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Ghost is Here or Not.「攻殻機動隊」をめぐる
5つの考察

05/HOLLYWOOD

BEING ORIGINALオリジナルであれ

ルパート・サンダース
(実写版ゴーストインシェル監督)
2017.4.7 映画公開まで毎日更新
©MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.

スティーヴン・スピルバーグ監督率いるドリームワークスが、
「攻殻機動隊」の実写化権を獲得したのが2008年。
そこから8年という年月をかけて、制作スタッフとキャストが検討された。
白羽の矢が立ったのが英国人監督、ルパート・サンダース。
彼に、原作漫画やアニメ映画への想い、
そしてサンダースが作品をつくるにあたって
意識したというオリジナルであることへのこだわりを訊いた。

  • TEXT BY WIRED.jp_A

攻殻機動隊」との出合いを教えてください。

アートスクール時代にテレビアニメ版「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」に出合ったんだ。初めて観たときは衝撃を受けたよ。主人公は裸に見えるし、腕を引きちぎられながら戦ってるし、いたるところで血しぶきがあがっていたり、爆発が起きたりしている。攻殻機動隊」以下、攻殻)は、ぼくが初めてみた大人向けのアニメーションだったんだ。ヨーロッパにあったのはディズニーのファミリー向けアニメーションばかりで、日本のアニメのようなハードコアな作品というのはなかったからね。

攻殻」は独特な世界観をもっていて、日本のSFの代表作として海外でも知られている作品です。実写化するにあたり、情報量の多い原作漫画やアニメ版から何を取り入れ、何を足すかはどう判断したのでしょう? グラフィックノヴェルまでつくられたとか。

ルパート・サンダース|RUPERT SANDERS

1971年生まれ、イギリス出身。ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインでグラフィックデザインを学ぶ。米国でトニー・ケイ監督のCM制作に参加後英国に戻り、ソニー「ウォークマン」のCMでデビュー。その後米国で、アディダスやナイキ、Xbox 360、トヨタなど数々のCMを手がける。2012年に『スノーホワイト』で劇場映画監督デビューを果たした。

好きなものを取り入れればいい。
好きなことをすればいい。
でもオリジナルな作品をつくれ」

もとの作品が偉大すぎると、それを実写化するときに何を取り入れるかを考えるのはすごく難しいんだ。オリジナルをそのまま実写にしてもうまくいくはずがないし、アニメーションであるからこそうまくいく表現というのもある。押井守監督からは「好きなものを取り入れればいい。好きなことをすればいい。でもオリジナルな作品をつくれ」と言われたよ。原作のテーマや作品の魂は残しつつも、より多くの人々に向けた作品であることは、この作品の特徴だね。

今回の映画をつくるうえでは、まず押井版の映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』と『イノセンス』から、自分がいちファンとして観たいシーンを組み合わせて実写映画の骨格をつくったんだ。芸者ロボットや、ビルから飛び降りる少佐、光学迷彩を使いながらの水上での戦闘といったシーンがなかったら、攻殻」の映画として満足できないだろうなと。もちろん、人によって好きな場面は違うだろうけれどね。

©MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.

士郎正宗による原作漫画の連載が1989年。それを2017年にもってくるにあたり、どのように世界観を構築していったのでしょうか。

士郎正宗さんは数十年前の時点で、すでにあらゆるものがつながったネットワークやテレパシーによるコミュニケーションといった奇抜で先進的なアイデアをもっていたんだ。

ビルから飛び降りる少佐、
光学迷彩の水上戦闘シーン…
自分がいちファンとして
観たいシーンを組み合わせて
骨格をつくったんだ。

今回の実写映画では、これから先の未来の世界を予測することはせずに、あえてそういった「攻殻」の世界をできるだけ忠実に再現することにした。たとえば、途中ででてくるソーラーパネルなんかは、いま見るとちょっと古臭くも見えるんだけれど、そういうところもあえて取り入れることにしたよ。

作品をつくるにあたり、どのような作品から影響を受けていますか?

この作品に限らず、自分の人生で見聞きしてきたあらゆることから無意識のうちに影響を受けていると思う。映画でいうと王道だけど『ブレードランナー』や『2001年宇宙の旅』はもちろん、アンドレイ・タルコフスキーの『ストーカー』や『惑星ソラリス、ニコラス・ローグの『赤い影』などだね。

©MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.

原作漫画やアニメーションなど、オリジナルの「攻殻」の世界観を大切にしていらっしゃいますが、今回の実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』での“オリジナル”は、どのようなところでしょう?

より多くの人々に向けた作品であることはこの実写版の特徴だと思う。原作を観たり読んだりしたことのない人も物語に入っていけて、作品のテーマが伝わるようにしたかったんだ。また、この手の映画にありがちな、CGによるド派手な演出や血しぶきのあがる暴力的な戦闘シーンといったものは控えめにして、よりキャラクター同士の関係や一人ひとりの感情に焦点を当てた。

もうひとつ、イギリス人監督である自分が、世界各国のキャストやクルーたちと一緒に、日本のアニメーションの実写化に挑む、というのも異例なことだと思うね。

©MMXVI Paramount Pictures and Storyteller Distribution Co. All rights Reserved.

実際に映画を観てみると、街頭にさまざまな言語の広告が並んでいたり、街でのシーンでは英語や日本語以外にも複数の言語が聞こえてきたりと、視覚的にも聴覚的にも、舞台が国際都市であることがよく伝わってきます。

街のシーンには、シリア人やアフリカ人、中国人、アメリカ人、デンマーク人、フランス人など、さまざまな国のキャストたちに入ってもらったんだ。アジア的でありながらも、なるべくマルチカルチャーな世界にしたくてね。コンセプトは、西洋やアラブから影響を受けたアジア圏の国だ。人種のるつぼである香港は、とてもいいモデルになった。

最近、特にヨーロッパにみられるナショナリズムや難民問題、移民といったことからも影響を受けているんだ。映画を製作しているとき、自分の周りで起きていたことだったからね。今回の実写版で描かれる少佐の過去のアイデアにもなっているんだ。

ゴーストとは何か。
アイデンティティとは何か。
それをいちばん極端に
表現する方法は、
少佐を“まったく”違う存在に
つくり替えることだった

映画終盤では少佐の過去が明らかになりますよね。原作やテレビアニメ版、映画版など、これまでの「攻殻」を知っている人からすると、衝撃的な内容だったのですが、なぜあのような設定にされたのでしょうか?

少佐は、ひとりの人間のアイデンティティを丸ごとそっくり違う体に移し替えた存在だよね。そこで出てくるのが、ゴーストとは何か、アイデンティティとは何かという疑問だ。それをいちばん極端に、そしてアグレッシヴに表現する方法は、少佐をもととは“まったく”違う存在につくり替えることだと考えたんだ。この映画は、アイデンティティとは何かを探求する映画でもあるんだよ。