鳴り物入りで発売されたAppleの最新機種「iPhone X」ですが、株式市場が10年ぶりの高値を付けているバブル真っ最中の香港で、その在庫が山積みでも売れず携帯屋に閑古鳥が鳴いているそうです。携帯電話の流行発信源である香港で起きていることは、世界の実体経済の縮図だと語るのは、メルマガ『高城未来研究所「Future Report」』の著者で国際事情に精通する高城剛さん。いま香港で、東アジアで、そして世界で何が起きているのでしょうか?

マーケットは10年ぶり高値も景気低迷。香港から透けて見えた、世界の先行き不安

11月に入り、香港マーケットは、10年ぶりの高値をつけています。

現在、世界同時株高が起きていまして、この背景には、金融緩和によって世界中で行き場を失ったマネーが、直近のリスクが少ないと思われる株に流れてきているという見方が一般的です。

しかし、街を見渡すと、景気が良いようには見えません。

もう30年に渡り、香港の定点観測地として僕が見ているモンコックの携帯電話ビル「先達広場」では、発売されたばかりのiPhone Xが山積みになっていて、驚きました。

ここ数年の傾向としまして、あたらしいApple製品は常にプレミア価格がつき、「先達広場」ビル内の店舗周辺の路上でも、まるでバナナの叩き売りのように、Appleの新製品が売られていました。

最新機種を求めに「先達広場」に来たものの、あまりに高値なプレミア価格に挫折し、本物かどうか疑わしいが、安価な同機種を路上で買う人たちでいつも賑わう、香港らしい光景が毎回見られました。

この路上で売られている製品のなかには、横流しやバラバラのパーツを組みあげて作られた製品(自動車でいうニコイチ)のようなものもあり、その上、店舗ではありませんので、壊れていたからといって返品できる保証もありません。

ですので、路上での購入者は、その場で持参したSIMを入れて動作を必ず確認しますので、いつも人だかりでした。

ですが、発売されたばかりのiPhone Xは、「先達広場」ビル内の店舗でも、そこまでプレミア価格がついてないどころか、定価と変わりません。

店員に話を聞くと、発売前まで人気の256Gモデルの予約価格は、いまの二倍以上だったが(19000HKD)、想像以上に購入者が少なく、一週間で半値になった(10000HKD)、と嘆きます。

当然、表通りの路上スマホ売りも閑古鳥が鳴いています。

こんな光景、はじめて見ました。

肝心のAppleの供給体制を調べますと、一部の電子部品(顔認識等)の不具合解消などに時間かかる見通しで、2017年内の出荷量が当初計画の約半分にとどまると報道されています。

ということは、流通量は少ないはずなのに、そこまで香港では売れていないことがわかります。

では、Apple以外のスマートフォン、例えばサムソンや小米が伸びているかというと、「もっと売れないよ」と馴染みの店員は僕に話します。

これは、香港の実体経済を示しているように思います。

少し前まで、香港は明らかにバブルで、「先達広場」に並ぶスマートフォンには、意味不明に「PRADA」や「フェラーリ」のロゴがついた商品を多く見かけました。

いまや、まったく見ることはありません。

かつて、そんなの誰が使うのかと思っていた大型スマホも、まず香港人が使いはじめ、あっという間に中国で流行って、世界の潮流になっていき、Appleも「Plus」と呼ばれる大画面機を発売しました。

長年、世界の携帯電話流行発信源の香港で、いまスマートフォンが売れないのです。

「西欧社会に最も近い中国」である香港は、いまや東アジアの羅針盤、いや、世界の先行きを示しているように思う今週です。

image by: hurricanehank / Shutterstock.com

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