部下のモチベーションを引き上げるのも上司の役割だ(写真:ふじよ/PIXTA)

社内人材の育成と開発こそ、会社を安定的に成長させるいちばんの方法――。わかっちゃいるけど、いったい何から手を付けていいのか。人事や人材開発部ならずとも、日々こんな悩みを抱えているビジネスパーソンは多いことでしょう。
社員のポテンシャルを最大限に引き出すにはどうしたらいいのか。多くの企業のこんなニーズと日々向き合っている米人材開発支援会社、コーナーストーンオンデマンド経営陣のブログから、今回は社員のモチベーションを上げるの方法を転載します(この記事は Inc.com に「The Science of Workplace Motivation(職場におけるモチベーションの科学)」として掲載されたものです)。

能力不足でパフォーマンスが低いことはまれ


元の英文記事はこちら(画像をクリックすると英文記事にジャンプします)

私たちが職場で「やる」こと(あるいは「やらない」こと)のほとんどすべてには、モチベーションが作用しています。従業員の中にはやる気に満ちあふれた人もいれば、現状に不満を感じている人、積極的に転職先を探している人さえいるかもしれません。仕事に行くのが好きでたまらない人も、嫌でたまらない人もいるでしょうが、その原動力になっているのがモチベーションです。

こうしたモチベーションがどのようなきっかけで生まれるのか、特に、社員のやる気を引き出し、意欲あふれる職場を維持するためにはどうすればいいのかを理解することは、リーダーにとって、会社の成功を左右する非常に重要なカギになります。

モチベーションについてはいくつかの心理学理論があり、それぞれ微妙に異なる戦略を提案しています。リーダーの多くは、「self-determination theory(SDT:自己決定理論)」に関する書籍などを読んだことがあるかもしれませんが、ここでは少し話題を広げて、このSDT理論の基になったいくつかの理論に触れてみたいと思います。

ここですべてを網羅するわけではありませんが、以下に挙げる3つはそれぞれ、よくあるモチベーションの問題を考えるヒントになるでしょう。

たとえば、パフォーマンスが思わしくない従業員がいた場合、ほとんどのマネジャーは単に彼、あるいは彼女に能力がないだけだと思うでしょう。しかし、能力不足のためにパフォーマンスが振るわないケースは、実際にはほとんどないのです。これはどういうことでしょうか。

この問題に最適な答えを与えてくれるのが「expectancy-value theory(期待価値理論)」です。この理論では、モチベーションのベースになるのは次の3つの要素だと説明しています。

1. 自身の能力に対する期待(効力)
2. 環境に対する期待(結果)
3. 目の前のタスクにどれだけの価値があるか(価値)

この3つの要素をそれぞれに検討してみることが、パフォーマンスに関するほとんどの問題と、その根本原因の特定に役立ちます。

仕事に価値を見いだせていない部下には

たとえば、パフォーマンスが思わしくない原因が、自信のなさ(自己効力感の低さ)にあると考えられる場合、つまり、自分は仕事ができないと思っている場合を考えてみます。この場合、自信のなさがどこから来ているのかを突き止めてみることです。そして、励ましの言葉をかけたり、ポジティブなフィードバックを与えたりして元気づけてみましょう。ただし、言い方を間違えると、かえって自信を喪失させてしまうので注意が必要です。

もし、スキルには自信があるのに、リスクを避けようとする(結果に対する期待値が低い)なら、それは自分には結果をコントロールする力がないと考えているためです。

このような社員には、一緒に最高と最悪の両極端のシナリオを一通りシミュレーションしてみて、不確実な状況にあってもどうすれば落ち着いていられるか考えてみます。そして、どうすればうまく乗り切れるかを話し合い、事前の計画や準備によって大半の結果はコントロールできることを納得させます。

もし能力があり前向きな姿勢も持っているのなら、仕事に「価値」を見いだせずにいるのかもしれません。仕事には価値がなければならないのです。

そうした部下には、プロジェクトやプレゼンがいかに組織全体の大きな目標と根本的に結び付いているか、あるいは部下の長期的なキャリアにどのようにつながっていくのかを明確に理解してもらうようにしましょう。こうした戦略のいずれも核心をついていない場合に初めて、スキルの問題をメインに取り上げ、トレーニングによって解決が図れるかどうかを検討すべきです。

