ロック・バー編 【マニアが集う“注文の多すぎる料理店”】
熱狂的な音楽マニアが店主を務め、その熱量にほだされるように音楽マニアたちが集ってくる飲食店を紹介する本コーナー。今回は中央線・阿佐ケ谷駅のロック居酒屋「ROCK KITCHEN 1984」を紹介します。
ロック愛とセンスの良さはキース・エマーソン(EL&P)のお墨付き!
お店のある場所は中央線・阿佐ケ谷駅。南口を出て一番街へ。古着屋や焼き鳥屋を横目に歩くと右手にギターロゴの看板が。
阿佐ヶ谷といえば、ひと昔前は高円寺と並び、ロックファンが集う街として知られた場所。ワイルドな雰囲気を思い浮かべ、ちょっぴりドキドキしながら階段を登り、二階へ。扉を開けると白を基調とした内装が目に飛び込んでくる。あれ、本当にここ? ロックバーだよね?
「ウチはいわゆるロックバーのイメージとは真逆を目指してるんですよ(笑)。ロックバーって、黒を基調とした内装でライトが暗くて、ホコリにまみれたところが多いでしょ。ウチは白くて明るくてキレイな店にしたくて。ロック好きは男性だけじゃなく、女性もいる。みんなが気軽に来て欲しいですからね」
そう語るのは店主の桂規之さん。隣で微笑むのは奥様のさおりさん。お二方とも(桂さんは渋いヒゲ、奥様は金髪と)一見ワイルドながら温かく迎えてくれた。2010年にお店を構えて、今年で9年目に突入する。
「前は某大手CDショップの商品部でずっと働いていました。辞めた後、しばらく何をやろうか考えて思いついたのがバー。それなら好きな音楽を毎日、楽しめますから。それともう一つ。僕、今までに買ったLPレコードを一枚も手放していないんです。もう4千枚近くになっちゃって。それも有効に使えるかなって。お店ではオープン時からアナログのレコードにこだわってかけています」
店の奥にある壁にはレコードジャケットがずらり。よく見ると一列ごとに曜日が書いてある。お店のBGMは日替わりでジャンルが変わるのだ。月曜はロックスタンダード、火曜はサザンロック、木曜は日本のロック、金曜はハードロック、土曜はウエストコースト&ソングライターといった具合だ。
「ハードロック専門とか特定のジャンルにこだわらず、日替わりでかければ、いろんな人に来てもらえるかなって。自分が通ってこなかったパンク、ニューウェイブ、70年代プログレ以外は基本、何でもかけますね。お客さんからはリクエストも多いんですけど、それにもなるべく応えます」
注目は水曜日。メニューに「産業ロック」とある。産業ロック?
「それ、よく聞かれます(笑)。70年代後半~80年代前半のキャッチーなアメリカンロックのこと。メジャー路線でセールスもよかったから一時、音楽誌で半ば皮肉を込めてそう呼ばれていました。バンドだとボストン、カンサス、ジャーニー、フォリナーとか。僕自身、ボストンが一番好きなバンドなんで、敢えてジャンルとして括っていますけど、『産業ロック』としてかけるロックバーは珍しいかもしれませんね」
レコード針は長岡製を使用。店頭で販売もしている。
店内にはレコードジャケットの他に、ロック関連のオブジェが所狭しと並ぶ。特に異様な存在感を放つのが、アルマジロと戦車が合体したオブジェ。これは一体?
「イギリスのプログレバンド、エマーソン、レイク&パーマー(EL&P)の『タルカス』ってアルバムのジャケに出てくる怪物です。僕、このジャケが世界一好きなんですけど、お店をオープンする時、お祝いに頂いたんです。知人を通じて、ある造形作家がわざわざ作ってくれて。ものすごい出来栄えでしょ。ホームページにあげたら、話題になってEL&Pファンの人が大勢見にきました。中には仙台からわざわざ来た方もいましたね」
評判は海外にも飛び火し、なんとEL&Pのメンバー本人にも!
