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面白法人カヤック人事部のKPIを考えるプロセスを書いた(2018年3月時点)

カヤック人事部の柴田です。

2018年の3月に社外のセミナーで話した内容です。ここ2年ぐらい私が悩んでいるテーマ、そして、いま考えている解決の方向性のシェア(ただし未完であり、未解決問題が残っている)となります。

まず、「KPI考えるのって難しいよな、そもそもから疑わないと間違えているときあるよね」みたいなことをカヤックの採用キャンペーンの費用対効果を測定した話で話しました。

では本題です。


ここ2年ぐらい悩んでいたこと

人事として今悩んでいることは大きく2つです。

悩み1:事業の種類が増え、人事施策の複雑性が増している。

ゲーム事業クライアントワーク事業もあれば、ウェルプレイド株式会社のようなesports専門のグループ会社もあります。採用で例えます。

・職種Aで3人中途採用する
・職種Aで1名、職種Bで1名、職種Cで1名中途採用する

この2つの工数は同じかというと、経験上、後者の方が工数が増えます。職種ごとに採用手法が違ったり、各職種で連携して開発を行うのであれば、職種Bを採用するために職種Aと職種Cの知識も必要だったりします。つまり、

「採用工数は、募集する職種数の2乗に比例する」

みたいなことです。(根拠はない)

同業他社と比較して複雑性が高い、ということではなく、過去のカヤックの状況と比較して複雑性が高まっており、人事部が対応できなくなっているという意味です。

事業の数が増えてますし、人員計画も予定通りにはいかないことが増えた結果、人事部が対応できてないなー、という状態です。これは「悩み」の説明なので、これぐらいのもやっとした状態で書いておきます。


悩み2:管理本部の人員を増やすなといわれる。採用担当少ない。

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(決算説明会資料より)

決算説明会資料によると、面白法人カヤックの管理部門の人数は2017年末で16名。カヤック本体の全社員数は280名ぐらいです。人事部は社員5名で、中途採用専属の社員は1名(佐藤さん)です。

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決算説明会資料には中途採用数や内定承諾率も公開されています。2017年は46名の中途採用実績。つまり、中途採用専属の人事は1名で46名採用していることになります。

ただし、カヤックには「ぜんいん人事部」という制度があり、全社員で採用活動をやっていますので、社員の協力あってこその成果です。
(参考)真逆のアプローチで内定承諾率100%。カヤックこだわりの採用戦略とは

「とはいえ中途担当1名は少なくね?」みたいなことを思うのですが、「じゃあ何名が適正なのか」と言われるとよく分かりません。

実際には「管理本部の人数は増やしたくない」というよりは、「管理本部はすごい人しか入れたくない」というようなことをこの人(社長)が言ったりしてきます。

そもそも管理本部の適正人数ってどうやって決めればいいか分からない、みたいな問題とも言えそうです。増やせばいいわけではないのも分かっているのですが、んーこれってどうしたらいいのかな、という「悩み」の説明なので、これぐらいにしておきます。


やろうとして失敗したこと

まず、この状況に対して行ったことは、

・人員計画の変更履歴の記録をして、「こんなに変わってたらさすがにきついから、もうちょっとなんとかなりませんかね?」と言う
・各事業部の情報を前もって把握し、人事側で先回って対策を打つ

の2つでした。1年ぐらいやりましたが、全くうまくいきませんでした。

これは何かが違う、根本的に間違えている、そもそもカヤックは事前に準備をできる会社ではない!ということで、方向性を変更しました。


新たなお題を設定「事業部の計画がどれだけ変化しても、うまくいく組織をつくる。」

「計画を立ててそれにそって準備をしたい。その方が安心感がある。という発想自体が間違えている!!!と考えたほうが筋がよさそうだぞ」ということで、この方向性で施策を考え始めました。

複雑系とか、自己組織化とか、生命論的パラダイム、とかまあそのあたりのキーワードで「統制とれてないけどなんとかなっている」みたいなことにヒントがありそうで、そのあたりの情報をいろいろ読んだまま半年ぐらい経過。

どうしたらいいか全然分かりません。そんなある日、ハーバードビジネスレビューの「ホラクラシーの光と影」という記事を読み、少しだけ前に進みました。

すべての組織は確実性と順応性の両方を一定水準まで高めなければならないが、片方を高めるともう一方が下がるのが常だ。

なるほど。「どれだけ変化しても対応できる組織」というものを「確実性と順応性の両方が高い組織」と言い換えただけでも、相当考えやすくなりました。

再確認ですが、この記事はカヤック人事部のKPIを設定するためのプロセスを書いたものです。つまり、組織の確実性KPIと順応性KPIを設定することで、各施策の成否のモニタリングができそうだ、というアイデアが出てきました。

しかも、確実性を高めると、順応性が下がると書いてある。つまり、トレードオフ的なことです。課題というのは大抵トレードオフだ(極論)。このトレードオフになってしまいそうな、二つのKPIを設定し、両方さがらないように頑張る!みたいな方向性までは見えてきました。


なんか適当にこういう感じだな、という目的で書いた図

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--- ✂ ---(ここまででだいたい半分終了)


組織の確実性KPIと順応性KPIを設定した!

