画像提供:マイナビニュース

写真拡大

●日産はゼロ・エミッションで世界に先行?

いよいよ本格化しそうな電気自動車(EV)の覇権争い。日産自動車が新型「リーフ」で先陣を切ったが、初の量販モデル「モデル3」を虎視眈々と準備するテスラなど、有力プレイヤーが追随して予断を許さない状況だ。

○他社に一歩先んじたい日産の新型「リーフ」

初の全面改良を受け、10月2日に日本国内発売される日産の電気自動車(EV)「リーフ」。先頃、幕張メッセで大々的な世界同時公開の「お披露目会」が行われた。

2代目となるこの新型リーフは、1充電あたりの航続距離が400キロと初代リーフに比べて2倍に進化しており、最新の自動運転技術を活用した「プロパイロット・パーキング」や「e-Pedal」を搭載して市場投入される。

西川廣人日産社長兼CEOは「新型リーフは、日産のニッサン・インテリジェント・モビリティをけん引するコアのクルマ」と胸を張った。また、「日産のメインのクルマの電動化は、世界の他社より一歩先を行きたい」と世界のEV覇権を握ることへの意欲を表明した。

○初代は想定通りに伸びず、新型で再び狙う覇権

2010年12月、日産が初代リーフを発表・発売した際、当時のカルロス・ゴーン社長は「世界初の専用設計量産電気自動車リーフの投入によって、日産はゼロ・エミッションのリーダーとなる」と豪語した。また、ゴーン氏は「2016年度末までにルノー・日産連合で世界150万台のEVを販売する」とも語った。7年前にゴーン日産がEV世界覇権を狙って投入した初代リーフは、翌2011年に日・米・欧のカーオブザイヤーを独占受賞し、「EV時代、来たる」として華やかなスタートを切った。

だが、この7年間での初代リーフは当初の思惑から外れたのが実態で、6年半の間に電池性能向上で航続距離をカタログ値で228キロ(2012年)、280キロ(2015年)と徐々に伸ばしてきたものの、販売は伸び悩んだ。やはり、長距離走行への不安や、充電の課題(充電器設備と充電時間)、電池寿命・劣化による中古車価格の低落などの問題を抱えたことが原因である。

結果的に、初代リーフは量産EVとして期待されたが、6年間の販売累計はゴーン氏が豪語した150万台どころか28万台(ルノーと合わせても42万台)にとどまったのだ。

この間、米国ではEVベンチャーのテスラが名乗りを上げて独自の戦略で話題をさらい、日産はEVのリーダーを自負しながらも、そのお株を奪われた感がある。それだけに、初代リーフから6年半を経ての2代目投入は、EVとして大きな進化を遂げて、日産としてのEV世界覇権争いにあらためて手を挙げたものと言えよう。

●EVは先駆けの時代から実用化の時代へ

○破格の予約台数、テスラの「モデル3」が出荷開始

「先代のリーフはEV時代の先駆者だったが、2代目は日産のコアとなる商品だ」と西川日産社長は強調する。今回、日産は初代リーフの問題点を改善し、1充電で400キロの航続距離とバッテリー容量も大きくし、日産の最新技術を詰め込みながら価格も315万360円から(EV補助金で実質的な負担額は275万円から)と初代と同水準に抑えて市場浸透を狙う。

折しも、環境問題に関心の高い欧州では、フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車排ガス不正問題を契機とし、乗用車市場の主流だったディーゼルエンジン車からの転換がメーカーと各国政府の方針として広がっている。

一方、テスラは最新量販EV「モデル3」の出荷を7月から開始した。イーロン・マスク率いるテスラは、巧みなイメージ戦略で話題と関心を集め、このモデル3は発売前から50万台という破格の予約台数を集めている。

○EVシフトの流れが加速

EVについては、かねて燃料電池車(FCV)とともにゼロ・エミッションの本命として世界の自動車メーカーが開発を進めてきたが、ともにメリット、デメリットを抱え、その技術進化、インフラ整備、コストダウンには課題も多く、実用化に時間がかかってきた。

