「東京」が“パラサイトと未婚者”を量産する

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■東京の若年世帯は収入の半分が家賃に食われる

私事ですが、東京都多摩市から神奈川県横須賀市に引っ越しました。宮崎駿監督の『魔女の宅急便』のテーマではないですが、「海の見える街」に住みたいと思ったからです。

その結果、うれしいことに家賃が安くなりました。私のような文筆業の場合、どこに住んでも収入は一緒。それで家賃という基礎経費が浮くとなると、生活はかなり楽になります。部屋も広くなり、言うことなしです。うーん、移住っていいなあ。

生活にどれほど余裕があるかは、収入と支出のバランスで見て取れます。支出の代表格は住居費。借家世帯でいうと家賃です。生活のゆとりの程度を測る指標として、借家世帯の「家賃/年収」比というのはどうでしょう。

生活のゆとり指標として地域別の平均年収がしばしば注目されますが、地域によって生活費の相場が違いますので、収入の多寡を見るだけでは不十分です。そこで生活の基礎経費の指標として、家賃も考慮しようというわけです。

私は47都道府県について、借家世帯の「家賃/年収」比率を計算してみました。

用いた資料は、総務省『住宅土地統計』(2013年)です。この資料から、借家世帯の平均世帯年収と平均家賃月額を知ることができます。世帯主の年齢層別の分析も可能です。

東京を例にすると、世帯主が25〜34歳の借家世帯の平均世帯年収は435.14万円(a)、平均家賃月額は7.98万円(b)です。よって「家賃(12カ月分)/年収」比率は、12b/a=22.0%となります。およそ5分の1です。

これは東京の25〜34歳の数値ですが、値は地域によって違います。年齢による差もあります。表1は、東京と私の郷里の鹿児島について、年齢層別の「家賃/年収」比率を出したものです。

どの年齢層でも、鹿児島より東京が高くなっています。年収・家賃とも「東京>鹿児島」ですが、家賃の地域差が大きいので、こういう結果になります。東京は、家賃高いですものね。私の年齢層(35〜44歳)では8.71万円で、鹿児島の倍以上です。

この結果からつくづく思うのは、東京の若年世帯(25歳未満)はキツイということです。平均世帯年収162.12万円、平均月家賃6.14万円で家賃が年収に占める比率は44.9%、年収の半分近くを家賃で持っていかれています。学生の単身世帯が多いためでしょうが、勤労者世帯でいうと、家賃を払うために働いているようなものです。

この指標は、収入が多い働き盛りの層では低くなり、収入が目減りする高齢層になると反転して上昇します。

■バカ高家賃がパラサイトを生み、未婚率を上げるのか

今見たのは東京と鹿児島の例ですが、他の県はどうでしょう。同じやり方で計算した、県別・年齢層別の「家賃/年収」比率の一覧表をご覧いただきましょう。黄色マークは全県の最高値、青色マークは最低値です。上位5位の数値は赤字にしました。

マックスはどの年齢層も東京かと思いきや、25歳未満だけは京都が最も高くなっています。実に52.9%で半分を超えます。

京都は大学がたくさんあり、学生の単身世帯が多いためでしょう。しかしこの事実は、日本の下宿学生の生活がかなり苦しいことの証左です。収入(仕送り、奨学金、バイト代など)の半分以上が家賃に食われる。こういう社会が、他にあるでしょうか。

上位5位(赤字)の分布を見ると、借家世帯の「家賃/年収」比は、やはり都市部(東京、神奈川、大阪、京都など)で高いようです。地方で低いのは、収入は少ないけれど、家賃がそれを補って余りあるほど安いということ。家賃の他に、自動車の維持費などの経費もかかるでしょうが、生活のゆとりという点では地方に軍配が上がる気がします。

言わずもがな、住居の面積も広い。データは示しませんが、東京の富裕層よりも鹿児島の貧困層のほうが広い家に住んでいます。

しかしまあ、若年の借家世帯の「家賃/年収」比がメチャ高であることに驚きを禁じ得ません。都市部ではほぼ半分。収入が少ないためですが、これでは実家を出ることができずに親にパラサイトせざるを得ないだろうな、と思います。その結果、未婚化が進行すると山田昌弘さんは『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書、1999年)で書いています。

状況は、過去に比して悪化しているのではないでしょうか。90年代以降の不況により、若者の収入は下がる一方で、家賃が下がっているという話はほとんど聞きませんから。国際比較でみても、若年世帯が住居費負担にこれほど苦しんでいる社会は、おそらく日本だけでしょう。藤田孝典さんが『貧困世代』(講談社新書、2016年)で書いているように、日本の住宅支援政策(公営住宅整備、家賃補助など)が貧弱であることはよく知られています。

こういう要因により、若者の自立(離家)が阻まれ未婚化が進行してしまう。消費も低迷し、社会の維持・存続が脅かされる事態にもなっています。「住」は生活の基盤ですが、この面の支援を、若年層に重点を置いて行うべきでしょう。

■首都圏214市区町村の「家賃/年収」比マップ

最後に、都道府県単位からさらに細かく市区町村レベルのデータも見ておきましょう。首都圏(1都3県)の214市区町村について、同じやり方で借家世帯の「家賃/年収」比を計算し、マップにしてみました。市区町村レベルでは年齢層別のデータは出せませんので、借家世帯全体のデータであることに留意してください。

東京の都心の色が濃くなっています。都心は家賃が高いですから。都内港区の平均家賃月額は15.72万円、スゴイですねえ。私が引っ越した横須賀市(5.25万円)の3倍です。

港区は富裕層が多いので、借家世帯全体でみた「家賃/年収」比は26.4%にとどまっていますが、若年世帯に限ったら凄まじい値になると思います。ちなみに、首都圏214市区町村でみて「家賃/年収」比が最も低いのは、埼玉県吉身町で12.0%となっています。

これは首都圏のマップですが、全国に視界を広げれば値がもっと低い地域もあるでしょう。10%、いや5%にも満たない町村もあったりして……。政府が推奨している「地方創生」を促すに際しては、こういうデータも積極的に公開するのがよいでしょう。美辞麗句を並べた白々しいPRよりも、ずっと価値があるのは間違いありません。

(武蔵野大学、杏林大学兼任講師 舞田敏彦=文・図版)