1時間以内の配送サービス「アマゾン プライム ナウ」(写真:丸毛 透)
1時間以内の配送サービス「アマゾン プライム ナウ」(写真:丸毛 透)

 4月7日、ヤマト運輸がアマゾン・ドット・コムの当日配送サービスの受託から撤退を検討している。人手不足によって宅配便の配達員の負荷が増大し、サービス残業などの過重労働が問題になっていることへの対応策の一つで、既にアマゾンには当日配送の受託縮小を要請しているという。

 これを受けてアマゾンはどう動くのか。「今後のビジネスの計画については答えられない」(アマゾン広報)としており、現時点では未知数だ。そこで、「アマゾンと物流大戦争」(NHK出版)の著者で物流関連のコンサルティングなどを手掛ける物流会社イー・ロジット社長の角井亮一氏(過去記事はこちら)に、アマゾンの「次の一手」を予想してもらった。

まず、ヤマトがアマゾンから当日配送の受託を縮小した場合、アマゾンも当日配送サービスを縮小、もしくは、やめるようなことはあり得るのでしょうか。アマゾンは「地球上で最もお客様を大切にする会社」を標榜しています。当日配送を顧客が求めているのだとしたら、それに応えてくるのがアマゾンのような気がします。アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は2015年のインタビューで、宅配のスピードをさらに速めると語っていました(アマゾン、日本でも宅配は「異次元のスピード」へ)。

角井:確かに、当日配送はヤマトのセールスドライバーにとって、一番大変な仕事だったそうです。当日配送は、1日の3回の配送のうち、夕方に集中しますから、以前なら順番に早めに帰れたのが、夜9時を過ぎても配達が終わらないような状況になりました。それが、昨今報道されている現場の疲弊に繋がった原因の大きな一つです。そのため、ヤマトが当日配送の受託数を徐々に減らし、現場の負荷を軽減しようという流れは、当然でしょう。

 ただし、だからと言ってアマゾンが当日配送のサービスをやめることはないでしょう。ヤマトが縮小した分の一部は、日本郵便などが受託することになりますし、これを契機にアマゾンは全力で配送の自前化に動くでしょうね。

「配送の自前化」とは具体的にどのようなことですか。

角井:既に2015年には、注文から1時間以内で配送する「アマゾン プライム ナウ」を開始し、「アマゾン」のステッカーを貼った自前の車両を使って商品を届けています。東京23区を中心に、神奈川、千葉、大阪、兵庫の都市部からサービスを拡大しており、こうしたスピード配送の車両を使ったり、デリバリープロバイダという軽車両の配送会社による宅配を行ったりして、当日配送などの自前化もすでに始まっています。

 アマゾンは、こうした動きを今後、さらに加速させるでしょう。ヤマト、日本郵便に加えて、自前配送が都市部では当たり前になってくるのではないでしょうか。

横浜市にあるヤマトの支店が昨年、労働基準法違反で是正勧告の対象となったり、昨年末には佐川急便の配達員が荷物を投げたりと、人手不足による宅配業界の過酷な労働実態が明らかになってきています。

角井:宅配の物量拡大はネット通販によるところが大きく、最大手であるアマゾンに対する世間の風当たりも強まっています。こうした状況も、アマゾンによる配送の自前化を後押しするはずです。

「プライム ナウ」で先行して自前配送網を構築

自前配送を増やしていくと、アマゾン自身がヤマトや日本郵便と一部、競合することになりませんか。

角井:部分的はそうでしょうが、アマゾンは既存の物流会社と本気で競合しようとは思わないでしょう。既に米国では、日本よりも先行して自前配送を拡大してきていますが、UPSやフェデックスと顧客を取り合うような競合になるようなことはしていません。

 アマゾンにとっては、物量の拡大に既存物流会社がギブアップした部分を、仕方なく自前配送で補っていると考えるべきでしょう。もちろん、1時間配送のプライム ナウや米国で始まっている生鮮食品を届ける「アマゾン フレッシュ」などは、既存の物流会社は対応できないので最初から自前です。しかし、当日・翌日配送における自前化は、米国でもUPSやフェデックスや地域宅配会社が、もうこれ以上運べないというレベルに達していたので、自前化を推進したというのが実態だと思います。

 米国では、2013年のクリスマスに発生した各社の遅配が、アマゾンが自前化を加速化する一つのきっかけとなりました。日本で2015年にプライムナウが始まったのも、今から振り返れば、いずれ日本も米国と同じような状況に直面すると予想し、自前配送のネットワークを構築し始めようと考えた、アマゾンの用意周到な戦略なのではないでしょうか。

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