だが、電動化ということでは内燃機関とモーターによるハイブリッド(HV)から、家庭で充電できるプラグインハイブリッド(PHV)、さらには内燃機関からの切り替えによるEVおよびFCVへという流れがある。一時は、地球環境対応の観点から、水素社会実現の掛け声でFCVが究極のエコカーと本命視されたが、水素供給スタンド整備の遅れもあり、このところの「EVシフト」ムードに押されて影が薄くなっている。

もっとも、HVもトヨタ自動車が1997年末に「プリウス」を赤字覚悟で発売して以来、トヨタHV戦略を貫いて市場浸透させるまでには約15年を費やしたのだ。日産としても、初代リーフを発売した2010年末頃での「EV時代到来」は「見出し先行」で反響が高かったものの、EVブームは尻すぼみとなった。

しかし、今回は「本格的なEVに乗り出したところで、初代リーフ投入時から取り巻く環境、情勢も大きく変化してきた」(西川日産社長)ということなのだ。

●エンジン競争への参戦は困難でも、EV転換で勝負のチャンス

○中国も覇権争いに参戦

自動車産業は裾野の広い産業構造を持ち、なおかつ昨今の電動化・知能化の方向による産業としての広がりが進んでいる。世界各国の経済における基幹産業としての位置づけはより高まり、先進国・新興国ともに自動車産業は国策につながる。

環境対策とも連動し、すでに電動化への国ごとのシフトが自国産業の競争力や育成の観点からも実態化している。今や年間2800万から3000万台市場が視野に入る世界の自動車大国となった中国は、2018年から「新エネルギー車(NEV)政策」を導入し、国内での販売・生産に占めるEV・PHVの比率を強制的に決めて順次、引き上げる方向である。

中国は、このNEV規制のもと、自国の自動車産業をEV覇権争いに加わるものとしたい国策を打ち出したと見る。中国事情通に言わせると「内燃機関(エンジン)の競争では勝てないが、EV転換でチャンス到来」だそうだ。

中国以上に自動車市場の今後の伸びが予想されるインドも、2030年までにガソリン車・ディーゼル車の国内販売を禁じ、自国で販売される自動車をEVのみに制限する方針を打ち出してきている。

欧州では、話題となったように英・仏政府が2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止することを表明。ドイツも2030年までに発火燃焼エンジンを禁止するという決議案を採択しているが、メルケル政権は連邦議会選挙を控え慎重な構えを示している。

米国では、すでにカリフォルニア州の「ゼロ・エミッション・ビークル(ZEV)規制」があるが、2018年から強化され、他州にも波及している。

すでに自動車メーカーも、ボルボ・カーズが2019年から販売する全モデルを電動化すると発表すれば、ジャガー・ランドローバーも2020年以降発売の全モデルでの電動化を打ち出した。ボルボ・カーズは中国の浙江吉利控股集団(吉利自動車)、ジャガーはインドのタタ自動車が親会社であることからも、その意を受け早々とEVシフトを打ち出したことが窺える。

○日産は矢継ぎ早の戦略、アライアンスで世界覇権獲得へ

いずれにしても電動化の行く先は、EVかFCVか予断は許されないが、「脱エンジン」に向かっていることは確か。その中で、EV転換の追い風が吹く中で覇権争いに日産が先陣を切ったのだ。

日産は、NECとの電池合弁開発会社を中国投資ファンドに売却する一方で、ルノー連合として中国でEVを開発する新会社設立を発表するなど、EV戦略を矢継ぎ早に打ち出している。三菱自動車もEV「アイ・ミーブ(i-MiEV)」での実績があり、ルノー日産・三菱連合でEV世界覇権獲得を狙う方向だ。

電動化は、一方の先進技術である自動運転との相性もよく、連動して進化の方向にある。だが、「内燃機関の終焉」と言う言葉で簡単に片付けられない事情もある。EV覇権争いは、今後2020年代半ばから2030年代に向けて熾烈な競争が展開されることになろう。