“太鼓持ち”は上司に信頼され、出世するのか

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課長はマネジメント職の登竜門。あと一歩抜きん出て、部長、さらには役員を目指したいと思う人も多いはずだ。経営幹部を目指すうえで求められるものは「人間力」だろう。仕事で高い成果を出しながら、周囲の人に認められ、好かれる能力といってもいい。

人間力なんて一朝一夕には身につかないと思うかもしれない。だが、実はそうでもない。ちょっとした日々の心がけ次第で、仕事を通して十分に鍛えることができる。その方法について3人の識者に尋ねてみた。

同期トップで東レの取締役に就任、東レ経営研究所社長などを歴任した佐々木常夫氏からは、物事を大局的な視点で見ることの大切さが伝わってくる。

リクルートを経て起業し、現在は組織人事コンサルタントとして活躍中の小倉広氏からは、自分の損得ではなく、常に組織の全体最適を優先する姿勢を学びたい。

マイクロソフト日本法人で営業部長を務めた田島弓子氏は、一見おとなしいマネジメント法を勧める。部下の話をよく聞き、チームの状況をじっくり観察して、部下が力を発揮できるようにすることで、社長賞を獲得するなど成果を挙げてきた。

ここでは、三者三様の行動の秘訣や人間力の身につけ方、経験談を紹介していく。先達たちのアドバイスに耳を傾け、出世の階段を上っていってほしい。

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Q. 目上の人から信頼され、引き立てられるにはどうするか

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目上の人から信頼され、引き立てられるために、小倉氏が開口一番アドバイスしてくれたのは、「堂々と太鼓持ちをすること」。上司をきちんと立て、機嫌よくなるように振る舞うことだ。なかには、「自分の上役は持ち上げたくなるような器じゃない、実力では俺のほうが上だ」と思う人もいるかもしれない。だが小倉氏は、国民教育の父と呼ばれた昭和の哲学者・森信三氏の言葉を引いて、こう指摘する。たとえ「上司が自分より人間的に劣るからといって軽蔑するのは、社会に対する反逆である」。

上司の人間性が優れているか否かは関係ない。上司という人物ではなく、その地位を敬うと考えるべきなのだ。実際、すべての上司が有能で優れた人物とは限らない。学歴や年齢、タイミング次第で、実力以上のポジションについてしまうケースもある。

だが、頼りないからといって上司をバカにするような態度を取っていると、会社組織の秩序を守れない者だと見なされる。そんな人間に組織を委ねることができないのは明らかだ。世の中の秩序やルールを守れない者は、到底役員レベルに出世などできない。

もちろん、むやみに媚びへつらって寵愛を得よ、という意味ではない。単なるおべんちゃらや、歯が浮くような台詞でゴマをすっても上司に見透かされるだけだ。小倉氏いわく「上司とてバカではない。太鼓持ちをされて気分がいいから部下を評価するのではなく、他人を立てられる利他的な人間かどうかを見ているのだ」。

上司と良好なコミュニケーションを取れる人間は、その様子を見ている周りの人間からも評価されるもの。田島氏はマイクロソフト時代、上に引き立てられる人間は「常に自分は見られていることを適切に意識できている人間」だったという。「実力を発揮して出世していく人は、みんな機嫌よく仕事をする人。いわばいいオーラを出している」。機嫌よく仕事に打ち込める部下なら、上司も引き立てたくなるのは当然だ。いいオーラは「この人のためならひと肌脱ごう」と周りからの信望も集めるため、自ずとリーダー的なポジションに引き上げられる。

■「報連相」を侮る者は、上から信頼されない

上役を立てるという意味では、上司への報告、連絡、相談を欠かさないことも最重要。上に立つ人間にとっては、大事なことを聞かされていないことが何よりもストレスになるからだ。いわゆる「報連相」である。佐々木氏はまだ課長だった頃から、上司のスケジュールをすべてチェックし、2週間に1度、最も余裕のある時間帯に30分のアポイントを入れていた。

そこで気をつけていたポイントが3つある。まず、事前に要件を書いて渡しておくこと。上司と対面しているときは、結論を先に述べて簡潔を旨とし、忘れずに自分の意見も添えることだ。

人間というのは何にしても予告があると落ち着くものだ。だから先に要件を伝えておく。また、「話が長いヤツ」と思われると時間を取ってもらえなくなるリスクがあるため、何より手短に済ませることを心がける。

上司のお伺いを立てる際にも、自分の意見を先に述べることが肝要。「A案とB案があり、私はこういう理由でA案がいいと思うのですが」などと選択肢とセットで伝えられるとベストだ。大抵の場合、上司は「それでいけ」となる。

部下が真剣に考えたことがわかれば、よほど問題を感じない限りは任せてみようと思うものだ。こうして早い段階で上司の「お墨付き」をもらっておくことで、他部署との折衝やクライアントとの商談に際しても、「私の上司もそう言っています」と自信を持って言える。おかげで佐々木氏自身、俄然仕事がやりやすくなったという。

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解答:戦略的な“太鼓持ち”が評価される

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佐々木常夫
佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表
1969年、東大経済学部卒業、同年東レ入社。自閉症の長男と肝臓病とうつ病を患う妻の看病をしながら仕事に全力で取り組む。2001年取締役。03年東レ経営研究所社長。10年より現職。
 
小倉 広
小倉広事務所代表取締役
組織人事コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラー。大学卒業後、リクルート入社。ソースネクスト常務などを経て現職。一般社団法人「人間塾」主宰。「人生学」の探求、普及活動を行う。
 
田島弓子
ブラマンテ代表取締役
IT業界専門の展示会主催会社でマーケティングマネジャーを務めた後、1999年マイクロソフト日本法人に転職。営業、マーケティングに従事し、営業部長を務める。2007年ブラマンテ設立。
 

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(小島和子=文 大沢尚芳=撮影)