コレだけは削れない「家計の聖域」は案外削れる

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■家計費項目「コレだけは削れない」は案外削れる

家計の「聖域」と言えば、「子どもの教育費」がすぐに思い浮かぶ。そのほかにも、

・有機野菜
・健康食品
・サプリメント
・高機能化粧品(美容グッズ)
・クルマ
・フィギュア
・高級家具
・ブランド品

などなど、誰しも「コレだけは削れない!」といった家計の聖域というべき支出がある。

また男性・女性には、それぞれ特有のお金の使い方があり、たとえば、男性であれば、「趣味」、「付き合い(飲み代)」など。女性であれば、「被服費」「美容費」「おけいこ事」などへお金をかける傾向が強い。

「どうせお金をかける価値をわかってもらえないから」と、配偶者やパートナーなど、お互い内緒にしている支出も少なからずあるだろう。

それに、最近の家計簿を拝見していると、「え、コレにこんなに使う?」という支出も少なくない。

600万人が利用するオンライン家計簿「Zaim」を運営する Zaimが発表した「2016年の支出額」伸び率ランキングによると、3年前と比較して伸び率が最も大きかったのは、

1位「ゲーム」
2位「映画・動画」
3位「男性コスメ」

となっている。

これは、Zaimで入力された支出項目ごとに、過去3年間の「1人当たりの平均支出額」を分析した結果だが、1位となった「ゲーム」の1人当たりの平均支出額(2016年)は、3年前と比較して2割アップの 8099円。次点の「映画・動画」と同じく、20代以下の若年層の伸び率が高いという。

2016年にヒットしたゲームといえば、同年7月に配信が開始した「ポケモンGO」だろう。筆者はゲームには一切興味がないので、駅前や公園などで多くの人がウロウロしているのを見て、一体何のイベントがあるのかと驚いたものだ。

男性が美容やコスメ、エステ、ネイルなどにお金をかけるというのもここ10年くらいかもしれない。なかには、女性以上にお金や気を遣うという男性もいると聞く。

ただし、これらは単に、お金の使い道が変わってきたためとも言える。

■「こだわり支出」が原因で、離婚する夫婦は多い

たとえば、総務省の「家計調査(2人以上の世帯)」によると、「読書」への年間支出金額は減少にあり、とくに「39歳以下」の減少幅が最も大きく、10年間で約4割減少している(4万7181円:2004年)→2万7320円:2014年)。

娯楽やエンターテイメントなどの種類の広がりや、価値観の多様化などによって、お金をかける対象が人それぞれ異なるようになってきたのだろう。お金の使い方というのは、本人が思っている以上にその人の価値観や考え方、嗜好が強く表れるものなのだ。

もちろん、「こだわり支出」が収入に対して許容範囲内であれば問題ない。

しかしながら往々にして、それらが家計を悪化させる要因であることも多く、既婚者の場合、金銭感覚や価値観の違いから離婚へと発展するケースもある。

家計を改善させるためには、家計に「聖域」を作らないことが鉄則だ。何かひとつ「聖域」を作ってしまうと、なし崩し的に他の支出項目に対する目も甘くなってしまいがちになるからだ。いずれの支出もフラットな視点で、本当に必要な支出と金額なのかを再考することが重要なのである。

とはいえ、家計を管理している側が、「これだけは譲れない!」と主張する相手(夫・妻)にやみくもに「もう、そんなことにお金を使うな!」と言っても、成功する確率は低い。

表面上、やめたと見せかけて、へそくりするくらいなら可愛いものだが、ガマンできず、消費者金融や友人・知人からお金を借りるようになれば、金利や返済が雪だるま式に膨らむかもしれない。

やはり、消費する者に「もうほどほどにしなければ」と自覚してもらうのが肝心だ。そのためには、まず家計を「見える化」して、現状を把握しよう。表1は、世帯別の手取り月収に対する理想の家計バランスである。

自分の家族構成に近いものを選び、手取り月収にパーセントをかけると、各費目の適正出費がわかる。この表にない費目は「その他」とするか、それぞれの趣味の範囲なら「小遣い」に含めるなどしてみよう。

それぞれの支出項目の割合が突出して多いのであれば、改善の余地大である。毎月ほぼ定額で出ていく「住居費」「教育費」「保険料」といった固定支出は膨らみがちで、見直し効果が最も高い支出といえる。

また、「水道光熱費」や「通信費(スマホ代・プロバイダ料金含む)」などは、毎月金額が変わる変動支出だが、格安料金プランなどが豊富で、工夫や使い方次第では、見直しの幅も大きい。