「キース・エマーソンの代理人から、連絡が来たんです。やばい! 怒られる! と思ってビクビクしてたら、キースが欲しがってるんだけどって(笑)。さすがにあげるのは無理だから、せめて現物を見てもらおうと2016年の来日公演に行こうとしたんですが、結局、直前に亡くなってしまって……。それだけは今も心残りですね」
リトル・フィートのトマトのオブジェは、知り合いに作ってもらったもの。現在はポール・スミスのディスプレイ用オブジェなども作っている。
ここで一息ついて、お料理を。
こちらでは酒のつまみからカレーなど、様々な料理を食べることができる。料理は桂さんとさおりさんがそれぞれ手がける文字通りの「家庭料理」だ。
マスターが仕上げるコンソメ・バターライスのオムライスにママの家庭的なチキンカレーを合わせた<オムライスカレー>980円
アツアツのチーズが口の中でとろける、<ママのシーフードグラタン> 600円
ロックといえばバーボン!ファイティング・コック、バッファロー・トレースなどちょっと珍しいオススメ銘柄を揃えている。
まるでレコードの解説のようなポップが楽しい(600~1000円)
さて店内でレコードやオブジェとは別に圧倒的な存在感を放っているのが壁にかけられたギターの数々。これは、桂さんとさおりさんの私物。二人はそれぞれバンドをやっていて、ともにギタリストとしても活動する。お客さんとは音楽の話だけでなく、ギターやバンド体験の話に花を咲かせることも多い。
「ギターはお店に来るお客さんや友達から、譲り受けることも多くて、どんどん増えちゃいました。正直、置き場所にも困るくらいです(笑)。お客さんの中にはバンドを以前やってた人も多く、ギターをきっかけに、いろんな話をしてくれることは多いですね。その流れでリクエストしてもらって、一緒に曲を聴くのも楽しいし。ちなみに僕らの演奏は毎年、ライブハウスを借りてやってるアニバーサリーイベントで披露します」
また「ROCK KITCHEN 1984」では時折オリジナルイベントを開催。お客さん同士の交流の場ともなっている。
「毎月最終土曜日に開催しているのが歌謡曲ナイト。アナログレコードのある70~80年代の曲をメインにかけて、かなり好評です。僕がいない時、ママに店を仕切ってもらってやったユーミンナイトも好評でしたね。あとは料理のイベントもあります。前に寿司ロックっていうタイトルで、寿司職人にきてもらって、ロックをかけながら寿司を出すってイベントをやりました。レコードをかえてる暇もないくらい大変だったけど」
ところで、疑問が。そういえば店名の「1984」はどういう意味なんだろう。桂さんのお話を聞く限り、全然80年代テイストは見当たらない。大好きな産業ロックもEL&Pも、活動は70年代がメインだし。
「それもよく聞かれますね(笑)。80年代のロック中心なんですかって。全然違うんですよ。そうつけたのは、ヴァン・ヘイレンやデヴィッド・ボウイなど、ロックの名曲に『1984』ってタイトルが多いことともう一つは……僕らが結婚した年なんです(笑)。せっかくだからつけておこうと」
奥さんが好きなバンドはスコーピオンズやマイケル・シェンカーの80年代ハードロック。久々にバンドをやるにあたりヤマハのギター教室に通ったとか。
なんと! つくづくロックのワイルドなイメージをいい意味で裏切る、アットホームなロックバーだ。さて、今後はどのようなお店を目指しているのだろう…。
「うーん、そうだなぁ。これからも普通にやっていければいいですね。大好きな音楽をみんなに聞いてもらって一緒に楽しんでもらって。それで店を出たときに、リラックスしてもらえればすごく嬉しいですね」
せっかくなので、「ロックキッチン 1984」的プレイリストを選んで頂いた。
自宅でバーボンを飲みながらロックキッチン気分をどうぞ!
1.Boston/Peace of Mind
2.Deep Purple/No No No
3.Grand Funk Railroad/Rock'n Roll Soul
4.Rory Gallagher/I Fall Apart
5.UFO/Let It Roll
6.Silverhead/Long Legged Lisa
7.Ted Nugent/Stormtroopin'
8.Tempest/Dance to My Tune
9.Montrose/What Are You Waitin' for
10.Stray/Jericho
【SHOP INFO】
●ロックキッチン 1984
東京都杉並区阿佐ヶ谷南2-18-9
03-3315-1984
月曜日~土曜日:19時頃~Midnight
日曜日:特別営業日
http://www.rockkitchen1984.com/
Text:大野 智己
Photo:渡邊 眞朗