米EVメーカー・テスラの新型車「モデル3」に、パナソニックは円筒型電池を供給している。トヨタとの協業検討発表で、両社の関係にも変化が現れそうだ(上写真:テスラ、下写真撮影:尾形文繁)

家電から自動車へ――。パナソニックは、社運を懸ける車載電池で攻めの姿勢を強めている。

12月13日、パナソニックトヨタ自動車は車載電池事業で協業を検討することを発表した。具体的な内容はこれから詰めるが、まずはEV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)などに用いる角形リチウムイオン電池の開発で手を組む。

さらにトヨタが2020年代前半までの実用化を目指す次世代電池、全固体電池も共同開発を検討する。両社は1996年に車載電池の合弁会社を設立し、トヨタのハイブリッド車(HV)に電池を供給してきたが、世界中で高まるEV開発の機運を受け、連携を一層深める運びとなった。

トヨタがほれたパナソニックの電池競争力


協業検討開始を発表する記者会見には、トヨタとパナソニックの両社長がそろった(撮影:今井康一)

トヨタの豊田章男社長は発表当日の記者会見で、「車の電動化のカギとなるのは電池だ。競争力のある電池を開発して、安定供給することが重要」と語った。その競争力をパナソニックに見出したということだ。

現在パナソニックは、電動車(EV、PHVなど)向け電池の世界シェアで16.5%と首位に立つ(2016年、テクノ・システム・リサーチ調べ)。性能についても、世界からの評価は高い。EV開発で遅れ気味のトヨタがパナソニックを自陣営に入れることで、その性能を大きく左右する電池の開発や調達の競争力を高める狙いがありそうだ。

パナソニックにとっても、うまみがある。車載事業は今後の成長戦略の中核を担うからだ。目指すのは、自動車部品メーカーとしての世界トップ10入り。2021年度の部門売上高は2.5兆円と、2016年度の実績からほぼ倍増させる計画だ。そのための投資も惜しまない。2015〜18年度までの4年間で1兆円の戦略投資枠を設け、大半を車載向けにつぎ込む計画だ。

そして本命中の本命が、世界のEVシフトで中長期的な成長が期待できる車載電池というわけだ。現在の最大顧客は、米国のEVメーカー・テスラテスラパナソニックは、2011年に電池供給のパートナー契約を締結して以降、二人三脚で歩んできた。2017年1月には世界最大の車載電池工場「ギガファクトリー」が、米ネバダ州の砂漠の中で稼働を始めた。


米ネバダ州の砂漠地帯で突如姿を現すのが、テスラパナソニックが共同で建設した電池工場「ギガファクトリー」だ(写真:テスラ

ここでパナソニックが作るのは、テスラの新型セダン「モデル3」向けの円筒型リチウムイオン電池「2170」。パナソニックが電池のセルを作り、同じ工場内のテスラのラインでパッケージ化される。工場の建設には約6000億円が投じられ、パナソニックも2000億円を負担。車載事業を率いる伊藤好生・パナソニック副社長はテスラについて、「ある意味では運命共同体だ」と語る。

テスラで生産遅延、電池は供給過剰に

ただ、社内にはテスラへの傾注を不安視する声もある。今年10月、パナソニックが明らかにしたのは、テスラ側で生産遅延が起きているという事実だった。パナソニックが電池を生産しても、テスラ側が担う電池をパッケージ化する自動化ラインが順調に立ち上がらず、手作業で組み立てざるを得ない状況になっているというのだ。結局電池は供給過剰になり、テスラが製品展開する蓄電池に転用しているという。


ギガファクトリー開所式に出席した、テスラのイーロン・マスクCEO(中央)、JB・ストローベルCTO(左)とパナソニックの津賀一宏社長(右)(写真:パナソニック

2017年9月末までのモデル3の生産台数はわずか260台。当初の目標である週当たり5000台を大きく下回る。テスラ側は12月中旬現在でも「まだ苦戦している」(津賀社長)だ。2018年中に月産50万台の目標を掲げるが、「その半分程度になるのではないか」(みずほ証券の中根康夫アナリスト)との見方もある。

この生産遅延が、どの程度パナソニックの業績に影響を及ぼすのかは不透明だ。さらにテスラの生産遅延は今に始まったことではなく、今後も同様の不具合に見舞われる可能性がないとはいえない。

今回のトラブルについて津賀社長は、「目標に対して実力が追いつかないだけの話。期ズレの問題であって、それ以上のリスクはない」と語る。さらに、「テスラが一番確実なお客であることは間違いない。テスラと成長するのが基本中の基本だ」とも念を押す。

が、トヨタとの提携検討が発表されて以降、発言のトーンが変わってきている。津賀社長は「車載電池を成長させるためには、テスラと手を組みつつ、トヨタとも組むことが重要だ」と話す。円筒型電池はテスラ、角形電池はトヨタと、両輪でまわすことで、1社傾注のリスクを分散させたいという意図がうかがえる。

さらにトヨタの豊田社長は「両社のみならず、幅広く自動車メーカーの電動車の普及に貢献したい」と語っている。スズキ、SUBARU、マツダ、ダイハツ工業など、トヨタと提携関係にある自動車メーカーも含めた“日本連合”への電池供給を、パナソニックが一手に引き受ける可能性もある。

カネのかかる車載電池、トヨタに期待

資金的なメリットも大きい。車載電池事業は、研究開発や工場などへの設備投資、さらに工場立ち上げに伴う生産技術者の派遣など、莫大な投資を必要とする「パナソニックの“金食い虫”」(伊藤副社長)だ。現在は、ギガファクトリーと並行して、ホンダやフォード向けの電池を生産する中国・大連工場の立ち上げも進めている。


多額の投資を必要とする車載電池事業。パナソニックの津賀社長(右)は協業相手となるトヨタに資金面でも期待を寄せる(撮影:今井康一)

パナソニックはすでに2015年2月、2016年7月に社債を発行し、累計約3700億円を車載事業に充当。経営再建により減少していた同社の有利子負債も、4期ぶりに1兆円を超えた。このままいけば、プラズマテレビへの投資を重ねていたかつての水準にも近づく。

現時点で同社の電池工場はフル稼働の状態。生産量を増やすには生産ラインや工場の増設を迫られそうだ。「トヨタさんは資金力がある。われわれもそれに期待している」と、津賀社長は明かす。

かつてのパナソニックは、トヨタのHVへ電池を供給する”下請け”に甘んじていた。ただ、今回の提携について津賀社長は、「われわれはサプライヤーという位置づけだが、できるだけ対等な関係を築いていきたい」と強調する。

パナソニックがここまで強気に出られる背景には、世界中でEV開発の機運が高まる中、安定的に調達できる高性能の電池を車メーカー同士が奪い合う現実がある。加えて、テスラへの供給で培った実績と箔もある。パナソニックは、テスラ、トヨタと対峙する三角関係の中で優位な立場を守り続けられるか。それが、車載電池の覇者となる条件だろう。