このあたりのアイデアをいろいろな人に話したところ、カヤックのある事業部長から「順応性KPIって、社員一人あたり利益とかじゃない?」というアドバイスをもらいました。

なるほど。しかし、このアドバイスで気づいたことは、KPIそのものではありません。

事業部長や役員とのインターフェースにもなる人事部のKPIは、管理会計に出てくる指標を使ったほうがよさそうだ

ということでした。

さてここでまた偶然の要素が出てきます。カヤックOBのこんどうてつろうさんおすすめの本を紹介してたので、とりあえず買ってみた本「バリュエーションの教科書」を読んでいて発見した式です。

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これはコンサル会社などが使う指標のようでした。このあたりだなと。社員数とか利益とか売上高がかけ算で書かれている。ということで、ここから考えてみたカヤックのKPIが以下となります。

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コア人材の定義など、いろいろと説明したいことはあるのですが、今回は省略します。コア人材とは「会社の変化に対応して貢献できる人材」とだけ覚えてください。

さて、確実性KPIと順応性KPIがトレードオフになっているかどうか、ということを検証してみましょう。

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成長企業にありがちな、各指数(売上、営業利益、社員数、営業利益率、社員一人あたり営業利益、社員一人あたり売上)がすべて上昇しているが、コア社員(つまりそんなに簡単に増やせないけど大事な社員)だけが増えていないとします。

すると、確実性KPIは上昇するが、順応性KPIは減少する、ということがいえます。つまり、トレードオフを満たしている。

さて、次にカヤックの実際の状況を過去何年かの変化で確認してみます。(具体的な数字は出してません)

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組織の確実性は上がっている、つまり目の前に事業成長には対応できているが、組織の順応性、何かあったときの変化対応力は弱まっている、という説明が可能です。直感的には分かっていたことですが、これを数字に置き換えられたことが、前進だと考えています。


これで「悩み」は解決できるのか?ひとつしか解決できてない。

冒頭に書いた悩みを再掲します。

悩み1:事業の種類が増え、人事施策の複雑性が増している。
悩み2:管理本部の人員を増やすなといわれる。採用担当少ない。

1つ目の「事業の種類が増え、人事施策の複雑性が増している。」は、組織の確実性と順応性を両立させることで解決できそうです。今設定している2つのKPIからの変更が必要だとしても、少なくとも「こっちの方向でチューニングしていけば、なんとかなりそう」と私の直感が言っています。

しかし、2つ目の「管理部の人員を増やすなといわれる。採用担当少ない。」は、このKPIを設定したところで全く解決できません。

ということで、もうひとつの悩みを解決するための試行錯誤を説明します。ただし、先に断っておきますが、ここについては最終的な結論が出ていませんので、ご了承ください。


増やせないなら減らしてしまえ。人事部を0名にする!

ある日、三国志系の漫画を読んでまして「これが『背水の陣』のエピソードである」みたいなことが書かれていました。そこから、

なんかもう人事部忙しすぎても人も増やせないから、逆に0にするとか、予算も0にするとかしたら、『背水の陣』的なことでアイデアでてくるんじゃね?

というアイデアをひらめきます。そちらの方向は本当にありかもしれない、検討してみる余地がある!「事業変化を先取りする方向ではなく、事業がどんなに変化しても大丈夫な組織をつくる」という方針を設定したときと同じ直感が働いたのです。せっかくなので、その直感をもう少しだけそこを言語化してみましょう。

・事業部の計画があり、それにあわせて人事部が施策を考える
・企業の規模が拡大したら、それにあわせて人事部も拡大する。

どちらもあまり考えないと「そりゃそうだろ」となってしまうポイントで、私自身も考えたことがありませんでした。それぐらい「暗黙の前提」となっている部分であり、この「暗黙の前提」を疑うことによる新しい方針はありかもしれない、と考えました。

さて、「人事部をなくす案」を思いついたときに連想されたのが以下の記事です。

AWSのデビュー後、10年以上にわたってAmazonは社内向けに開発したツールを洗練させて外部向けのプロダクトとして事業化するという手法をきわめて意識的に繰り返している。(省略)
この事業の売上も巨額に上っているが、本質はそこではない。本当の価値は、プラットフォームとして公開することにより、部内ツールが肥大化、非効率化することを防げるという点にある

(引用元:Amazonが「世界を食い尽くしている」理由を考える

管理部が肥大化しているかどうかの確認手段として、社外に公開するという観点です。


「人事部肥大化の構造」を言語化してみる

上の記事を参考にして、なぜ管理部門(今回は人事部)は、事業部側から見て無駄だと見えるのか、を言語化してみることにしました。その先に、適正な管理部門人数などの回答がありそうだからです。

