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「『貯金しても利息はほぼゼロですが、○○なら運用利回り3%以上ですよ』。そんな勧誘を受けたことはありませんか。銀行や郵便局は、今盛んに、投資を勧めています。政府が『貯蓄から投資へ』と言い始めてから、10年以上がたちました。私は常々『デフレの今は、現金が一番』と声を大にして言っていますが、『投資信託』の運用額は増加傾向です('17年7月・投資信託協会調べ)」
 
そう語るのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。こうした風潮のなか、「老後の生活も考えると、やっぱり投資したほうがいいの?」と悩んでいる人に向けて荻原さんが書いたのが、『投資なんか、おやめなさい』(新潮新書)だ。その内容をぎゅっと濃縮して、荻原さんが「投資をやめたほうがいい理由」を解説してくれた。
 
【1】貯金と投資を比べるワナ
 
「冒頭のセールストークは、本当なのでしょうか。最近よく勧められる『外貨建て生命保険』(積立金を外貨で運用する生命保険)を例に、見ていきましょう。まず、貯金の利息ですが、今や多くの銀行の普通預金金利は0.001%です。10万円を1年預けても、利息はわずか1円。10万円未満なら利息はゼロです。いっぽう、『外貨建て生命保険なら運用利回り3%以上』は、たとえば、利回り2.79%のアメリカ国債(30年もの・9月14日現在)と、6%超の利回りが続くインド国債などを組み合わせると、実現可能です。つまり『貯金しても利息はほぼゼロ』『外貨建て生命保険なら運用利回り3%以上』はどちらも本当です。しかし、両者の比較は本来、できないのです。貯金と保険は、まったく違う商品設計だからです。
 
貯金は、毎月1万円ずつ積み立てると、1年後には12万円、2年後には24万円と確実に増えますが、大金にするには時間がかかります。ところが生命保険は、毎月1万円の保険料を、たとえ数カ月しか納めていなくても、被保険者が亡くなったら死亡保険金が満額支払われます。ただし、生きて受け取る満期金は、支払った保険料総額を下回ることが多く、高利回りをうたう商品でも得とは限りません。詳しくは2で説明します。それをあえて両者を比べるのは、超低金利で貯金が増えない不安感を利用して、保険が有利だと思わせるためでしょう。そんなイメージ戦略に、惑わされてはいけません」
 
【2】金融機関は手数料でもうけている
 
「『運用利回り3%』と聞くと、支払った金額が3%で運用されると思いがちですが、実際は、そうではありません。先の外貨建て生命保険なら、保障のための手数料が、支払った保険料から差し引かれ、残った金額が運用に回ります。手数料は保険の商品設計や年齢・性別によって異なります。なかには、初回保険料の1万円から、加入時手数料など4,000円が引かれて、運用に回るのは6,000円という商品もあります。運用利回りが高くても、お得とは言えません。金融機関にとっては、手数料がもうけになります。これを稼ぐために、私たちに投資を勧めているのです」
 
【3】外貨建て商品は損得がわかりにくい
 
「日本は超低金利なので、利回りのよい外国で、その国の通貨に両替して運用する『外貨建て』商品が人気です。外貨建て商品では、私たちが日本円を支払ったとき、また、満期金など日本円を受け取るときに、両替が必要です。そして両替には、為替の手数料がかかります。日本国内で運用する商品には必要のない為替手数料が、外貨建て商品には上乗せされ、手数料が高くなる傾向があります。いくら利回りがよくても、2と同様、運用に回る資金が減ればお得ではありません。金融機関は、手数料をより多く稼げる商品だからこそ、販売に力を入れているのです。
 
また、外貨建てだと、たとえ米ドルだとしても、損得がよくわからなくなる弊害もあります。日本円なら、本当に得をしているのか自分で計算できる人も、営業マンにすべてを委ねてしまいがちです」
 
荻原さんは、「投資に疎くて人のいい小金持ちを、彼らは狙っているのです」と言う。
 
「もし投資するなら、生活に支障のない余剰資金で、自己責任でやりましょう。『何に投資すればいいですか』は絶対にダメ。金融機関のカモになるだけです。『投資はコワイ』『難しい』と感じる方は、投資なんかおやめなさい。『投資しなくちゃいけない』呪縛から、早く解放されましょう」