良質なサービスを提供する「採用戦略」とは

採用率はわずか18%! 1000円カットの「QBハウス」に優秀な人材が集まる理由

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低価格志向が広まり、なんでも安く手に入るのが当たり前の世の中になってきた。でも、何気なく手に取るその商品のウラ側には、“安かろう悪かろう”ではない知られざる企業努力があるのだ。

ヘアカット専門店「QBハウス」は、経営上のムダを徹底的に省き、“カット1000円”という驚きの価格で高品質なサービスを実現する業界のリーディングカンパニー。

前編では、カットの効率化を追求する店舗のこだわりや出店戦略を紹介した。後編では、ヘアサロン業界の労働システムに一石を投じる同社の採用戦略に迫ってみたい。

QBハウスの運営会社である、キュービーネットホールディングス株式会社 事業推進室の平山貴之さんに話を伺った。

約7割が3年以内に退職!? 社会保険未加入、休日返上で練習…過酷なヘアサロン業界の労働環境

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なんとなく聞いたことはあるかもしれないが、ヘアサロン業界の労働環境は過酷だ。平山さんによると「美容師の離職率は新卒1年目で約半分、3年目になると7割にものぼる」という。一般企業の大卒新入社員の離職率が3年目で32%であることを考えると、これは衝撃の数字である。

また、文部科学省の調査によると、美容専門学校の退学率も14%と高い(平成27年度調べ)。2000年代初頭の“カリスマ美容師ブーム”のころと比べると、入学者の母数は約2分の1に減っているという。

当時は「なりたい職業ランキング」の3位にも食い込んでいたのに、いまや夢を見られない職業になってしまったのだろうか…。

「ヘアサロン業界は、社員教育の面で遅れているのが現状です。『技術は見て盗め!』という文化が蔓延し、新卒の美容師は何も教えてもらえないままカラーやパーマのお手伝い。2〜3年はアシスタントとして下積み期間を過ごすため、成長を実感できずに業界を離れてしまうケースも多いです」

さらに驚きの事実がある。美容院の多くが、厚生年金保険や健康保険などの社会保険制度の強制適用の対象から除外され、保険に未加入らしい。申請すれば加入は可能だが、雇用主側もお金を納めなければならないため(従業員の給与の15%ほど)、これを出し渋る個人事業主が多いのだ。

年1回の健康診断も受けられない事業所や、残業代が支払われない事業所もザラで、「練習」を名目に休日返上させられる美容師の悲鳴も絶えない。

社会保険完備、残業代は1分から支給。業界随一の働きやすい環境で優秀な人材を引き寄せる

業界の劣悪な環境をチャンスと見込んで、QBハウスは業界随一の労働環境の実現を目指している。

まずは社会保険を完備し、残業代は1分から支給。サービス残業は一切なし。休日も月6〜10日から自由に選べるようにした。さらに定年制を廃止し、永年勤続を推奨。最高齢のスタッフはなんと80歳! 全スタッフ1600人中4人に1人が10年以上も働いているという。

「理美容師のなかには、家のローンはおろか賃貸契約すら断られる人も多い。しかしQBハウスなら、給与水準は同世代のサラリーマンと比べても遜色ありません。男性スタッフからは『結婚する彼女の両親にも安心してもらえた』なんて声も聞きますよ」

さらに革新的なのが、業界唯一の取り組みである「社内カットスクール」の設立。ここではカット経験が少なかったり、業界にブランクがあったりする新入社員が、技術習得のために6ヵ月のカリキュラムを受けられる。給料をもらいつつ、専属のトレーナーから1日8時間みっちり学べるのだ。
独自のスタイリスト育成プログラムを確立しているQBハウス(画像は「QBハウスの採用サイト」のスクリーンショット)

面接は2時間。採用率18%の“人間力を見抜く”採用試験へのこだわり

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そんな高待遇のQBハウスには、入社希望者が殺到。「選ばれた優秀な人材だけが入社できる」というブランディングにも成功し、求人媒体を介さない自社ホームページへの直接応募は全体の5割にも及ぶ。そこから厳正な採用試験を課し、合格を勝ち取れるのはわずか18%しかいない(2016年度調べ)。

それだけ厳しい試験で、応募者のどのようなところを見ているのだろうか。

「応募条件として唯一求めるのは人間力です。特に、遅刻には厳しく目を光らせます。私たちが扱うのは時間サービス。何分遅刻したか、逆に何分早く到着したかまで、評価シートに記載します」

さらに、その人間力に対するこだわりが強烈に表れているのが面接試験だ。

計2回の面接を2時間ずつおこない、その人の生い立ちから話を聞きます。どんな教育方針で育ったのか、部活動は何をしたのか。また、志望動機はもちろん将来のビジョンも掘り下げ、永年勤続の可否も探ります。面接に2時間かければ、演技はできない。本当の自分が必ず顔を覗かせます」

全スタッフが高品質なサービスを提供できるウラには、こんな採用術があったのか…。労働環境を整えながら会社を好循環させる取り組みは、未来の働き方を考える上でも参考になりそうだ。

〈取材・文=佐藤宇紘/協力=柚木ヒトシ〉