ほかの人が使っていないような、愛着あるノートだと、使うのが楽しくなる。

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■“生”情報の吸収で話が面白くなる

雑談力を高めるために必要なことが3つあります。「基本的な情報」「基礎的な知識」「思考力」です。この中でも毎日の積み重ねが大切で、ノートを積極的に活用したいのが、基本的な情報です。

たとえば、取引先や上司から「アベノミクスで名目GDPを600兆円にすると言っているね」などと話しかけられたとします。何も情報を持っていなければ、「はぁ、そうですか」で終わり。ところが、現状の名目GDPが約500兆円だと知っていれば、「20%も伸ばさなければいけないわけですね」などと返すことができます。

さらに、日本は1990年代初頭から今まで、ずっと名目GDPが500兆円前後を行ったり来たりしていることを知っていれば、「2020年までに実現するのは、かなり難しそうですね」などと続けられます。

相手は「この人、経済のことを知っているな」と、感心してくれると同時に、信頼度もアップします。「こいつに話してもなにもわかっていない」と思われるのと、「こいつは話ができるやつだ」と思われるのとでは大違い。もちろん、専門家に対し、その専門領域の知識をひけらかすのはタブーですので注意が必要です。

■ノートに「気づき」と「数字」を記入する

ともかく新聞をコンスタントに毎日読んで、頭に情報を入れていかないとそこまで話が広がりません。その手助けとなるのがノート。新聞を読んだら、ノートに日付を記入して、「今日の気づき」と「今日の数字」を記入します。これだけなら、新聞を全部読まなくても、気になった記事を読むだけで記入できますので気楽に始められます。

記事を探すのが面倒という人は、最低限一面のトップ記事だけからは情報を拾う、リード文だけを読んで記事を選択するなど、最初は毎日継続することを優先して、手間のかからない手法を取り入れてもいいでしょう。

また、普段から数字に興味を持っていれば、日経新聞の月曜日朝刊に掲載される景気指標と今週の市場を見るだけで、日本経済と世界の金融・株式マーケットの大まかな現状をつかめるようになります。

新聞だけでなく、取引先、上司、講演会など誰かから、「珍しい話」「知らなかった話」「気になる数字」を聞いたときにも同じようにノートにメモします。

たとえば「フライアッシュ」「ゼオライト」「モーダルシフト」などという言葉を聞いても、門外漢には何のことやらわかりません。でも、それが取引先が口にした言葉であれば、その会社の未来を左右しかねない重要な内容を含んでいるかもしれないわけです。とにかくメモしておき、あとで調べれば、自分にとっての勉強にもなります。新聞も含め、そうした生の情報を吸収している人の話は、具体的で深みがあります。とても面白いので、ついつい惹き込まれます。

■究極は、相手に話してもらうこと

ノートにメモをとるのは、関心の幅を広げる訓練であり、自分の頭に入れるための手段と考えてください。つまり、自分にとって使える情報にするということです。人間は一度頭に入れたことでも忘れてしまいます。ですから、ノートを時々見返すのが効果的です。

「では、新聞の切り抜きをスクラップしてはどうか」と考える人もいるかもしれません。膨大な外部データベースをコンパクトにまとめるという意味では有効です。しかし、それはあくまで外部データベースにすぎません。ややもすると、スクラップすることが目的となりがちです。雑談力を高めるには、自分の頭の中の内部データベースに収めることが重要です。

雑談力アップのための2番目「基礎的な知識」は、たとえば「バランスシートとは?」「名目GDPと実質GDPの違いは?」など、経済入門書などで得られる知識のことです。これは一度身につければ一生ものです。逆にこの知識がなければ、基本的な情報を正確に理解することもできませんし、雑談力の幅も広がりません。

タクシー運転手との会話で雑談力を鍛える

3番目の「思考力」を身につけるのは、一朝一夕では難しいことです。自分にとって「少し難しい」と感じる本や解説記事を、論理レベルを上げることを意識しながら、じっくりと深く読み込むことで鍛えられます。たとえば平日の日経新聞に掲載される「経済教室」。一流の先生方がわかりやすく書いていますから、表面だけなぞるのは簡単です。でも内容の密度が濃いだけに、それをきちんと理解するにはそれなりの時間が必要となるはずです。基本的な情報と基礎的な知識も得られますので、活用しない手はありません。

基本的な情報、基礎的な知識、思考力が備われば、雑談力は飛躍的にアップするでしょう。ただし、それを実践に移すとなると、もう少し注意しなければならないポイントがあります。

それは、相手が興味を持っていること、相手がほしがっている情報について話をすることです。究極は、相手が話したがっていることを、気持ちよく話してもらうこと。それを引き出すのに有効なのが雑談力なのです。

タクシーの運転手さんとの会話で雑談力を鍛えるのも一つの方法。「前の職業がなんだったか」まで聞き出せれば、腕前が上がったと思っていいでしょう。

■雑談力を高める3つの要素

[要素1]基本的な情報
日々、新聞などから得られる具体的な情報を蓄積していると、話が面白くなる。

[要素2]基礎的な知識
経済入門書などで「バランスシート」や「GDP」など、基礎知識を吸収しておく。

[要素3]思考力
「少し難しい」と思える本を時間をかけて読むと思考力がアップする。日経新聞の「経済教室」もおすすめ。

■雑談力を高めるノート

[POINT 1]毎朝、新聞を読んだらまず記入
新聞は雑談ネタの宝庫。朝刊を読んだらまず、「今日の気づき」と「今日の数字」をノートに記入する。

[POINT 2]知らない言葉、気になる言葉を記入
取引先と話をしたり、講演会などで話を聞いたりすると、知らない言葉や、気になる言葉と出くわすもの。疑問はその場で解決するのが基本とはいえ、いずれにせよメモをしておくとよい。

(小宮コンサルタンツ代表、経営コンサルタント 小宮 一慶 構成=小澤啓司 撮影=谷本 夏)