先日ご相談を受けたご家庭では、高校生のお子さんのスマホ代が毎月3万円以上かかるのが悩みのタネなんだとか。

■将来の希望や夢がない家庭は、浪費が多い

今や、家計の見直しは家族ぐるみで行うことが必須。リビングなど見えるところに「今月使えるお金はあと○○円」とか「今月の目標達成率は○○%」などと貼り出して、モチベーションを維持するというご家庭もある。

しかし何事もやり過ぎは禁物だ。多少、膨らんでいる支出項目があっても、貯蓄割合が理想バランスと同じくらいか上回っているのであれば、十分合格点だとしよう。

それよりも、何のために家計管理を行うのか、家族間の意思疎通をきちんと図ること。これが重要だ。

そもそも家計管理とは、マイホーム購入や子どもの教育資金、老後資金など、将来の目的に必要なお金を貯めるために、ムリ・ムダな支出を減らすことを目的として行うものだからだ。

この目的や希望、方向性がはっきりと明確なご家庭は、個々の「こだわり支出」をガマンしても家計管理に協力的である。逆を言えば、ガマンできないご家庭は、家族としての貯蓄目的やゴールが曖昧なのが原因かもしれない。

方向性といえば注意すべきは、子どもにかけるお金について。これが夫婦間で意見が合致していない場合も少なくない。

「子どもの習い事や塾の費用などは惜しみたくない」という妻と、「そこまでしなくてもほどほどにしておけば……」という夫。根本的な考え方が異なっていると、進学するにつれてそのかい離は広がり、教育費負担は重くなる一方だ。「ここまでお金をかけてきたのだから、途中でやめられない」というのは教育費で陥りがちな思考パターンである。

さらに悩ましいことに教育にお金をかけても、その子どもにとって良いとは限らない。親として子どもの幸せを考えているのは同じなのだから、単なる進学コースだけでなく「どうしたら子どもが幸せになるのか?」を早い段階からきちんと話し合っておくべきだろう。

■買うべきか否か「デシジョン・ツリー」で決めよう

さて現状を把握したら、「それが本当に必要な支出なのか?」を常に意識して、お金を賢く使う習慣も身につけたい。

モノを買ったり、サービスを受けたりする場合、あとで後悔しないようにするには、それが必要なもの(ニーズneeds)なのか欲しいもの(ウォンツwants)なのかを分けて考えるのがポイントである。

前者は、衣食住など、日常生活に欠かせないもの、生きている上で必要なもの。後者は、その人の欲望や欲求、生活をさらに快適に充実させてくれるものだ。

そして、世の中の様々な商品やサービスのマーケティング戦略のほとんどは、後者に訴えるように作られている。たとえば、洋服は生活する上で欠かせないもの(=ニーズ)だが、ほとんどの人は、手持ちの洋服ですでに十分過ぎるくらいだろう。

それなのに、また買ってしまうのは、その素材が上質なものだったり、流行のスタイルだったりするもの(=ウォンツ)だからだ。

とはいえ、モノやサービスに対する価値観は人それぞれで、両者の区別は人や状況によって異なる。要は、自分にとって、本当に必要かどうかの判断や見極めが重要なのだ。

このように生活の中でお金の使い方を考え、実行していく(=意思決定の)過程を「意思決定のプロセス」という(表2参照)

おそらく、私たちは何気なく、このような流れで意思決定を行っているのではないだろうか?

そして、意思決定を行う方法の一つが「デシジョン・ツリー(意思決定の木)」である。
これは、ある決定をするにあたって、起こりうるすべての選択肢や可能性を列挙し、その上で最適な選択肢を決定しようというものである。

表2では、「新しいパソコンが欲しい」という解決すべき問題に対して、4つの選択肢を挙げ、それぞれのメリット・デメリットを考えてみる。その上で決定することによって「合理的な意思決定」が得られるというわけだ。

そして何かを行動・消費すれば、支払った代償・お金の他に、それを選んだことによって放棄したり得られなかった部分(機会費用・損失)もある。

例えば、子どもの教育資金であれば、昨今の晩婚化や初産の年齢を考慮すると、教育費にばかり注力してしまうと、自分たちの老後資金を脅かしかねないということだ。真に合理的な意思決定とは、目先の利益だけではなく、選ばなかった部分の価値も含めた費用と選んだ方の効用を比較してはじめて行えるものだということを覚えておきたい。

(ファイナンシャルプランナー 黒田尚子=文)