自動運転車開発がアップルを破滅へと向かわせる それはなぜか?

ティム・クック氏

「アップルカー」が実際に道路を走ることはなさそうだ。

Stephen Lam/GettyImages

  • アップルは、自動運転車用のAIシステムを開発している。
  • しかし、アップルは出遅れており、追いつくためには多額の資金を投じる必要がある。
  • それ相応の自動運転システムを製品化しなければ、投資家からの厳しい批判を浴びるだろう。

アップルのCEOティム・クック氏がブルームバーグのエミリー・チャン氏とのインタビューで語ったところによれば、「アップルカー」が実際に道路を走ることはなさそうだ。

アップルはその代わりに、AI(人工知能)をベースにした自動運転技術の開発に取り組んでいる。

6月5日(現地時間)に行われたインタビューで同氏は次のように述べた。

「私たちは自律システムに焦点を絞っている。自律システムは、私たちが大変重視している中核技術だ。(中略)AIプロジェクトの母体だと考えている」

アップルだけでなくシリコンバレー全体が、自動運転車の開発から軸足を移し、彼らが最も得意とする分野へと回帰しつつある。クック氏のインタビューはそれを明確にした。

例えば、グーグルから独立したウェイモ(Waymo)は2017年6月12日、ポッド型の自動運転車の開発を終了すると発表した。今後は、フィアット・クライスラー・オートモービルズと協力して、自動運転システムの実用化を進めていく。

また、ウォール街のアナリストたちは、500億ドル超の時価総額がありながら、いまだに利益があげられないテスラに関して、自動車メーカーとして投資するのは愚かだと判断。それよりも、同社CEOイーロン・マスク氏がその時価総額を活用して、まったく新たなモビリティやデータサービスのビジネスを築き上げられるかどうかを見守っていくことにしたようだ。

今回のインタビューにおけるクック氏の発言は2通りに解釈できる。

1つは、アップルは、しばらく前からシリコンバレーで話題となっている交通/輸送業界の破壊的革新に本気で貢献しようとしているという見方。

もう1つは、アップルが白旗をあげて降参したという見方だ。クック氏が本気でこの分野に突き進んでいくつもりだとしても、アップルはあまりにも後れを取っている。それに、他社に追いつくために膨大な資金を注ぎ込めば、投資家から徹底的に叩かれるだろう。

楽観的に見るか、悲観的に見るか

ウーバーのイメージ

配車サービスは投資家の心をとらえている。

Carl Court/GettyImages

この2つの解釈の違いは、楽観的に見るか、悲観的に見るかだ。

クック氏は当然、一般に向けては、アップルの交通/輸送分野における取り組みを盛んにアピールするだろう。しかし、これまでの際立った成果は「Apple CarPlay」だけだ。交通/輸送分野に本格的に取り組んでいるシリコンバレーの代表格はテスラだ。同社の株価は2017年の前半だけで70%近くも上昇しており、その存在は無視できない。

クック氏の語り口は、故スティーブ・ジョブズ氏とは異なる。使い勝手のいいコンピューターとエンターテインメント性を重視したクールなデバイスを提供して人を喜ばせたいというシンプルな目標を掲げていたジョブズ氏とは違い、クック氏は、交通/輸送技術に関する最近の議論でよく耳にするような、エンジニアリングによる未来主義をアピールする技術系官僚のような専門用語を使って話す。聞こえはいいが、その技術の実用化には程遠い状況だ。

「3つのベクトルの変化が、基本的に同じタイムフレームの中で起きている感じだ」とクック氏はチャン氏に述べた。つまり、自律走行車、電気自動車、配車サービスの3つだ。

クック氏が語っているのは、アップルに比べて比較的新しい、活気あふれるテック企業3社が、その3分野において注目を集めているということだ。3社とは、グーグル、テスラ、ウーバーだ。

CarPlay

いまのところ、自動車関連の主なアップル製品は「CarPlay」のみだ。

Daimler

率直に言って、アップルがこうした流れに真剣に加わろうとすることは奇妙だ。アップルの強みは、デザインだ。自動車を開発したければ、自動車そのものを設計すればいい。テスラは、21世紀に自力で自動車メーカーを興せることを証明した。ところがアップルは、自動車開発において次々と失態を演じ、最終的には、独創的な秘密計画「プロジェクト・タイタン(Project Titan)」を打ち切りへと追い込んでしまった。

さらに不可解なのは、アップルがAIに本気で取り組もうとしていることだ。だが、AIで業界破壊を目指すなら、最大のチャンスはテレビにある。アップル製の自動車や関連サービスを利用したい人がどれだけいるかは、かなり疑わしい。しかしアップルが、現在販売しているストリーミング用のApple TVなどではなく、独自のテレビを作れば、多くの人がほしいと考えるだろう。

皮肉な見方?

しかし、こうした状況は目新しいものではない。クック氏は、アップルの遺産をこれまで見事に継承してきたとはいえ、世界を変えるような画期的な製品はいまだに送り出せていない。こうした状態が何年も続けば、アップルはより一層、稼ぎ頭のiPhoneに頼らざるを得なくなる。

著者の心の中の皮肉屋はこうささやく。クック氏がモビリティを盛んに語るのは、投資家が自動運転車の可能性に夢中になっているからだ、と。そして、クック氏がその考えに賛同すれば、株価上昇を促すシグナルを送れるのだ、と(クック氏が自動運転システムの開発について明かした相手は実際、ブルームバーグだった)。

アップルが自分の力の及ばない領域に入り込み、資本破壊へと進んでいく可能性があると見る現実主義者もいる。自動車ビジネスが不安定で、多額の資本を必要とすることは誰もが知るところだ。アップルが、どんなレベルであれ、現在よりもこの領域に熱心に入り込もうとすれば、状況は今まで以上に破滅的なものになりかねない。

※当コラムは、Business Insiderの見解を必ずしも反映するものではありません。

[原文:Apple has made a potentially disastrous pivot on self-driving cars

(翻訳:ガリレオ)

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