不動産賃貸仲介サイトを運営するドイツのネストピックが、ミレニアル世代にとって住む価値の高い都市のランキングを発表した。首位はオランダの首都、アムステルダム。そして、上位をヨーロッパの主要都市が独占する結果となった。東京など日本の都市は果たして……?
“自分が住みたい場所”に住むミレニアル世代
「ミレニアル世代」は、一般的に1980年から2000年の間に生まれた世代と定義される。
ネストピックによればミレニアル世代は、テクノロジーに対する順応性の高さ、起業家精神の旺盛さ、住む都市に与える影響の大きさから、近年注目の的となっている。この世代は海外旅行の経験が彼らの上の世代よりも豊富な上、自分の嗜好をより大切にする傾向が強いことから、住む場所にこだわりを持ちやすいようだ。また、自分の生まれた国や都市に固執せず、自分に合った場所へと移り住むことにも抵抗が少ないのが特徴だ。
そんなミレニアル世代を惹きつける都市はどこか —— 。ネストピックは、ミレニアル世代が「住む場所」に求める要素を分析し、16の項目に分けて点数化、ランキングを制作した。
これらのデータは、日本のミレニアル世代にとっては、旅行先や移住先を考える際の参考資料になりそうだ。また、企業や官公庁においては、市場調査や海外進出の判断材料として利用できるデータとなるだろう。
ヨーロッパの主要都市が上位を独占 —— 首位はアムステルダム
ランキングのトップ10は以下の通り。
1. アムステルダム(オランダ)
アムステルダム:LGBTへの寛容度、男女平等、スタートアップのコミュニティの活発さが高く評価された
Dean Mouhtaropoulos/Getty Images
ミレニアル世代から圧倒的に支持されるオランダの首都アムステルダム。物価が高いということ以外は全項目において好意的な評価を受けている。特にLGBTへの寛容度、男女平等、スタートアップのコミュニティの活発さが高く評価された。
2. ベルリン(ドイツ)
ベルリン:人権に関連する項目はすべて高評価
Sean Gallup/Getty Images
ドイツの首都でありながら、他のドイツの都市と比べ、物価が安いことで知られる。人権に関連する項目はすべて高評価なのに加え、ナイトライフの充実においては満点を獲得した。
3. ミュンヘン(ドイツ)
ミュンヘン:利便性の高い交通システムが高く評価されている
Joerg Koch/Getty Images
ベルリンに比べ、就業機会が多い反面、物価は高め。交通システムはベルリンよりも高く評価されている。QOL(生活の質)を充実させたい層には魅力的に映る。
4. リスボン(ポルトガル)
リスボン:リーズナブルな生活費
Sean Gallup/Getty Images
トップ10の中で物価が最も安いのが高評価につながった。就業機会は乏しくとも、飲食代ほか、生活費はリーズナブル。
5. アントワープ(ベルギー)
アントワープ:テクノロジー・インフラが整備された街
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芸術の街としても知られるベルギー第2の都市。Wi-Fiの速度はトップ10の中で首位。テクノロジー・インフラが整っていることが高評価に。物価も比較的安い。
6. バルセロナ(スペイン)
バルセロナ:世界的な観光都市
David Ramos/Getty Images
就業機会をのぞけばすべての項目において平均以上の点数を獲得している。なかでも観光の充実とLGBTへの寛容度は高い評価を得ている。
7. リヨン(フランス)
リヨン:健康施設の充実度で満点
Bruno Vigneron/Getty Images
フランス第2の都市。病院やフィットネスジムを含む健康施設の充実度で満点の評価を得たほか、アップルストアの質も高評価。
8. ケルン(ドイツ)
ケルン:人権の項目で高評価
Maja Hitij/Getty Images
観光の魅力度ではトップ10の都市で最下位だが、人権の項目で高い評価を受けている。食事の満足度も高い。
9. パリ(フランス)
パリ:観光や交通システムの高い充実度
Pascal Le Segretain/Getty Images
