「鋼鉄ジーグ」は75年から翌年に掛けて放送されたテレビアニメである。日本の古代史をモチーフに、主人公の司馬宙(しば・ひろし)は、合体ロボットとなって復活した独裁者、女王ヒミカの一味と戦う。

 宙のサイボーグとしての宿命や、敵側にも悲劇的ないきさつがあって、子ども向けのアニメとしてはダークサイドに振れた内容だった。永井豪氏の原作には珍しく、主人公は社会人で所帯持ちでもあった。

 イタリア人にはそんな設定が受けたようだ。日本から4年遅れで放送されると、主題歌がそのままルノーのイタリア向けCMに使われたり、人気ロック歌手のピエロ・ペルーにカバーされたりした。

 短編映画の腕前でヨーロッパの映画各賞で注目されてきたガブリエーレ・マイネッティ監督も幼少期にジーグ・ブームの洗礼を受けた1人で、長編映画のデビュー作に選んだのが「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」(5月20日公開)というわけだ。

 体格はいいが、不器用な男エンツォはさびれた裏町で生まれ、犯罪組織の下請けのような仕事で糊口(ここう)をしのいでいる。ところがある日、警察に追われるうちに転落した汚染水の影響で超人的な体力を身につけてしまう。

 世話になっていた兄貴分が亡くなった後、残された娘アレッシアが「鋼鉄ジーグ」の熱烈なファンで、人間離れした力を身につけたエンツォを「宙(ひろし)」と慕う。最初はその能力を目先の金もうけに使っていたエンツォだが、アレッシアにあおられるように「正義の味方」として目覚めていく。

 舞台は現代とも近未来ともとれるローマ。テロと暴力がはびこってすさんでいる。フランス映画に出てくるパリはたいていキレイだが、昔からイタリア映画には清濁あわせてそれもローマだ、という開き直りのようなものがあって、それがまたいい。表面の荒れたコンクリやがれきにも味があるように見えてくる。

 セピアの背景に主人公の衣装は黒ずくめだが、女性陣の衣装や乗り物、家具、小物のパステルカラーが差し色になっている。

 エンツォは武骨な男だが、宙のサイボーグとしての宿命が重なって見え、カラフルなアニメのイメージがこちらもキャラクターの差し色になって背景と微妙にリンクする。

 主演クラウディオ・サンタマリアの悲しい目、アレッシア役イレニア・パストレッリ空虚な表情、悪役ルカ・マリネッリの軽薄な残酷さ…。まるでアニメキャラに命を吹き込んだような好演で、永井豪氏の原作への思いが透けて見える。

 昨年の「ちはやふる」に続き、前編が公開中の「3月のライオン」もコミックを原作にした上質な作品だ。連載期間に耐えうるだけのキャラクターの厚みがコミック原作ものの強みだと思う。合体アニメの旧作にも、そんな力があったことをこの作品は実感させてくれる。【相原斎】