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厚生労働省「ブラック企業リスト」公表の問題点は何か

2017.09.15

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厚生労働省は2017年9月15日、労働基準関係法違反の疑いで送検された国内企業のリストを更新しました。【参照:長時間労働削減に向けた取組(厚生労働省)

リストは2017年5月10日から公開されており、2016年10月1日以降に各都道府県の労働局が公表した内容を集約したものとなっています。「違反企業の名前をネット上に公開する」という大胆な措置が話題を集めましたが、専門家から見た場合、十分な内容とは言い難いようです。今回のコラムでは、人事コンサルタントの田中顕氏が、いわゆる「ブラック企業リスト」の問題点を解説します。

目次
  1. 「ブラック企業リスト」がネットで公開されることの意味は?
  2. 公開企業の多くは、労働基準法ではなく「労働安全衛生法」違反
  3. 実態を隠す企業、労災が起きづらい業界への対応は充分か

「ブラック企業リスト」がネットで公開されることの意味は?

厚生労働省が実施に踏み切った施策「労働基準関係法令違反に係る企業名の公開」、通称「ブラック企業リスト公開」について、今回は考えてみたいと思います。

導入の背景としては、労働基準関係法令に違反した企業に対して、今までは刑事罰(罰金等)を課していましたが、今後については検察庁に送検した企業名を具体的に一般公開し、より懲罰性を高めるといったものになります。

企業名を公開されると、労働基準関係法令を守っていないことが明確に世間に知れ渡り「労働法を守らない=労働者の労働関係法益を守らない」俗に言う「ブラック企業」であると認知され、企業イメージの低下につながるということになります。その結果、

  • 人材採用に対する障害(労働基準関係法令違反を犯しているとして、求職者から忌避されるようになる)
  • 企業間取引に対する障害(相手企業から法令違反を犯している企業と取り引きするのは止めておこうと思われる)

といった問題が発生し、厚生労働省から「ブラック認定」された企業として、企業成長活動の著しい障害になることが予想されます。

したがって、企業としてはそのような「ブラック認定された企業」に陥らないために、労働基準関係法令違反を犯さないようにしようと努力することになり、労働者の労働関係法益が守られると同時に、法令遵守の風潮が世間に生まれていくということになります。

公開企業の多くは、労働基準法ではなく「労働安全衛生法」違反

それでは、実際に公開された企業リスト【正式資料名 労働基準関係法令違反に係る公開事案(PDF)】について、じっくり目を通して、どのような事案が公開されているのかを確認していきましょう。公開された事案は全国の企業、資料は65ページにもおよぶものです。

筆者の予想としては、長時間残業や時間外労働手当・休日出勤手当・厚生年金加入の怠りについてが多いのではないかと考えていました。しかしながら資料の事案の大半を占めているのは、「労働安全衛生法違反」、つまり労働者の安全衛生(とくに土木建設作業)における違反事案が目立つということでした。

例えば、愛媛県大洲市にある株式会社黒川木材工業の事案については、労働安全衛生法第20条違反となっており「ベルトコンベアに非常停止装置を設置することなく、労働者に作業を行わせていた」として送検されています。

他にも大阪府大阪市中央区にある株式会社DABOジャパンの事案については、労働安全衛生法第21条違反となっており「高さ約5mの場所で労働者に配管部品の交換作業を行わせるにあたり、墜落防止措置を講じなかった」として送検されています。

リストを改めて見渡すと、労災事故関係がほとんどであり、他には最低賃金法第4条違反として、新潟県新潟市中央区にある株式会社ひかりが「労働者1名に、約6カ月間の定期賃金約71万円を支払わなかった」として送検されています。

さらに見ていくと「労働基準法第32条違反」として福井県大野市にある有限会社サンスラックスが、「技能実習生である労働者に36協定の延長時間を超えて違法な時間外労働を行わせていた」として送検されています。

実態を隠す企業、労災が起きづらい業界への対応は充分か

このように、公開された企業の多くは労災事故関係、最低賃金法違反関係、労働基準法第32条違反関係であることがわかりました。ここで問題となるのが「見かけ上、この3つの法律を守っていれば、公開の対象にはならない」ということです。

筆者の感覚では、世間から求められているブラック企業名公開とは「労働環境が劣悪で、パワハラ等が横行している」「違法な長時間労働の実態を隠している(経営者が、勝手に従業員のタイムカードを定時で切っている等)企業の名前を公開することではないかと思うのですが、厚労省のリストは「労働安全衛生法違反」が公開の中心になっているため、「労働基準関係法令違反に係る公開事案≒労災事故を発生させた企業名リスト」になってはいないか、という懸念があります。

また、労災事故はやはり現場をもつ建設土木などの業界が中心になるため、一般の事務職や営業職を抱える企業では対象になりにくく「業界間の不平等」も発生してしまっています。

「労災隠し」は重要な違反であり、こうしたリストが公開されることで建築土木業界の労働環境が改善される可能性はありますが、包括的に「労働基準関係法令違反」を行った企業の名前を公開しているかといえば、現在の公表リストは、不充分だと言わざるを得ないでしょう。

執筆者紹介

田中 顕(たなか・けん)(人事コンサルタント) 大学を卒業後、医療系人材派遣会社・広告代理店で人事を担当したのち、密着型人事コンサルティング団体「人事総合研究所」を設立。代表兼主任研究員として、労務相談受付・課題解決に取り組む。得意分野は採用・法務・労務・人事全般の問題解決等、多岐にわたる。

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