日本マクドナルドが急ピッチで店舗の改装を進めている。2015年は408店、16年は555店を改装した。今年は475~500店を改装する予定だ。

 改装を進めているのは14年後半から15年にかけて、急激に悪化した業績を改善させるためだった。

 14年7月に起きたチキン問題、15年1月に起きた異物混入問題などからマクドナルドの食品の安全性に対する消費者の不信感が高まった。その影響などから、マクドナルドの客離れが進み、売上高は大きく落ち込んだ。

 15年4月、今後4年間で約2000店を改装する内容を盛り込んだビジネスリカバリープランを発表した。現在、日本マクドナルドの店舗は約2900店あるので、2000店はその約7割に相当する。

 日本マクドナルドは7年間程度で店を定期的にリニューアルしている。新規開店もしくは改装から数年しか経過していない店を「モダン」と呼んでいる。そして、改装を進めることを店のモダン化と呼ぶ。

 予定通り進めば今年末には全店舗の約83パーセント、2018年12月末までには90パーセントが「モダン」店舗になる見通しだ。

 マクドナルドの内装デザインには実は、いくつかのバリエーションがある。日本では6種類程度のデザインを使っている。全世界で決められたグローバルデザインから選んだり、日本独自のデザインを開発したりして、古いデザインと新しいデザインを入れ替えている。

 同社が今年から新たに導入を進めている内装デザインが「レイ」と呼ぶグローバルデザイン。9月末までに17店で採用している。

 このレイデザインは既存のマクドナルドとは一味違う、シックなコーヒーチェーンストアのようなデザインだ。失礼を承知で表現すれば「ある意味、マックっぽくない」。

 デザインの詳細と改装の効果について晴海トリトン店(東京都中央区)を取材した。

ロゴのみでマクドナルドの表記がない

 オフィスと商業施設がある複合施設の晴海トリトン。1階にあるマクドナルドの晴海トリトン店でまず、気が付くのは「M」マークはあるものの、「McDonald's」の表記がないことだ。

晴海トリトン店(東京都中央区)。「M」マークのみでシンプルな外観が特徴だ(写真:竹井 俊晴、以下同)
晴海トリトン店(東京都中央区)。「M」マークのみでシンプルな外観が特徴だ(写真:竹井 俊晴、以下同)

 入り口上部には小さな「M」マークのみ。客席エリアはガラス張りでそこには大きな「M」マークがある。店内の壁にはハンバーガーやポテトなどのアイコン的なシンプルな線画があり、照明で浮かび上がらせている。

 店内にはポスターなどもほとんどなく、とにかく文字が少ない。

店舗の客席の壁にはハンバーガーやポテトを描いたシンプルな線画がある
店舗の客席の壁にはハンバーガーやポテトを描いたシンプルな線画がある

 客席は横長の大きなテーブルを多く配置している。前に座っている客との距離があり、カウンター席のように使える。

 テーブルには細長いやや暗めの照明を天井から下げ、店内は落ち着いた雰囲気だ。

 訪れたのは平日の午後3時、ランチタイムが終わり、同社でスナックタイム(午後2時~5時)と呼ぶ時間帯だった。

 遅めのランチを食べているビジネスパーソン、仕事の合間にコーヒーを飲みに来た営業マン、親子連れ、大学生らしき若者など客層は様々だ。

 1人で訪れていた客が多いのが目に付いた。一般的なマクドナルドのイメージに比べると客層もコーヒーショップに近い感じだ。

晴海トリトン店の客席。一人席が多く、細長いやや暗めの照明を天井から下げているのが特徴だ
晴海トリトン店の客席。一人席が多く、細長いやや暗めの照明を天井から下げているのが特徴だ

 注文カウンターの上部はデジタルメニューボードと呼ぶディスプレータイプでキャンペーン商品の動画などが時折、流れる。商品は注文カウンターとは別のカウンターで受け取る。

 従来、マクドナルドでは注文カウンターは商品の受け取りカウンターを兼ねていた。客は注文後、レジの脇に待機して、商品を受け取っていた。だが、この店舗では注文と商品の受け取りは別。これもスターバックスコーヒーなど多くのカフェ業態で採用しているスタイルだ。

商品の受け取りカウンター。従来、マクドナルドでは注文カウンターは商品の受け取りカウンターを兼ねていた。お客は注文後、レジの脇に待機して、商品を受け取っていた。だが、この店舗では注文と商品の受け取りは別。なお、店員の制服は導入テスト中のものだ。
商品の受け取りカウンター。従来、マクドナルドでは注文カウンターは商品の受け取りカウンターを兼ねていた。お客は注文後、レジの脇に待機して、商品を受け取っていた。だが、この店舗では注文と商品の受け取りは別。なお、店員の制服は導入テスト中のものだ。

 改装は顧客に対してのイメージアップにつながる。特に消費者に商品の安全性を訴え、以前とは変わったことを強く印象付けるためにも、マクドナルドにとって店舗改装は効果的だ。

 さらに、客層の変化に合わせ、改装時にテーブルやイスの組み合わせ、数などを変更することで客席当たりの回転数を上げる効果も期待できる。

 実際、晴海トリトン店での改装効果はどうだったのか。

 同店の渡邊弘樹店長は「今年1月30日に改装後、月間の売上高が昨年同月比で30パーセント以上向上した。その後も10パーセント以上で推移している」と話す。マクドナルドでは改装効果による売上高増を一般的に5パーセント程度を見込んでいる。改装以外の要因もあるだろうが、晴海トリトン店の改装効果は非常に高かった。

 改装後、1人客、特に女性の1人客、ビジネス客、午後2~5時のスナックタイムの利用者が増えたと言う。

 改装前は2人席が多かった。そのため、1人客が座ると向かい席には誰も座らずスペースが無駄になることが多かった。渡邊店長は「2人用のテーブルの中央に仕切りを置くなど工夫して利用を促したが、それでも相席にはお客様が抵抗を感じたようでうまくいかなかった」と振り返る。

 今まで取り逃がしていた1人客、ビジネス客の取り込みに成功した。改装後「1人でも入りやすくなった」「落ち着いた雰囲気で仕事でも利用しやすくなった」などの声が多くなったと言う。

 日本マクドナルドホールディングスのサラ・カサノバ社長兼CEO(最高経営責任者)はかつて、日経ビジネスのインタビューに対し「(問題が起きた14年、15年当時)もっとお客様の声を伺うべきだったのではないかと反省している。お客様はどんどん変わり続ける。お客様に追いついていくために、我々も進化をし続けなくてはならない」と語っている。

 チェーンストアの代表格とも言えるマクドナルド。どの店でも均一のサービスを受けられることを特徴にこれまで成長してきた。だが、それだけでは今後のさらなる成長には限界がある。そこで、立地や客層に合わせた店作りを推し進める。

 「均一感と個性のバランスを取る」。このことは多様化する客層を取り込むために、チェーンストアが今後、検討、強化すべき戦略ではないだろうか。

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