ワインスティーン氏解雇とメディアの恥辱

アモル・ラジャンBBCメディア担当編集長

(文中敬称略)

多数のアカデミー賞受賞作品に関わった大物映画プロデューサー、ハービー・ワインスティーン氏は、複数の女性スタッフに対するセクハラ行為を問題視され、解雇された

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画像説明, 多数のアカデミー賞受賞作品に関わった大物映画プロデューサー、ハービー・ワインスティーン氏は、複数の女性スタッフに対するセクハラ行為を問題視され、解雇された

自分に向けられた数多くのセクハラ疑惑についてハービー・ワインスティーンは否定しているが、その否定の仕方はあまりに錯綜して分かりにくい。それだけに、成功と栄光を重ねてきた長年の間、彼の行動は時には胸が悪くなるほどおぞましいものだったと結論しても、決して時期尚早ではない。

弟のボブと一緒に立ち上げ、自分の名前を冠する会社から解雇された今、ワインスティーンには過去の様々な行状について滝のように非難が浴びせられている。そして長年にわたりワインスティーンに忠誠を誓ってきた大勢は、はたと立ち止まり、なぜ自分がそうしてきたのか自問自答している。

ワインスティーンに対する糾弾の内容は、ロジャー・エイルズ、ビル・オライリー、ビル・コスビー、そしてドナルド・トランプに向けられた下劣な内容とよく似ている。フォックス・ニュースの最高経営責任者だったエイルズ、フォックス・ニュースの看板キャスターだったオライリー、人気コメディアンだったコズビー、そして米国大統領に対する告訴・告発や糾弾と、ワインスティーンに対する糾弾を、比べるなと言う方がむしろ大変だ。そして、多くの女性がいまだに、トランプから性的な侵害行為を受けたと主張し続けていることは忘れてはならない。ただし、その内容は立証されていないし、大統領は否定している。

権力を手にする男性のふるまいについて、評価基準が変化している。それに伴い、社会の風潮も変化している。性的行為を目的にしたいじめや威圧的行動がこれで減るなら、ほとんどの人は遅すぎたくらいだと思うはずだ。

ソーシャルメディアの出現も、女性の発言を後押ししているのではないかと私は思う。糾弾すれば、それが広く拡散される可能性があり、そうすれば瞬く間に世界的に幅広い注目と支持を獲得することが、ソーシャルメディアによって可能になった。おかげで、かつては公に発言することを恐れたかもしれない女性も、正直に語ろうと思えるようになったのかもしれない。

しかし、こうした非難が米国のメディアやクリエイティブな業界からあふれ出ているのを無視したりすれば、それは職務怠慢だ。

公然の秘密

事実はつらい。実に多くの人が長年にわたり、ワインスティーンのふるまいに気づいていたのだ。まさにいわゆる「公然の秘密」だったのだ。著名人との交友関係や、マリア・オバマをインターンとして採用できる権限が、ワインスティーンをある程度、守ってきたに違いない(バラク・オバマ前大統領の長女、マリア・オバマは、知られている限りとことん礼儀正しい扱いを受けたという)。ヒラリー・クリントンを大いに支持していたというのも、決して不利には働かなかったはずだ。

2012年撮影のヒラリー・クリントン、ハービー・ワインスティーン

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画像説明, 2012年撮影のヒラリー・クリントンとハービー・ワインスティーン

それに加えてワインスティーンは、その強烈な人柄そのものが彼を守っていた。ニューヨークでわずかながら何度か会ったことがあるが、そのたびに彼はパーティーや、マンハッタンでも特に著名人に人気の有名店で、場の中心にいて、高説を披露していた。ワインスティーンが太陽で、その周りを綺羅星(きらぼし)のごとく数多のスターがぐるぐると回っていたのだ。もちろん実にみっともないことだ。しかし、なぜ大勢が彼の悪事を知りながら発言しなかったかといえば、招待主のワインスティーンに招かれるのを楽しんでいたからだ。

米国のメディアでは今、大勢が激怒している。しかし、フォックス・ニュース社内で相次いだ赤裸々なセクハラ疑惑に対して激高したのに比べると、今回のマスコミ業界内の怒りは静かなものだという指摘も多いはずだ。それだけに今回のこのスキャンダルは、米国のリベラルの試金石となる。

醜聞を露見させたのは、ニューヨーク・タイムズ紙。リベラルな米国を象徴する存在のひとつだ。しかし、もし深夜トークショーの司会者や取り巻きのマスコミ関係者たちが、たとえばオライリーを痛罵し続けたと同じように、ワインスティーンも徹底的に非難しないならば、偽善的な二重基準(ダブルスタンダード)だと批判される可能性がある。

ワインスティーンとジョージーナ・チャップマン夫人

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画像説明, ワインスティーンとジョージーナ・チャップマン夫人

なぜマスコミ業界のスキャンダルがこうして次々と噴出しているのか。性的な威圧行為が、たとえばウォール街など他の業界よりもハリウッドで特に顕著だという確かな証拠はない。しかしもしも、もし万が一にでも本当にそうなのだとしたら、ワインスティーンのような存在はクリエイティブな業界内の経済の中の経済の一部だからだろうか。つまり彼らは、名声を買って売るのが商売だ。

ワインスティーンは、自分の権力を使って財産と名声の両方を可能にする存在の一人だった。大量の観客動員力を持ち、それによって巨額の収益を生み出す力を持っていた。被害に遭ったという女優たちの主張が本当ならば、ワインスティーンの行状が許されてきたのは、許されないことに、その力ゆえだったのかもしれない。周りの人たちに富をもたらす力だけでなく、その人たちを有名にする力と合わせて。

それはロジャー・エイルズが持っていたのと同じ力だ。自分にこうして性的に奉仕してくれれば、テレビ画面に出るチャンスが増えるよ――。これが、エイルズの腐った論法だったと言われている。

発言する覚悟のある女性がもっと増え、金と名声と引き換えに性的奉仕を強要するわいせつな男がもっと減る。そういう展開になれば、ワインスティーンその他の連中による下劣な行状が、せめてもの前向きな結果につながったと言えるようになるのかもしれない。

(英語記事 Weinstein and the media's shame