ここでも人材採用を例にして考えます。

まず、自社で人材採用を継続的に行うことは自明です。すると、外注だけで人材採用をするよりも、採用担当を1名採用し、内製化した方がコストダウンになります。
しかし、時間が立つにつれ、社外にもっと優れた採用系のサービスが出てきます。事業部長や社長がそれらを発見し、社内にいる採用担当にもそれらにひけをとらないレベルを要求しますが、すべてに対応できることはまれです。
それは事業部側からみると「自分たちと違って、競合やライバルがいない社内の業務(人事)は肥大化、非効率化しており、それによって社外のもっと優れたサービスと同じレベルになってない」と認識されます。
そうして、売上や利益のような明確な指標を持てないのならば、測定できる数値である費用面は最小限にしろ、というような考えが会社として発生し、「できるだけ少ない人数で」というような圧力が社内で発生します。

とりあえずこれぐらいの言語化をしてみました。


--- ✂ ---(もうちょっとで終わるよ)


優れた人事部であると証明する方法

では、どうしたら優れた人事部であると証明できるのでしょうか?

内製化して、事業部に提供している人事的なサービスがあるとします。そうすると、さきほどの話は「内製化されたサービスが、社外にいる競合のサービスと比較して、優れているのかどうかを検証し続ける方法は何か?」という質問に置き換えられます。

社内に提供しているのと同じ人事サービスを、社外にいる顧客にも提供し、競合となる他社サービスに勝てることを証明すること、社外の顧客にサービスを提供して利益を生み出せることが「優れている証明」になる。稼げる人事部になるしかない?(=人事部をなくす?)

でまあ、このあたりまでは予想がつくと思うのですが、私が自分で大切だなと考えているのは以下です。

仮に、社外にいる顧客に提供できるようにまで、汎用的な形になっておらず、社内の事業部から満足いくような独特の人事サービスを提供できていたとします。(正直、いまのカヤック人事部の中途採用のパフォーマンスは、結構いいなと思ってます。ただし証明できない。つまり上の状況ですね)

しかし、その状況は「今後も継続的に優れているかどうか」を検証することはできません。事業部側や経営者の判断に任せることになります。

つまり、優れた人事部かの検証のためには、社外にいる顧客へのサービス提供によって、「競合サービスよりも優れ続けている」「事業部はほかの選択肢をとるよりも、社内の機能をつかったほうがよい」と証明し続ける必要があります。

わざわざ社外へ提供できるレベルにしないと証明できない、という点が上のamazonの記事の大切なポイントなのかなと考えてます。で、これは単なるコストセンターをプロフィットセンターにすると考えてしまうと間違いでして、あくまで

事業部は他の選択肢をとるよりも、社内の機能をつかったほうがよい

と証明することが目的です。私もまだ上のamazonの記事をきちんと理解できているとは思えず、単に「稼げる人事部」になっても意味がないはずなのです。ここはまだ分からないので、これぐらいにしておきます。

さて、これらもKPI的なものにするとしたらこれかな〜みたいなスライドだけつくりました。

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これがあってるとは思わないのですが、こうやって進めていくのかな〜と考えてます、というスライドです。

とここまでが、

悩み2:管理本部の人員を増やすなといわれる。採用担当少ない。

に対する現段階の結論です。

そして、以上が、2018年3月に私が社外向けセミナーで話した「面白法人カヤック人事部のKPIを考えるプロセスを書いた」という内容です。

さて、noteは有料プランがあるので、ここから先を有料にしてみようかとおもいます。


何を有料にするかを考えてみた

まず、この内容は悩んでいた2年前の自分に向けて説明する、というのが裏設定でした。その2年前の自分は、これを読んでどういう感想を持つか。たぶんこれです。

「おまえのことだから分かりやすく説明できるように、細かいところ省略したストーリーにしてるだろ。でもそこの細かい試行錯誤のプロセスを知れないと、次また違う悩みが出たときの参考にならないから、そこの思考プロセスを開示しろ。ハーバードビジネスレビューの記事読んで、確実性と順応性というキーワードが出てきたとか、バリュエーションの教科書という本を読んでいたら発見した、みたいなところが偶然になってるけど、そこ飛躍してるだろ!」

確かにその通りで、「どうすんだよこれ〜」という試行錯誤の部分が一番時間がかかっており、かつ、参考にした情報はこれ以外にも大量にあります。つまりこれらの「元ネタ」です。

ということで、「この記事の元ネタになった参考文献リスト」を有料にすることにしました。過去の私であれば、これで1000円なら買うなということで、1000円です。(どうせ参考文献を全部買おうとしたら7万3000円ぐらいだったので、それぐらい使う意気込みがないと買っても無駄かもしれません。でもそんなにマニアックな本だけじゃないので、既に読んでいる本も多いはずです。あとHarvard Business Reviewが高いからこうなっている。でも定期購読している人でバックナンバーでも読めない記事とかあるから個別に買うしかない)

あとこれに1000円はらってわざわざ「元ネタまで確認して応用しようとしている人」とはぜひ直接あって感想戦をしたら楽しそうなので、何かしらの方法で連絡をください!

以上です。ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。以下はもっと主観で書いた文章ですが、それがいいのではないかとおもったので、そのままです。

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