モチベーションを醸成する企業文化をつくりたいと願う企業のリーダーの中には、昨今の「企業文化」にまつわるトレンドに圧倒される思いを抱いている人もいるかもしれません。

社員の気分転換のためにさまざまな設備があるのはすばらしいことですが、企業文化の構築はそれよりもずっと細部に気を配り、戦略的でなければなりません。ここで示すアブラハム・マズローの欲求段階説から抜粋した人間の欲求段階は、何から始めるべきかを考えるうえで役に立ちます。

「基本的欲求」をまずは与える

マズローは人間の欲求には5つの階層があると唱えています。人脈づくりや目標設定、クリエーティビティといった「成長欲求」が芽生えるには、飢えや安全といった「原始的な欲求」が満たされていなければなりません。言い換えれば、従業員にいちばん上の階層の欲求を持たせるには(ビジネスに必要なのはより創造的な問題解決が行える人材なのです)、まず最も基本的な欲求を満たす必要があるということです。


(出所:『Psychology Today』)

別に、ランチを無料で提供したり、昼寝用の快眠マシンを提供したりする必要があるといっているわけではありません。そうしたこと以外にも、生活賃金を支払ったり、職場での困りごとに素早く対処したり、メンター制度やイベントを通じて従業員を支援する文化を作り上げたりすることによって基本的な欲求を満たすことができます。

さまざまな研究によって、こうした「安全欲求」や「所属欲求」が満たされるかどうかが、企業の利益を左右することが明らかになっています。コーナーストーンのレポートでは、問題行動を起こす同僚が同じチームにいた場合、優秀な人材が会社を辞める確率が54%高くなるという結果が出ています。

また、ギャラップ社の「State of The Global Workplace(世界の職場環境の状況)」2017年度版レポートによると、職場に親しい友人がいる従業員が全体の6割いれば、危機管理に関する問題を36%減らすことができ、顧客エンゲージメントを7%、利益を12%向上できるのです。

人事担当者でも人事部門の責任者でもCEOでも、基本的にやるべきことは同じです。従業員がそれぞれに自分の目標を明確にして、望ましい成果が実現できるようにすることです。

「目標」から「成果」へと進ませるプロセスがモチベーションです。モチベーションは行動を読み解く「why」であり、過去のパフォーマンスを分析し、年間目標を設定して、従業員にその目標を実現させるためには、この「why」を理解することが極めて重要です。

パフォーマンスの達成と学習機会を与える

「目標志向性理論(Goal-orientation theory)」は、2つの大きな「why」として、「外的」「内的」の2種類のモチベーションを提示しています。

パフォーマンス志向、あるいは「外的モチベーション」の高い従業員は、自分の成功をパフォーマンスや他者からの評価の量によって判断します。学習志向の従業員、あるいは「内的モチベーション」の高い従業員の場合、目的に向かうプロセスによって成功の度合いを測ります。

パフォーマンス志向の従業員に対しては、人事考課でより厳しい目標と可能性を結び付けて評価したいと考えるかもしれません。学習志向の従業員なら、少し高めの目標を与えることや、スキルをさらに伸ばして通常の業務範囲を超える任務を担当できる機会を与えるべきです。

最近の調査では、従業員が「パフォーマンス」と「学習」の両方を志向する傾向も明らかになっています。その場合は、どちらの志向も満たしてあげることです。セールスマネジャーであれば、四半期の売り上げ目標(パフォーマンス)を高めに設定してボーナスを支給すると同時に、若手従業員の指導にあたらせる機会(学習)も提供するのです。

どの理論に従うにしても、モチベーションに関して最も重要なことは、能力を高める機会や成功のチャンスは無限にあることを肝に銘じておくことです。私は常々、部下に対して自分を磨き続けるよう、繰り返し言っています。会話を通じて、社員に無限の可能性があるというメンタリティを植え付けることによって、彼らがどれだけのことができるようになるか、きっと驚くに違いありません。