「時は金なり!」とは言い古された諺であるが、業務に効率性を求められる現代社会では、「永遠のテーマ」ともいえる課題でもある。

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 それと同じ教訓が、実は江戸時代初期に編纂された武田氏についての軍書『甲陽軍鑑』の中にも書かれているのをご存じだろうか。「主君の使いなのに私用で道草して遅れてしまい、長い間、主君を待たせて遅れた返事を持って帰る」というシチュエーションを想定した上で、それは「足の盗み」だと非難しているのだ。

 「足の盗み」、つまり、業務時間内に私用で遅れることは、主君(上司)の時間を盗んだのと同罪だということだ。封建時代において、家来が主君のモノを盗むということは、まさしく死罪にあたる重罪であるが、これも現代ビジネス社会にも通じる話だろう。

 例えば、あなたが上司から仕事を命じられて、その期限までにやり遂げることが出来なかったとしよう。その結果、上司までも当初に予定したスケジュールで仕事を完成させることが出来なくなれば、そんな仕事をするあなたへの上司の評価が上がることはまず、在り得ない。そのほか、会議の席上で、ダラダラの無為な時間を過ごすことも、「足の盗む」こと、つまり「時間泥棒」に他ならない。

 労働時間には、時間給というコストが伴っている以上、非効率的な仕事を行なうということは、まさしく、時間に対する「業務上横領罪」を問われても仕方がないといえよう。

 このように、『甲陽軍鑑』の中には、昔も、今も、変らぬ奉公人=ビジネスマンとして守るべき勤めが、非常に細かく指摘されているのである。そのことは、武田家も、今の会社組織も、同じ悩みを抱えているということであり、そうした組織の中で守るべきマナーやルールは、昔も今もほとんど同じであるということだ。