仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

接待などの酒席が多いと、アルコールの摂取によって睡眠の質が悪くなり、帰宅時間が遅くなることで睡眠時間も少なくなりがちだ。(c)PaylessImages-123RF
接待などの酒席が多いと、アルコールの摂取によって睡眠の質が悪くなり、帰宅時間が遅くなることで睡眠時間も少なくなりがちだ。(c)PaylessImages-123RF

飲み会前の野菜ジュースがその日の睡眠に効く

 営業部など接待をすることが多い職種の人は、どうしても酒席が多くなりがち。アルコールは睡眠の質を悪くするし、帰宅時間が遅くなることで睡眠時間も少なくなってしまう。そこで今回は、DeNAや吉野家など多くの企業で睡眠のコンサルタントを行っているニューロスペースの小林孝徳社長に、「飲み会が多い」ビジネスパーソンの睡眠改善法を教えてもらった。

 お酒を飲むと眠くなることから誤解している人も多いが、アルコールは快眠にはつながらない。大量に飲むと寝つきは良くなるが、交感神経が働き睡眠が浅くなったり、利尿作用で夜中に目が覚めやすくなってしまう。実際、酒を飲む機会の多い人が睡眠の質の低下に悩むケースは多いという。

 「基本は深酒をしないこと」と小林さんは話し始めた。加えて注意したいのは、お酒を飲む前の下準備だ。特に、多くの人がやっている「すきっ腹にビール」がいけないと、小林さんはいう。これが、その晩の睡眠の質に影響するそうだ。

 「空っぽの胃にビールを流し込むと、アルコールの作用が強く働きやすくなります。その前に野菜ジュースやミネラルウォーターを飲んでおくと、アルコールの吸収をゆるやかにできます。私はトマトジュースを愛飲していますが、水を飲んでおくだけでも、睡眠への悪影響を少なくしてくれるでしょう」(小林さん)

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「夜のドカ食い」は睡眠にも悪影響

 シメのラーメンが体に良くないことは、多くの方がご存じだろう。就寝直前にとったカロリーは筋肉で消費されないので体脂肪になりやすく、肥満や生活習慣病のリスクも高くなってしまう。さらに、睡眠にも悪影響を与えるという。

 「就寝するときは深部体温(脳や内臓など体内の体温)が下がることで眠りの質が良くなるが、夜にドカ食いをすると消化活動が長引いてスムーズに深部体温が下がらない」(小林さん)。そのため、睡眠の質が悪くなるのだ。

 「翌朝スッキリ目覚めたければ、起床する10時間前までに食事をすませておくと理想的」と小林さん。朝6時に起きる人なら、夜8時までに夕食をとっておく計算になる。接待のある日は難しいだろうが、普段はできるだけ実行してほしい。

 営業担当者は、午後イチの時間帯から顧客企業と商談やミーティングを行うことが多いが、「接待が続いて睡眠が不足していると、ランチを食べた後に強い眠気を感じてしまう」という人も多いだろう。ランチの後に眠くなるのは、血糖値と体内時計、二つの理由がある。

 まず血糖値が急激に上がることで、大量のインスリンが分泌される。その結果、「今度は血糖値が一気に下がって眠くなりやすい」(小林さん)のだという。血糖値の急上昇を防ぐには、血糖値を上げる糖質の前に別の食べ物を胃に入れておくこと。「特に野菜から食べることで、血糖値の急上昇を防ぐことができます」と小林さんはアドバイスする。

仮眠は午後の眠気を防ぐが、眠り過ぎは要注意

 午後に眠くなるのは昼食のせいだけではない。「体内時計の仕組みで、もともと起床から7~8時間後は日中で眠くなりやすい時間帯なんです。その前、つまり起床から6時間後くらいに仮眠をとっておくといいでしょう」と小林さん。

 起床から6時間後というと、多くのビジネスパーソンには昼休みに当たる。仮眠をとるにはちょうどいい。昼食後や移動中などに仮眠をとっておくと、午後の眠気を防ぐことができる。小林さんは、眠気を感じる前に予防的にとるということで、この仮眠を「攻めの眠り」と呼んでいる。

 具体的な仮眠の取り方はこれまでの連載でも何回か触れてきたが、ポイントは“眠り過ぎない”こと。15~20分程度が理想的だ。30分以上眠ると睡眠が深くなってしまうのでNG。夜に眠りにくくなるうえ、目を覚ましても頭がボーッとしていて、すぐに仕事に取りかかれない。あくまで仮眠なので、本格的に熟睡する必要はない。イスやソファに座った姿勢でウトウトするくらいで十分だ。

 仮眠は時間帯も重要で、15分程度の仮眠でも午後6時以降だと夜の睡眠に悪影響が出てしまう可能性がある。特に夕方以降となる帰りの電車では、できるだけ眠らないようにしよう。お酒が入ると眠くなる人は、「飲み会のある日は昼間に仮眠をとっておくといい」と小林さん。眠ってしまいそうなときは、帰りの電車で座らないようにするのも有効だろう。

起床11時間後に体を動かす習慣を

 営業マンは休日も気を抜けない。接待でゴルフに行く日は、いつも以上に早起きしなければいけない。早朝からのプレーに備えて短時間で目を覚ますには、起床後に熱いシャワーを浴びるといい。「人工的に深部体温を上げることで、身体が動きやすくなりパフォーマンスが高くなります」と小林さんは話す。

 深部体温は一日の中で変動している。最も高くなるのは起床11時間後。夜遅くなって深部体温が下がると眠くなる。この最も深部体温が高い時間帯に運動し、さらに体温を上げておくと快眠に役立つ。本格的に運動することが難しければ、ウォーキングやストレッチ程度でも構わない。

 「この時間帯に体を動かすと、深部体温の変動の落差が大きくなってよく眠れるようになります。また、睡眠直後に分泌される成長ホルモンの量が増えるので、睡眠の質も良くなるのです」(小林さん)

 ちなみに深部体温が最も低くなるのは起床から22時間後。朝6時に起きている人なら、明け方の4時頃ということになる。この時間帯に起きていると体に大きな負担がかかるので、徹夜で仕事をしていてもこの時間帯だけは少しでも眠ったほうがいい。徹夜が避けられないことが分かったら、夕方くらいから短時間の仮眠を取っておくのもいい方法だ。

小林孝徳(こばやし たかのり)さん
ニューロスペース 社長 
小林孝徳(こばやし たかのり)さん 1987年生まれ。新潟大学理学部卒業。ITベンチャー企業を経て、2013年にニューロスペースを設立。産業現場における睡眠改善と労働生産性の向上を目指し、多くの企業に「睡眠のオーダーメードソリューション」を提供している。
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