意外に少ない?派遣社員の「正社員願望」と「賃金への不満」

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■10人中4人は「非正規社員」に

安倍晋三首相は「働き方改革」に本腰を入れて取り組み始めている。最新の総務省労働力調査12月分によると、非正規の職員・従業員数は2064万人で、前年同月比26万人の増加。13カ月連続の増加となっている。その職員・従業員に占める割合は37.9%にまで増加しており、間もなく10人に4人は非正規となる。

確かに、筆者のまわりにも多くの非正規労働者がいる。筆者自身は、学生時代のアルバイトを除けば非正規で働いたことがないため、現在の非正規労働者がどのような状況にあり、どのような考えを持っているのかがわからない。

そこで、非正規労働者の一パターンである「派遣社員」について、一般社団法人日本人材派遣協会が実施した「派遣社員WEBアンケート調査 2016年度」からその一端を見てみたい。

このアンケートは、現在、派遣社員として働いている3971人の回答結果(2016年9月15日〜11月14日)。男女の比率は、91.8%が女性で、年齢層は40〜44歳が21.2%で最も多く、次いで35〜39歳の17.5%となっている。

最終学歴は大学・大学院の34.3%が最も多く、次いで中学・高校26.0%、短大・高専23.0%となっている。既婚・未婚では、未婚者が56.4%、既婚者が43.6%という割合。このうち、子育てをしている人は31.4%となっている。

では、派遣社員はどんな企業で、どれぐらいの期間働いているのだろうか。

派遣先エリアで最も多いのは「関東」の56.5%、次いで近畿の16.1%となっている。これで見る限り、世の派遣社員の半数以上は関東で働いていることになる。人材の流動化が言われて久しいが、首都東京を中心とした関東以外の地区では、仕事に就く場合には、基本的に正規雇用が中心のようだ。半面、それだけ労働力が東京を中心とした首都圏に集中しているとも言えそうだ。

派遣先の会社規模で最も多いのは従業員数1000人以上の大規模企業で40.2%となっている。同100〜999人の中規模企業では36.5%、同99人以下の小規模企業では16.5%、わからないが6.8%となっている。ただし、前年の比率が大規模46.2%、中規模32.8%、小規模14.9%だったことから勘案するに、明らかに中・小規模企業へのシフトが起こっているのが分かる。

そして、この傾向は大規模企業に比べ、優秀な人材の確保が難しい中・小規模企業が派遣社員を使っている可能性が高いことを示している。

■「5年以上」派遣でも昇給は半数以下

労働契約は期間が決まっている「有期労働契約」が85.0%、期間に定めのない「無期労働契約」が9.5%となっており、具体的な契約期間では、3カ月が68.5%、3カ月未満が11.4%、12カ月以上が5.8%。現在の派遣先で働いている期間が3年未満の人は84.8%となっており、前年の77.4%から大幅アップしている。

これは、労働者派遣法で、派遣社員の上限が3年となっており、3年を経過すると契約社員や正社員として企業が直接雇用をするか、契約を終了する必要があるため。その際に雇用問題に発展しないように、雇用期間を短期化する傾向が強まっている。

派遣社員の契約勤務時間は、1日8時間が29.1%と最も多く、7.5時間から8時間までで66.2%を占める。1週間当たりの勤務日数も5日が90.2%となっている。一方、残業については、1週間あたり「残業なし」が55.7%と最も多いが、一方では「20時間以上」も5.1%存在している。

さて、派遣社員の給与水準だが、98.3%の派遣社員は「時給制」となっている。その水準は図(左)の通り。

例えば、1750円で1日8時間、月間20日間働いた場合、給与の額面は28万円となる。

では、派遣社員の昇給はどうなのか。過去3年間の派遣就業中に昇給した割合は34.8%。これを期間別で見ると図(右)のようになっている。

派遣社員としての経歴が積み重なれば、昇給する可能性は高まるようだが、それでも5年以上派遣社員をしていても昇給するのは半数以下が実態のようだ。こうした状況に対して、意外にも賃金面で「不満」、「やや不満」と答えた人は45.6%で、雇用の安定性面で「不満」、「やや不満」と答えた人の52.8%を下回っている。

労働者派遣法での派遣社員の上限である3年を境に、働き方の若干の変化が見られる。3年以内を考えたときに希望する働き方では、「今の派遣先の派遣社員として働く」が29.0%にのぼり、「今の派遣先の正社員として働く」の13.1%、「今の派遣先以外の正社員として働く」の15.6%を上回っている。

しかし、4年目以降に希望する働き方では、「今の派遣先以外の正社員として働く」が21.8%、「今の派遣先の正社員として働く」が15.4%で、「派遣社員として働く」の12.9%を上回っている。それでも、意外にも正社員として働きたいという希望は少ないように思える。

どうやら、給与に対する不満や、正社員への希望という点を見るだけでも、あえて派遣社員という働き方を選択するのには、それ相応の理由があるようだ。

(ジャーナリスト 鷲尾香一=文)