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●多くの大学・企業が参加

近年、企業CSRやCSVを学習に採り入れる高校・大学が増えている。特に大学生は、就職を間近に控え、社会に対する意識が強くなっている時期。経済学や社会学といった学問を学ぶことも大切だが、実際の企業活動を研究することは有意義だろう。

ちなみに、CSRとは「企業の社会的責任」のことで、CSVとは「企業と社会の共通価値創造」を指す。字ヅラは似ていても、基本的に異なるものだ。特に近年は、CSVが注目されることが多い。“企業と社会の共通価値”というとわかりにくいが、企業が収益を上げながら社会問題を解決していくといえばイメージしやすいだろう。

そのCSVを学生たちが考え、企業にプレゼンする大規模なコンテストが、東京・立教大学で開催された。

まず、参加大学だが、跡見学園女子大学、学習院大学、昭和女子大学、高崎経済大学、宮城大学、立教大学の6校。

参加企業は、朝日新聞、キリンホールディングス、資生堂、トヨタファイナンス、日本アイ・ビー・エム、ブレーンセンター、三井住友アセットマネジメント、三井不動産レジデンシャル、メンバーズの9社。

これまで何回か、CSRやCSVをテーマにした授業やコンテストを見学させていただく機会はあったが、これほど大規模なものは初めてだ。コンテスト会場の教室に足を踏み入れると、学生たちの熱気で満ちあふれていた。

○運営も学生組織が主体

CSVのプレゼンに挑戦するのは6校16チーム。A会場とB会場に8チームずつにわかれ、予選を行う。本戦に進めるのは4チームで、改めてプレゼンを行い最優秀賞を選出する。なお、コンテストを運営するのは学習院大学の「Innovation Team dot」(イノベーションチーム ドット)。つまりプレゼンするのも学生、コンテストを運営するのも学生、審査は企業が行うという図式だ。

●学生のアイデアに感心する企業の声

さて、2会場にわかれていたので、せわしなく移動しながら見学させていただいたが、合間に企業の担当者に話をうかがう機会があった。学生にも話しをうかがいたかったが、プレゼンの準備をしたり、緊張をほぐそうとしたりしている姿をみると、それは気が引けた。

コンテスト序盤にキリンHD CSV戦略担当 森田裕之氏に話をうかがえた。森田氏は「普段、高校生や大学生の方々に、キリングループのCSV活動について紹介することはありますが、学生からプレゼンを受ける機会はあまりありません。どんなCSVのアイデアが出てくるのか、非常に楽しみです」と期待を寄せた。

中盤にお目にかかった三井不動産レジデンシャル 市場開発部 唐澤豊成氏は、「弊社は3〜5年で新商品を投入しますが、そのヒントになればと思い参加しました。すでに参考になりそうなアイデアにいくつか出会いました」と笑みをこぼした。

終盤では、資生堂 コーポレートコミュニケーション本部 臼井文氏に話しをうかがった。「学生のアイデアなので“どうかな”という気持ちがわずかにありましたが、どれも秀逸な提案で驚きました。今後の弊社の活動につなげたいものもありました」と、手応えを感じたようだ。

○わずか2週間でプレゼンを準備

メンバーズ 執行役員 原裕氏にもお会いした。実はメンバーズが、今回のCSVコンテストの“仕掛け人”ともいえる存在。なぜ、CSVだったのかうかがうと、「学生たちはこれから社会に出てさまざまなシーンで活躍されるでしょう。なかでもマーケティングに関わる方は多いと思います。企業の課題や社会の課題を考えるCSVは、マーケティングに生かしやすく、その力を身につけていただくためにも今回の取り組みとなりました」と話す。

驚いたのは、学生たちにはわずか2週間しか与えられていなかったこと。わずかの期間で、提案対象の企業を選定し、“CSVとは何ぞや”を理解し、企業の課題を洗い出し、アイデアを出し合い、そしてプレゼンの準備をする。筆者が学生のときに、短期間でこれほどのことをできたかと問われると、とてもではないが自信はない。

●甲乙つけがたいアイデアが続出

コンテストの様子に戻ろう。決勝に残ったのは、立教大学から2チーム、学習院大学1チーム、宮城大学1チームの計4チーム。この4チームがA会場で再度プレゼンをしたが、B会場で審査をしていた企業の担当者も集まるので、審査基準は予選のときとは異なってくる。それでも、各チームは滞りなくプレゼンを終え、審査に入った。

結果、学習院大学チームが最優秀賞の栄冠に輝いた。テーマは「それぞれの美しさを認め合える社会へ」というもの。これは、女性の美しさは画一的ではなく、おのおのが“美”を持っており、それを引き出すためのメイクアップをどうするか、というのがテーマ。資生堂に向けたCSVの提案だ。

このチームに、「なぜ、今回のテーマになったのか?」をたずねてみたところ、海外留学経験のある学生の意見がもとになったという。海外では女性たちが生き生きと自分たちの“美”を楽しんでいるのに、日本ではマスコミなどが提唱する“美”に縛られている。もっと、それぞれが自分の“美”を磨くべきではないかという提案だった。

ちなみに、このプレゼンを完成させるためにどのくらいの時間を使ったのかわからないそうだ。コンテストの前日も午前3時まで、SNSなどで詰めていたというから、相当な時間を費やしたにちがいない。ただ、「楽しかったです!」と目を輝かせながら話している様子をみると、今回のコンテストに参加したことは有意義だったといえるだろう。

○学生ならではの視点を企業が賞賛

最終審査を終えて、各企業の担当者の講評をうかがったが、多くの方が「よくこの短期間でCSVを理解した」という意見を口にした。CSVは2011年にアメリカで提唱された比較的に新しい概念だが、CSRと混同しやすい。それを、まだ社会に出ていない学生たちが、ほぼ例外なく理解していたことに企業担当者は感心していた。さらに、各チームが提案したアイデアに驚いていた様子がうかがえた。ある企業担当者は「社会に出てしまった私たちでは到底思いつかないアイデアが続出し、非常に印象深かったです」と話す。

筆者も同様の想いだ。予選が2会場にわかれていたので、すべてのプレゼンを拝見できなかったが、印象に残ったものを2つ挙げよう。

ひとつは宮城大学チームの提案。クルマの運転中、合流などで道を譲られるとハザードランプを点滅させて感謝を表す習慣があるが、これを「寄付ボタン」にすればというものだ。ほかのドライバーへの感謝の気持ちを“1円”で表し、集まった資金をインフラ整備や福祉に役立てる仕組みをつくれないかと提案した。

もうひとつは、立教大学チームのプレゼンで、“ジワ飲み”を提唱するもの。お酒の飲み過ぎは健康被害につながるだけでなく、飲酒運転といった法令違反を引き起こすこともある。節度を保ってお酒を楽しむには、ジワジワ飲むことが大切。ただ、ジワジワ飲むのならば、少し贅沢なお酒を味わって楽しもう、というものだ。

「なるほど……」と思いながらプレゼンを聴いたが、しばしばお酒の“ガブ飲み”をする筆者には、少々、耳が痛かったのも確かだ。