観光や交通システムの充実度が突出して評価されているのに加え、物価が高いにもかかわらずナイトライフの充実度で満点を獲得。
10. バンクーバー(カナダ)
バンクーバー:移民への寛容度が高い街
Doug Pensinger/Getty Images
唯一のヨーロッパ圏外の都市で、世界中から移民や観光客が集まる。トップ10の都市の中では、スタートアップの活発度、移民への寛容度の評価が首位。
バンクーバーを除く9つがヨーロッパの都市だった。ランキングの上位には、就業機会が乏しいながらも、スタートアップの活発度が評価されている都市が多く含まれていた。全体的な傾向として、テクノロジーのインフラが整っており、物価が安いという特徴がミレニアル世代に好まれるようだった。
評価項目がミレニアル世代の嗜好を反映
調査結果のウェブページでは「総合」「100万人以上の都市」「100万人以下の都市」の3つのランキングが閲覧可能。さらに、16並ぶ項目ごとのタブのうち、1つをクリックすれば、その項目の上位都市に切り替わる。
例えば、人口100万人以下の小規模都市を選択すると、首位はポルトガルのリスボンだ。ビールが安い大都市を選択すれば北京など、自分の嗜好に合わせて適切な都市を絞り込むことができる。
筆者たちもミレニアル世代であり、その視点から見ても、このランキングは「実用性に富んでいる」と感じる。
就職機会や観光が充実しているかなど、どの世代も重視するであろう要素に加え、Wi-Fiの速度、LGBTへの寛容さ、ビールの美味しさ/安さ、アップルストアのランキングまであり、ミレニアル世代にとって目を引く項目が多いのだ。
また、総合的な順位だけでなく、“自分にとって一番の都市”を探しやすいのも特筆すべき点。ミレニアル世代に属しているとはいえ、回答者それぞれで優先したい項目は異なるのだ。
筆者なら、Wi-Fiの速度、食べ物の美味しさ/安さ、スタートアップの活発度で調べて、旅行先や移住先を検討する。実際、上位10都市のうち8つは、筆者が魅力を感じている都市だった。
東京は98位、他のアジアの都市の後塵を拝する
日本の都市は、総合ランキングで東京が98位という結果に。
東京は就業機会と観光の魅力においては11位に位置する一方で、Wi-Fiの速度は87位、交通事情は77位、男女平等では98位だった。
アジアで比較すると、シンガポールと香港が東京より多くの項目で上位につけている。北京やソウルも東京に比べ、総合点では上位に。ミレニアル世代の移住先候補として、残念ながら日本は上位にいるとは言えない状況だ。
多様性を受け入れられる国民性が求められる
東京をはじめとした日本の都市は、就業機会や観光の魅力といった「従来から求められていた魅力」では上位に位置している。しかし、今後さらに求められていくであろう要素を考慮すると、日本の都市には課題が山積していると言わざるを得ない。
今回のランキングの選定項目を見ると、ミレニアル世代にとって重要視されるのは“多様性を受け入れられる力”だと言えないだろうか? 男女平等、移民受け入れの寛容度、LGBTへの理解度など、ハードではなくソフト面の項目が多く見受けられるからだ。
世界でも稀なほど民族的な均一性の高い日本人が、(EU圏内でなら)人が自由に国境を超えられるヨーロッパの人々と同じような価値観を持つのは容易ではない。しかし、上記のような「ソフト面」でも世界的なトレンドにフィットさせていかなければ、日本の都市の競争力向上は望めそうにない。
ちなみにネストピックは、社会の高齢化に悩まされる国や都市は、ミレニアル世代にとって魅力的な都市形成を推進することで都市の若返りや活性化につながると述べている。ミレニアルフレンドリーな都市づくりは日本にとって重要な課題として認識したい。
source:Millennial Cities Ranking(Nestpick)
岡徳之:コンテンツ制作会社「Livit」の代表。現在はオランダを拠点に、欧州・アジア各国をまわりながらLivitの運営とコンテンツの企画制作を行う。
赤江龍介:1988年生まれ、サンフランシスコ育ち。食やワインをメインテーマに世界の都市をまわりながら執筆活動に従事。海外進出支援のコンサルティング、通訳・翻訳も行う。