厚生労働省が2月下旬、平成28年の「賃金構造基本統計調査」を発表しました。この中に129の専門職種ごとの給与状況を、「毎月の給与」と「賞与(ボーナス等)」に分けてまとめたものがあり、これを見ると各職種のおおよその平均年収がわかります。

 さまざまな職種の方とお会いする、筆者のようなファイナンシャルプランナー(FP)にはとても参考になる資料ですが、さらに、現在と過去それぞれのデータを比較することで、今の日本の状況が見えてくる、という利点もあります。

 そこで今回は、平成28年版と、今から10年前の平成18年版を比較し、各職種の「今と昔」を考察してみたいと思います。

不動の1位は「航空機操縦士」

 まずは、平成28年と平成18年の職種別の平均年収ランキングです。

【平成28年】

1位=航空機操縦士(2047万円)
2位=医師(1240万円)
3位=大学教授(1069万円)
4位=公認会計士・税理士(864万円)
5位=歯科医師(857万円)
6位=大学准教授(848万円)
7位=記者(784万円)
8位=弁護士(759万円)
9位=不動産鑑定士(692万円)
10位=掘削・発破工(684万円)

【平成18年】

1位=航空機操縦士(1295万円)
2位=大学教授(1133万円)
3位=医師(1101万円)
4位=大学助教授(882万円)
5位=公認会計士・税理士(817万円)
6位=記者(816万円)
7位=弁護士(772万円)
8位=大学講師(733万円)
9位=高等学校教員(723万円)
10位=不動産鑑定士(716万円)

 現在も10年前も1位は航空機操縦士。いわゆる「パイロット」です。パイロットの平均年収は10年前から750万円も上昇していますが、これは、グローバル化や格安航空会社(LCC)の台頭によって飛行本数が増加しているにもかかわらず、数が足りないパイロットをめぐって航空会社による“争奪戦”が発生し、給与が高止まりしているためです。

 2位の医師、3位の大学教授は今と昔で順位が逆転していますが、共に「高収入」のイメージがある職種です。

 なお平成18年は2位=大学教授、4位=大学助教授、8位=大学講師、9位=高等学校教員と「教育系」が4つを占めています。しかし、平成28年は、大学教授が順位こそ3位をキープしていますが、実際の年収は1133万円から1069万円へと約70万円ダウン。パイロットほどではありませんが、2位の医師も1101万円から1240万円へと約140万円アップしてることを考えても、大学教授の給与低下は顕著です。

 同じ現象が、大学准教授(大学助教授)の882万円(平成18年、4位)→848万円(平成28年、6位)、大学講師の733万円(8位)→683万円(11位)、高等学校教員の723万円(10位)→661万円(12位)でも見られ、教育系の給与が総じて減少していることが見て取れます。近年、少子化の影響で教育機関の経営の厳しさを指摘する声は多いのですが、その実情が如実に表れています。

人材不足背景に厚遇される「職人系」

 その他の顔ぶれとしては、公認会計士・税理士、弁護士、不動産鑑定士などの「国家資格」が並び、多少の順位の入れ替えはありますが、これらは10年前と変わらず、今も「稼げる職種」と言えるでしょう。

 個人的に意外だったのは、今も昔も「記者」がランキング中盤に位置していることです。10年前より給与が下がっている(816万円→784万円)とはいえ、マスコミ業界の給与水準の高さがうかがえます。

 また10年前に549万円で19位だった歯科医師が、857万円で5位に入り、この10年で平均年収が300万円も増加していることに驚きます。一般に歯科医師は、「数が多すぎるために競争が厳しい」と考えられていますが実態は異なり、医師と合わせて「医療系」の躍進が明白な結果となりました。

 そして何より目を引くのは10位の掘削・発破工です。10年前は458万円で45位でしたが、平成28年は684万円と、平均年収が200万円以上も上がっています。記事を書くにあたって知人の建設関係者に話を聞いたところ、メジャーな職種ではないものの、専門的な知識・経験と「発破技士」という国家資格が必要で、大型重機の操作も求められることから、高い給与での求人が続いているそうです。

 なお、このデータにはほかにも「金属プレス工」「板金工」など「◯◯工」の付く職種が50近くあります。これら「職人系」の多くは10年前と給与水準が変わらないのですが、前述の掘削・発破工以外にも自動車組立工が490万円→568万円など、大幅に給与が上昇しているものもあり、長引く人手不足を背景に、専門的な知識や技術を持った人が厚遇されている現状が浮かび上がります。

AIによって専門職種の働き方が変化?

 10年前と比べて、グローバル化の影響で給与が高騰しているパイロット、日本の高齢化の進行度を反映した医療系、人手不足や職人不足が影響していると思われる一部の職人系、反対に、教育系の給与は軒並み下がっており、資源に乏しいわが国の生命線である教育分野の人材に対する投資が弱まっていることがわかります。

 さらに今から10年後――。このランキングはどう変わっているでしょうか。キーワードの一つは「AI(人工知能)の進化」です。AIの発展・普及によって、公認会計士や税理士、さらに弁護士は、その働き方を大きく変えるでしょう。また自動運転技術の進化により、航空機の遠隔操作や無人化も遠い未来の話ではなくなるかもしれません。これらの技術革新と無縁でいられる職種は少ないはずです。

 10年後。AIに勝てる“専門職種”がどれほど残っているのか。そう思うと恐ろしい時代ですね。

(株式会社あおばコンサルティング代表取締役 加藤圭祐)