シェアせずにはいられない! TED 2017で聴いてきた「意識」と「AI」についてのトーク

2017年4月、カナダ・ヴァンクーヴァーにて開催された「TED 2017」。取材に訪れた『WIRED』US版記者のデイヴィ・アルバが「シェアせずにはいられなかった」と語るその内容は、人工知能を語るとき避けずにはいられない「人の意識とは何か」に迫るものだった。
シェアせずにはいられない! TED 2017で聴いてきた「意識」と「AI」についてのトーク
サセックス大学サックラー意識科学センターのアニル・セス博士。PHOTOGRAPH COURTESY OF TED

「TED」をレポートするのは、なかなか難しい。セレブたちは会場を闊歩し、各セッションで語られるテーマはあまりに幅広い。人工知能AI)、気候変動、「未来の自分」…。ローマ教皇が語り、アル・ゴアが登場し、セレーナ・ウィリアムズがゲイル・キングと語り合っている…!

TED 2017」の5日間の内容をひと言にまとめるのは困難だが、その代わりに、あるTEDトークを紹介したい。それがいま最も重要な世界的課題や社会的病理に挑むトークだとは約束できないし、読者諸兄が気に入るようなトークであるとも思っていない。しかし、それは、わたしを笑わせてくれるとともに、思索にふけるのを促すようなトークだった。わたしにとっての“TEDのハイライト”で、人々がここに来る目的を、TEDがかくも力強い世界的なメディアブランドをつくり上げたことを教えてくれるものだった。

AIを不安がる必要はない。なぜなら…

認識科学者アニル・セスによるトークは、2017年のTEDの「精神と意味」シリーズを締めくくるものだったが、次のセスの言葉は、いまもわたしの心に残っている。いわく、「意識は、独特なかたちで人に織り込まれている」──。

これはつまり、AIが意識をもちうることや、ロボットに脳をアップロードすることに対する不安は必要ない、ということだ。一人の人間として、これは大きな安心感を与えてくれる。

「わたしの研究は、意識が“純粋な知能”とはあまり関係がないことを証明しています。意識はむしろ、生存し呼吸する有機体であることとより結びついているのです」と、セスは言う。

セス博士は、LSDなどの幻覚剤でも知られている[日本語版記事]。

意識には2つの面があると、セスは話す。彼の言うところの「外的経験」と「内的経験」だ。前者はたとえば、わたしたちを取り囲む視覚や聴覚、嗅覚などの「知覚されるもの」である。セスによると、わたしたちの経験は脳内の“予測エンジン”として機能する能力に頼っているという。

壇上のセスは、まず不明瞭で聞き取りにくい音声を再生した。続けて、はっきりとした音声を再生した。「ブレグジットはほんとうにひどいアイデアですね」という音声だ。今度は、セスはもう一度、最初に流した不明瞭なヴァージョンを再生した。そうすると、同じように聞き取りにくかったはずが、今度ははっきりと理解できたのだ。

「あなたの脳に届いた感覚情報そのものは、まったく変わっていません」と、セスは言う。しかし明瞭な音声を聞いたあとでは、確かに何かが変わっていた。脳が、不明瞭な音声がどのように聞こえるかを予測するための情報を手に入れたのだ。観衆の表情から察するに、驚嘆していたのはわたしだけではなかったようだ。

TED 2017の会場にて。PHOTOGRAPH COURTESY OF TED

わたしの心は、すっかりつかまれてしまった。「幻覚が“制御されていない知覚”のようなものだとすれば、知覚そのものも幻覚のようなものなのです」と、セスは言う。「実際に、いま、この時もわたしたちは常に幻覚を見ています。ただ、人が自分たちの幻覚に対して“合意”するとき、それを現実と呼んでいるのです」。そうだったのか!

感覚信号は、身体の奥深くからも来るのだとセスは言う。彼は、研究者が被験者に明滅する照明を見せる、別の実験について言及した。一方では被験者の鼓動に合わせてフラッシュが明滅し、他方ではフラッシュが鼓動とはシンクロしていなかった場合、前者において被験者は、フラッシュの光が身体の一部であるという非常に強い感覚を得たのだとセスは語る。

「わたしたちが意識するすべての経験は、『生き続ける』という根底的な欲求から生まれています」と、セス。彼は、「わたしたちは、わたしたち自身のなかに世界をみるのです。生身の肉体とともに、あるいは生身の肉体を通して」とも言うが、ここにこそ意味があるのだと主張する。

まず第一に、わたしたちは世界を誤って感知する可能性があるということだ。だからこそ、予測メカニズムが間違った方向に働くと、わたしたち自身を誤って感知する可能性がある。わたしたちは“自身を喪失する”というかたちで、自分自身のことを常に誤って感知しているのだ。

宇宙のなかのひとつの意識

この理解は、精神医学の分野に含蓄をもたらすものだとセスは言う。これは、個人の「自己」をロボットのひとかけらのソフトウェアにアップロードするほどに縮小することなどできないことを意味している。人間は外側からだけではなく、内側から自意識をもつのだ。

とはいえ、セスは同時に、人間の意識は宇宙のなかのひとつの意識にすぎないと主張する。人間は自然から離れたものではなく、その一部として存在する。ゆえに、死について怖がることは何もないのだと彼は言うのだ。意識の一部が失われることなどは「なんでもないこと」だと、セスは言う。

わたしは会場をあとにし、出会った人たち皆にこのトークについて熱弁した。

彼の話に、わたしがどうして個人的に深く共感できたのか。そうした思いは、また改めて、セスのトークがオンラインにアップされたらシェアすることにしよう。しかし「わたしがそこにいた」ということは、シェアできないのだ。

※ 翻訳元記事の公開後、本稿で紹介しているトーク動画が公開された。動画は下記。


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TEXT BY DAVEY ALBA