「スマホで稼がないスマホメーカー」シャオミ、その異色のビジネスモデルに迫る

シャオミ製スマートフォン

シャオミ製のスマートフォン。2018年5月、香港の通信大手CKハチソンとの戦略提携を発表した際の展示より。

Reuters

中国の大手スマートフォンメーカー、小米科技(シャオミ)が香港証券取引所に上場を申請した。2014年のアリババグループ以来となる大型中国企業の上場として注目を集めている。

シャオミは2009年の創業。歴史は浅いが、2017年のスマホ市場シェアでは世界第5位につけている。

IDC: Smartphone Vendor Market Share Chart

シンプルながらオシャレなデザイン(創業者でCEOの雷軍[レイ・ジュン]は「ハードウェア業界の無印良品」という言葉でこのデザインを語っている)と圧倒的なコストパフォーマンスの高さ(同スペックの他社製品と比べても2~3割安い)を武器に成長を続けてきた。中国スマホのイメージを向上させたパイオニアと言っていいだろう。

今や世界各国でファーウェイ、ZTE、OPPO、VIVO、ONE PLUSなどの中国スマホブランドが人気を集めているが、その火付け役と言っても過言ではない。

シャオミ製品の売りはデザインとコスパだが、企業としての強みはそのビジネスモデルにある。「スマホでは儲けないと約束するスマホメーカー」、本稿ではその異色の取り組みに迫りたい。

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「ハードウェアの利益率は5%以下に抑える」

シャオミが香港証券取引所に提出した新規株式上場(IPO)申請書によって、同社の財務情報が明らかになった。売り上げはスマホ、IoT・生活消費製品、インターネットサービス、その他の4部門に分類されている。

IPO申請書(1)

部門別の売り上げとその推移を示している(シャオミが香港証券取引所に提出したIPO申請書より)。

Xiaomi

スマホは売り上げの70%を占めるシャオミの主要事業である。スマートテレビ、ルーター、ウェアラブル端末、スマート家電、さらには自撮り棒やリュックサック、乾電池(!)などを含むIoT・生活消費製品の売り上げも伸びているが、現時点では20%にとどまる。

だが、利益(下表)で見ると、事情が変わってくる。

IPO申請書(2)

シャオミの部門別の利益および利益率、その推移(シャオミのIPO申請書より)。

Xiaomi

営業利益151億5420万元(約2640億円)のうち、スマホ部門の利益は71億134万元と半分以下。インターネットサービス部門の利益が59億6075万元と、スマホに迫っている。

インターネットサービス部門には、広告事業に加え、有料アプリやゲームの課金、動画・音楽の月額講読など、ユーザー課金事業が含まれる。売り上げベースでは1割未満だが、利益ベースでは4割近くを占める、シャオミの利益セクターだ

前述の通り、シャオミのスマホ製品はコスパの高さが売りで、価格が安いためハードウェアの利益率は低く抑えられている。IPO申請書によると、スマホ部門の利益率は8.8%、IoT・生活消費製品部門は8.3%にとどまるが、そこからさらに引き下げると雷軍氏は言う。

雷軍氏は5月初頭、「シャオミとは何者か、シャオミは何のために奮闘するのか」と題した公開書簡を発表しているが、その中で「2018年以降、シャオミのハードウェア製品の利益率は永久に5%を超えることはない。もし上回れば、ユーザーに還元する」と宣言している。

「シャオミ商城」を通じた小売事業も貢献

シャオミマニア

「ハードウェア業界の無印良品」と言われるシンプルなデザインのシャオミ製品には、熱心なファンがついている。

Reuters

雷軍はシャオミの事業を「トライアストン(三本柱)」と表現している。すでに述べたスマホ、IoT・生活消費製品とインターネットサービスに続く、もう一つの柱が小売りだ。

同社は「小米(シャオミ)商城」というショッピングサイトを保有している。創業初期は同サイトが唯一の販売経路で、「EC専売のスマートフォンメーカー」がビジネスモデルだった。

