2017年7月14日、カザフスタンのバイコヌール基地から1基の人工衛星が打ち上げられました。ロシアの研究者たちによって開発された、宇宙空間で帆を広げて太陽光を反射するという人工衛星なのですが、科学者の中から宇宙観測に悪影響が及ぶと危惧する声が挙がり、物議を醸しています。

Russian Scientists Just Launched An "Artificial Star" That Could Threaten Astronomy | IFLScience

http://www.iflscience.com/space/russian-scientists-just-launched-a-controversial-artificial-star-that-might-anger-astronomers/all/

打ち上げられた人工衛星「Маяк (Mayak)」はモスクワ国立大学の研究者らによって企画・開発されたもので、ロシアのクラウドファンディングサービス「Boomstarter」で約200万ルーブル(約380万円)の資金を集めてプロジェクトが進められました。Mayakは非常に小さなキューブ型衛星で、帆は折りたたまれた状態で打ち上げられ、軌道投入後に数日かけて完全に展開されているとのこと。今回の打ち上げの目的は「太陽光を受けて光り輝く人工衛星を打ち上げて、人々の興味を宇宙に引きつけること」と、「大気による抵抗を利用することでデブリ(宇宙ゴミ)を地球に落下させる技術の試験」とのこと。クラウドファンディングへの出資者には、Mayakの位置を知ることができるスマートフォンアプリが提供されることになっています。



Mayakはロシアのソユーズ打ち上げロケットによって、他の72個の小型人工衛星と一緒に宇宙に打ち上げられ、高度600kmで地球を周回する軌道に投入されました。打ち上げ後は、髪の毛の20分の1という薄さの幕でできた帆をピラミッドのような三角すいの形状に広げ、太陽光を反射するようになっています。帆の面積は合計16平方メートルとのことなので、1つの面あたりの面積は4平方メートル、単純計算だと一辺の長さは1.3メートル程度ということになります。



しかし、宇宙に関する研究者の中からはMayakによって引き起こされる悪影響を懸念する声が挙がっています。チームの試算によるとMayakが夜空で輝く明るさを等級になおすとマイナス10等級になるとのこと。これは、金星よりも明るく、太陽・月に次ぐ3番目に明るい天体に相当する規模となります。明るさを少なく見積もった場合でも、金星に次いで火星と同等の明るさのマイナス3等級になるとみられます。

この明るさは、天文学者が実施している調査に影響を与えかねないと見られています。特に、空全体を調査する全天探索における影響が懸念されているとのこと。イギリス・ノーサンバーランドにあるキールダー天文台のニック・ハウズ元所長は「その明るさが問題になります。国際宇宙ステーションの妨げになる他の人工衛星は比較的小さいもので、科学的なミッションを担っているものですが、これはただのパフォーマンスです」と否定的な見方を示し、「天文学コミュニティからの反対の声を押し切って、彼らは打ち上げを実施しました。現時点で望めることといえば、計画が失敗して、我々の暗い夜空を明るくしてしまうというプランが実行されないことを願うしかありません」と語っています。

一方、実際にはほとんど影響がないと予測する天文学者も。ピッツバーグ大学のマイケル・ウッド=ヴァーシー氏は「あまり影響はないでしょう。Mayakは昼間と夜を分ける境界線のあたりを周回するため、地平線や水平線よりも低い位置に存在します。そのため、目視することは難しいと思います」と語っています。

実質的にはあまり影響がないとされるMayakの打ち上げですが、むしろ危惧されているのは今回の例が前例となることで、今後さらに影響を及ぼしかねない人工衛星の打ち上げが実施されてしまうところにあるようです。