあります。栄養状態の低下は肌の健康にも悪影響をおよぼしますので、普段の食生活こそ大切にして欲しいと思います。

■低栄養の高齢者に・・・という危険性

 最近見かけることが多いのが、高齢者を対象にしたコラーゲンペプチドを配合した栄養補助食品です。コラーゲンに創傷治癒や褥瘡治療効果があるという期待から配合している商品が増えてきているように思います。

 コラーゲンは必須アミノ酸を含まないタンパク質ですので、栄養価の低い食品だというのは先ほど説明した通りです。高齢になり身体機能が低下してくると自分で食事をつくることが難しくなったり、食欲の低下、咀嚼機能の低下、消化吸収不全など様々な理由が複合的におこり、十分に栄養を摂取することが困難になり低栄養の危険性が高くなります。

 このような人が効率よく栄養補給するためには、食べやすく量があまり多くなく、必要な栄養素がとれる食品が理想的です。コラーゲン飲料やゼリーを飲んで満足してしまい、他の大事な栄養がとれなくなってしまっては本末転倒です。

 褥瘡のある高齢者が利用する場合でも、必須アミノ酸はしっかり確保できているかを確認することが大前提です。

■今回のまとめ

・コラーゲンとゼラチンは構成成分は同じだが、食品としての性質は異なる

・コラーゲンやコラーゲンペプチドはプルプルしない

・コラーゲンペプチドは体の組織を再生を促す役に立つ可能性はある

・コラーゲンペプチドの美肌効果はあるともないともいえない

・栄養素としてはコラーゲンの価値は低くエネルギー源になるぐらい

・食欲の低下している高齢者がわざわざコラーゲンを食べるのはデメリットの方が大きい

 現状は、コラーゲンの美肌効果というイメージばかりが先行しているように思います。「○○を食べれば△△に効く」という魔法のような効果を期待させてしまうような食品の宣伝には眉につばをする態度が大事だと思います。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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