先日、Netflix(ネットフリックス)が動画広告をテストしているとの報道があり、ちょっとした騒ぎになった。しかし、Netflixがやっているのは、まとめて視聴するユーザーに対して自社コンテンツライブラリーの宣伝を増やすとどうなるかの検証だ。復唱しよう。「Netflixが近く広告を受け入れることはない」。【※本記事は、DIGIDAY+会員以外の方にもnoteにて個別販売中(190円)です!】
復唱しよう。「Netflix(ネットフリックス)が近く広告を受け入れることはない」。
先日、Netflixがエピソードや映画のあいだのプロモーション動画をテストしているとの報道があり、ちょっとした騒ぎになった。一部の広告幹部たちの興奮は、ワクワクするどころではなかった。しかし、Netflixがやっているのは、まとめて視聴するユーザーに対して自社コンテンツライブラリーの宣伝を増やすとどうなるかの検証だ。
これは広告ではあるが、広告ではない。テレビネットワークは自社番組の宣伝を四六時中やっている。プラットフォームにおけるユーザーの視聴時間を増やすことに、とにかく関心があるNetflixが、可能性のあるレコメンド製品をすべて追求しないとしたら、それは大馬鹿者だ。もちろん、それにもかかわらず一部のユーザーは逆上した(本当のところ、このプロモーションのレコメンド製品は、Netflixの現行の自動再生機能くらい迷惑なものではあるようだ)。また、Netflixはいつか広告を受け入れると予測したい人が多いメディアウォッチャーたちも、Netflixがついに広告を受け入れたと言い触らした(広告製品はテストしていないとNetflixは明確にしなければならなくなった)。
Advertisement
登録を増やすしかない
しかし、ここではっきりさせておきたい。Netflixが広告を導入すると考えている人たちは、Netflixの長期的なゲームプランを根本的に誤解している。Netflixが、コンテンツ予算の調達や借金の返済を中心に280億ドル(約3.1兆円)を超える支払い債務を抱えているのは、短期の収益成長を心配してのことではない。Netflixは3億件、あるいは4億件のサブスクリプション契約を求めている。ひとつのテレビネットワークではなく、テレビ事業全体に置き換わるものにNetflixはなりたがっているのだ。
Netflixは、広告プランと広告なしのサブスクリプションプランがあるSpotify(スポティファイ)と比較されることが多い。確かにどちらもストリーミングサービスだ。しかし、Spotifyが配信しているのが他社のコンテンツであることを忘れてはいないだろうか。Spotifyには、ストリーミングの約87%を占める大手レコードレーベルが必要だ。そこで大手レーベルは大きな影響力をもち、厳しい条件をSpotifyに強いている。カタログがほかの大手ストリーミングサービスと大きく異ならないのはその一環だ。
一方、Netflixは現在、新たな支出全体の約85%をオリジナル作品にあてており、この2018年だけで700件を超えるプロジェクトを発表する計画だ。それだけではない。Netflixは、オリジナルコンテンツの制作を、外部のパートナーに委託せずに自社でやっている。Spotifyが大手レコードレーベルを必要としているのと同じように、大手テレビネットワークやハリウッドのスタジオを必要とすることがない未来を、Netflixは目ざしている。お金のかかる企てであり、資金調達にはサブスクリプション――と多額の借金――が必要になる。広告によるプランでは解消せず、サブスクリプション契約を増やすしかないのだ。
ウォール街の後押し
また、忘れてならないのは、顧客を怒らせても短期的な増収を得ることにNetflixは関心がないということだ。単純な話で、ウォール街に求められていないので、現在、短期の増収を必要としていないのだ。Netflixが多額の債務を抱えているのを、市場はそれでよいとしてきた。Netflixが成長を続け、目ざしている世界的な規模を達成できるのかを市場は見たがっている。
成長が大幅に、長期的に失速して、ウォール街による評価が変われば、そのときはNetflixも広告を使ったプランを考えることになるかもしれない(広告を使ったプランが可能なことはHulu[フールー]が証明したが、Huluは常にサブスクリプションと広告を組合せてきたサービス。Netflixは一貫して公然と広告を拒否してきた)。
あるいは、発展途上市場も考えられる。発展途上国でサブスクリプション契約を増やす方法として、広告を使って価格を下げたプランをNetflixが考える可能性はある。とはいえ、米国においてオーバー・ザ・トップ(OTT)の広告市場が全般的に膨大な消費に追いついていないことを考えてから、発展途上国ではどの程度遅れているのかを想像してみよう。そのうえ、製品とインフラを構築するのにかかる費用はまだ考慮されていない。
Netflixが開発途上市場のプランを安価にするための選択肢はほかにもある。たとえば、地元のブロードバンド・プロバイダーとの提携は、配信インフラを手に入れるひとつの方法だ。
いつか晴れやかな素晴らしい日がやってきて、Netflixが広告を受け入れ、人々を魅力するブランドの30秒映画がある世界を、みんなが楽しめることになるかもしれないが、そのときまでは、同社の夢が続く。
Sahil Patel (原文 / 訳:ガリレオ)