現在は携帯キャリアの代理店、直営店と、実店舗での販売チャネルが増えたものの、今でも自社ECサイトの重要性は衰えていない。サイトを開くと、IoT製品が大量に並んでいるのが目をひく。これらの多くは、シャオミと関連する投資基金から出資を受けた関連企業の製品だ。

シャオミが出資した企業の数はすでに100社を超える。まだ最初の製品すら出したことがないスタートアップにも積極的に投資しているのが特徴だ。これらの企業群は「シャオミ・エコシステム」と呼ばれている。あのセグウェイを買収した「ナインボット(Ninebot)」もその一角を占める。

ブランドを構築することに成功したシャオミは、その力を使って、無数のIoT製品を売る小売企業としての地位を確立したのである。中国の招商証券は今年5月に発表したレポートの中で、シャオミ・エコシステムを「世界最大のIoTプラットフォーム」と評価している。

経営危機乗り越え、海外での売り上げ比率が急増中

雷軍(レイ・ジュン)CEO

2018年3月の全国人民代表会議に臨む、シャオミの雷軍(レイ・ジュン)CEO。

Reuters/Stringer

特色あるビジネスモデルを武器に成長してきたシャオミだが、実は2015年から2016年にかけて危機が到来していた。フラッグシップモデルの開発に遅れたこと、OPPOやVIVOなどライバルメーカーの躍進などによって販売台数が減少したのだ。中国メディアの間では、キャッシュフローが枯渇したのではと一時噂されるほどの危機に追い込まれた。

2017年になってシャオミはこの危機を克服した。ベゼルレスなど先端技術を盛り込んだ製品の発表、直営店販売の強化と並び、海外市場での好業績も大きく貢献した。

特に巨大市場として注目を集めるインドで、2017年の第4四半期に売り上げトップの地位を獲得したことが大きい。IPO申請書を見ると、海外での売り上げ急増は一目瞭然だ。2017年の海外売り上げ比率は28%にまで達している。

IPO申請書(3)

国内と海外での売り上げ額、およびその構成比の推移を示している(シャオミのIPO申請書より)。

Xiaomi

雷軍氏は公開書簡において、「シャオミモデルは全世界で速やかな移植が可能だという普遍性を証明し続けている」と胸を張り、「われらが征くは星の大海だ。今はまだ第一歩を踏み出したに過ぎない。私たちはすでに数億人の生活を変えたが、将来的にシャオミは全世界数十億人の生活の一部になる」と、さらなる海外展開への野心を示している。

日本のアニメ・コミック・ゲームの影響力は大きい

余談だが、シャオミの若者カルチャーの日本との関わりについても触れておこう。

雷軍氏が書簡で使った「われらが征くは星の大海」というフレーズは、日本の人気ゲーム「Fate/Grand Order(フェイト・グランドオーダー)」に登場するとともに、日本アニメ『銀河英雄伝説』のサブタイトルにも使われた。若者をメインターゲットとするシャオミは、日本のアニメやゲームからしばしば言葉を引用している。

シャオミ商城のサイト最下部には、「ブラックテクノロジーの探索を/シャオミはマニアのために誕生した」とのキャッチコピーが書かれている。ブラックテクノロジーとは「すごい技術」を指すネットスラングだが、語源をたどると、日本のライトノベル『フルメタル・パニック!』の用語が中国で広まったものだという。

日本の「ACG(アニメ、コミック、ゲーム)」が中国の若者たちの間でどれだけ影響力があるか、これらの例からもよく伺える。

編集部より:シャオミのIPO申請書の図とキャプションの対応関係を訂正しました。2018年5月23日 9:15

高口康太(たかぐち・こうた):ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国の経済、社会、文化を専門とするジャーナリストに。雑誌、ウェブメディアに多数の記事を寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』『現代中国経営者列伝』。

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